22本目
2016/4/1 22:02
速攻で仮病が治ったアタシは、花子に礼を言い、山田一郎の部屋を出た。今夜ここを出るのは都合3回目。だが、しかし。
アタシはアパートの周囲に潜伏し様子を見ることにした。山田花子のことが気になったし、彼女を尾行てみようと考えたのだ。
花子がいくら待とうが一郎は帰ってこない。よもや、彼のいない部屋で花子が夜を明かすことはないだろうとアタシは踏んでいた。
予想どおり花子が部屋から出てきた。鍵をかける様子はない。部屋の電気だけは消したようだ。
アタシは尾行モードに入った。いや、入ろうとした。時計は22時15分を指していた。
信じられない光景を目の当たりにした。204号室の部屋の明かりがふたたび点いたのだ。
これ、どういうこと? 花子が出て部屋は無人のはず。まさか、誰かが潜伏していたのか……。
居ても立ってもおられずアタシは、立ち去る花子を放って、ふたたび山田一郎の部屋に入ろうとした。ところが。
鍵がかかっていてドアが開かない。はい、これで部屋に人がいるのは確定でございます。その誰かが内側から施錠したのだ。
心臓がバクバクする。インターホンを鳴らすか、それともドアをノックするか。だがドアのむこうの相手に何て言う。あなた、部屋に潜伏してましたね、とでも?
と、いきなりドアがひらいた。部屋から顔を出したのは山田一郎、その人だった。
まあまあ、ゆうても想定の範囲内だ。ほんの数時間前にアタシは青木とおなじような体験をしている。
だが、山田の口から出た言葉にアタシは度肝を抜かれた。
「かず子……おまえ、どうして」
「はい?」
どうして……。なぜこの男はアタシの名をしっているのか。
「逃げろ、いますぐここから」
「ちょ……ちょっと山田さん?」
「はやく!」山田は叫んだ。「時間がないんだ。いますぐ遠くへ逃げろ」
そして彼はドアを閉めようとした。アタシはそれを見逃さなかった。すかさず靴のつま先でブロックする。つま先には安全靴ばりに鉄が仕込んである。
手荒なマネはしたくなかったが、場合が場合だ。アタシはひみつ道具のオニオンスプレーを、ドアの隙間からぷしゅっと山田に噴きつけた。
彼は小さく呻き後退さった。ドアがフリーになったのでアタシは玄関の内側に侵入した。
「ば、ばかやろう。何してんだよ……」
座り込み、目を痛そうに擦りながら山田が言った。
「説明してちょうだい。なぜ、アタシの名をしっているの」
「はあ? おまえ、オレを忘れたのか……。いや、そんなことより時間がない」
「何なの、さっきから。時間がない時間がないって」
「もう、あと数分でオレは消えるんだよ……ゲル状になって」
彼は泣いていた。玉ねぎの汁が目に染みたせいだけではないようだ。
「落ち着いて。アタシにぜんぶ話して」
「密室をつくるように言われた。部屋の内側から鍵をかけてドアガードもして、そうしてオレが消えれば密室は完成する……はずだった。このミッションを達成しなければ、恋人である水戸を襲うって、やつらが」
「恋人って……アタシが? あなたの?」




