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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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25本目

「な、なんじゃこりゃあああ!!」

 その日、私立探偵の多々木(たたき)(はじめ)は、朝から自分の事務所で素っ頓狂な声をあげた。2016年4月2日のことである。

「どうしたんです、所長」

 事務所の紅一点にして所長以外では唯一の職員である若林芽衣が聞いた。


「メ、メールがきちゃった……」

「誰から」

「……しらない人から」

「はい?」

 またいつもの与太話かと芽衣は眉をひそめた。だが、当の所長はエグイくらい真剣な表情をしている。


「見てよ若林くん、まぎれもなく、しらない人からのメールだ」

 言って探偵はスマホを芽衣に渡した。怪訝そうに芽衣が画面を覗き込む。メールはつぎのような文面だった。



From:水戸かず子〈kyazuko_mito_children@qmail.com〉

Subject:チャンエー院ホウマさんへ

Date:2016/04/02 09:54


タタキ様。とつぜんのメールで失礼します、私は水戸かず子と申します。私はあなたのハンドルネームとメールアドレスを、知人から教えてもらいました。あなたが探偵であると聞き、ぜひご相談したいことがあります。このメールを読んでいただいたなら、どうか電話番号を添えてご返信くださいますよう、切にお願いいたします。



「えーっ……所長、これって、あやしくないですかあ」

「しかし、相手はボクの真名をしっている」

 心配する芽衣をよそに、多々木はすぐに返信メールを送った。こういう場合、探偵の積極性はハンパなかった。

【探偵のタタキです。事務所の電話番号です。042-***-****】

 そんな文面で返信した。


 その後、水戸という女性から電話があり、彼女はここへ来社することを希望した。偶然近くに住んでいるとのことで、最初のメールから30分もたたないうちに本人と探偵との面会が実現した。

 事務所にあらわれたのは、それは美しい女性だった。


「所長の多々木です。どうぞ、おかけになって下さい」

 探偵は型どおりのあいさつをし、水戸にソファをすすめた。

「お茶をどうぞ」

「ありがとう」

 湯飲みを差し出す芽衣に礼を言って、水戸はお茶に口をつけた。


「さっそく用件に入っても、いいですか」

「ど、どうぞ」

 苦笑しながら探偵は答えた。この水戸かず子という女、ただの美人さんじゃなさそうだ。堅気の人間ではないかもしれない。

「多々木さんは、青木岳人という男性をご存じですか」


「……あ、いや、ちょっと待って」探偵はあわてて手を振った。「これでも信用を生業(なりわい)にしている身でね。たとえボクがその人物をしっていたとしても、守秘義務の観点から、しっていると言えないこともある」


「そうですか、では質問を替えます。あなたはTPメールについて、何かしっていますか」

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