17本目
この、もの解りがいいと言いますか、SF大好きっ子じゃなくて中年探偵の多々木というおっさんに、オレは世話になることになった。
もちろん無料じゃない、それ相応の代価は支払う。
ボディガードとしてはちょっと頼りなさそうだが、たぶんこの事案は腕力じゃない。どんなかたちでオレに死の運命が振りかかってくるか、わかったものじゃないからだ。
因果関係はわからないが、この探偵は1ヶ月後の未来にオレにメールを寄越す。べつの世界線にいる過去のオレ宛てに……。
そうして、いろいろあって、いまオレがここにいる。
今日は2017年4月1日。デッドラインの5月2日まで、あと、ひと月と1日。
「それじゃ、そろそろボクの最終奥義、出すわ」
「もしかして所長……あ、お茶をどうぞ」
若林芽衣さんという、この事務所で唯一の女性職員がお茶を出してくれた。
おっとりしていて可愛らしいかただ。美人だがツンデレの水戸女史とは大ちがい、なんて言ったら怒るだろうな。
それにしても芽衣さん、オレと所長(探偵)さんの荒唐無稽なやり取りを聞いてもまるで動じない。
天然なのか、それとも彼女にとっては日常茶飯事なのか……。
最終奥義を出すと言って多々木探偵はデスクへ移動した。固定電話をつかってどこかへ連絡するらしい。
以下の会話はあとで探偵から聞いた内容である。
「アロハー」
「もしもし、吉田さん? 多々木ですけど、いま大丈夫かな」
「……なんじゃ、探偵か。どうした」
「じつは、やっかいな案件がきちゃいまして。あなたの力をお借りしたい」
「だが断る。いまワシはヴァカンス中じゃ」
「え、」
「アロハと言ったろう。いまハワイに居る、ワイハーじゃ。あと1週間は帰れん」
「そんな……」
「常夏のビーチで、あられもない姿で寝そべっておる」
「気持ちわるい気持ちわるい」
「し、失敬な! これでもワシは、このなかで50歳は誰でしょうin 20代水着女子に出られるくらい、ナイスバデなんじゃぞ?」
「タイムスリップ」
「何じゃと!」
「タイムスリップしてきた青年がいるんです。ぜひ、あなたに会わせたい」
「……善処しよう」
言って電話の向こうの人物はブチッと通話を切った。戻ってきた探偵が吉田という人についてオレに説明してくれた。
めんそーれ吉田。凶祥寺の母と呼ばれる彼女は占い師である、らしい。
母なのに彼女を凶祥寺で見ることは稀であり、店舗も持たず彼女が占い師としっている者も少ない。多々木さんはその稀なひとりだった。
吉田は年齢不詳だが、50歳を超えていることはたしかだそうだ。
事務所のインターホンが不意に鳴った。さっきオレが鳴らしたのとおなじ音色だったから、すぐにわかった。
はあい、と言って芽衣さんが応対に出た。なんだオレ以外にお客か? ちょっと勘弁してほしかった。
彼女がドアを開けた瞬間、ぱあっと閃光が迸った。
この光を見るのは何度目だろう。オレには忌わしい記憶しかない。これを見たとき、かならず世界線の変動が起きていた……。




