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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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23本目

 山田の発言はアタシにとってショッキングだった。

 彼とアタシが恋人同士だったなんて……。にわかには信じられない、けれど、絶対にちがうとも言い切れない。

 アタシはパラグライダースという、かなりヤバめの組織に属している。しらぬうちに洗脳、あるいは記憶の操作をされている可能性は否定できない。

 いちおう確認のために彼に聞いた。


「あなたの彼女は花子さんでしょ」

「誰て?」

「だから、山田花子さん。さっきまでこの部屋で、あなたを待っていたのよ?」

「はっ、山田一郎の彼女が山田花子なんて、どんな確率だよ。そいつはたぶんスタッフだ」

「スタッフ……」

 うわ、マジか。なりすましで花子を欺いたつもりだったが、逆に騙されていたなんて。


「彼女はここで何を」

「密室を(こさ)える下準備だろう。転送前にオレの所持品……スマホ、財布、そして部屋の鍵、それらをこの部屋に戻す必要があった。そして、」

「ちょっと待って、転送て……なに?」

「やつらはオレを殺して、つまり肉体を奪って、記憶データに変換した。これが転送に必要な条件その1」


 アタシはもう口を挿まなかった。山田はまるで、あと数十秒で幕が下りるまえに宣伝文句をぜんぶ言わなきゃいけない人くらい早口だった。

「条件その2。この部屋にゼリーポッドを置く。人体形成に必要なコロイド物質が入った容器だ。それ目がけて外部から転送開始。すると、引田天●もびっくりの人体移動の完成ってわけだ」

「きゃっ」

 思わず女の子っぽい悲鳴が口から出た。こんなん、誰だってビビるわ。山田一郎が、予告どおり、溶けはじめた。


 ゲルから生まれたゲル人間。いや、ゼリーマンか……。溶け出すスピードはすさまじく、山田の身体はあっちゅう間に雲散霧消した。

 あとには粘液に(まみ)れた彼の衣服だけが残った。

 さすがのアタシも廊下にへたり込んでしまった。まったく、次から次へと。


 だがすぐに立ち直れるのが、かず子ちゃんのすごいところだ。とりあえず、この部屋はすぐに出たほうがいい。

 山田をこんな目に遭わせた連中が密室の完成をたしかめにくるだろうし、そしてそれは成らなかったわけだから、たぶん連中は報復の矛先をアタシに向けてくるはず。

 アタシと山田が恋人だった説、が正しければの話だが。

 ……あれ? そもそもアタシは【世界線1】の出身のはず。ここ【世界線2】にいた山田一郎と以前に交われたはずがない。

 まあいい、考えるのはあとだ。アタシは今度こそこの204号室を出た。戦利品として、山田のスマホだけここから持ち出すことにした。


 疲れた。どのミッションも基本的には草臥(くたび)れるのだが、今日のは格別だった。

 アタシは組織との電話連絡を試みた。それで証明できるはずだ。水戸かず子という女が、この【世界線2】に存在する(した)かどうかを。

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