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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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17本目

 この、もの(わか)りがいいと言いますか、SF大好きっ子じゃなくて中年探偵の多々木というおっさんに、オレは世話になることになった。

 もちろん無料(ただ)じゃない、それ相応の代価は支払う。

 ボディガードとしてはちょっと頼りなさそうだが、たぶんこの事案は腕力じゃない。どんなかたちでオレに死の運命が振りかかってくるか、わかったものじゃないからだ。


 因果関係はわからないが、この探偵は1ヶ月後の未来にオレにメールを寄越す。べつの世界線にいる過去のオレ宛てに……。

 そうして、いろいろあって、いまオレがここにいる。

 今日は2017年4月1日。デッドラインの5月2日まで、あと、ひと月と1日。


「それじゃ、そろそろボクの最終奥義、出すわ」

「もしかして所長……あ、お茶をどうぞ」

 若林芽衣さんという、この事務所で唯一の女性職員がお茶を出してくれた。

 おっとりしていて可愛らしいかただ。美人だがツンデレの水戸女史とは大ちがい、なんて言ったら怒るだろうな。

 それにしても芽衣さん、オレと所長(探偵)さんの荒唐無稽なやり取りを聞いてもまるで動じない。

 天然なのか、それとも彼女にとっては日常茶飯事なのか……。

 

 最終奥義を出すと言って多々木探偵はデスクへ移動した。固定電話をつかってどこかへ連絡するらしい。

 以下の会話はあとで探偵から聞いた内容である。


「アロハー」

「もしもし、吉田さん? 多々木ですけど、いま大丈夫かな」

「……なんじゃ、探偵か。どうした」

「じつは、やっかいな案件がきちゃいまして。あなたの力をお借りしたい」

「だが断る。いまワシはヴァカンス中じゃ」

「え、」


「アロハと言ったろう。いまハワイに()る、ワイハーじゃ。あと1週間は帰れん」

「そんな……」

「常夏のビーチで、あられもない姿で寝そべっておる」

「気持ちわるい気持ちわるい」

「し、失敬な! これでもワシは、このなかで50歳は誰でしょうin 20代水着女子に出られるくらい、ナイスバデなんじゃぞ?」


「タイムスリップ」

「何じゃと!」

「タイムスリップしてきた青年がいるんです。ぜひ、あなたに会わせたい」

「……善処しよう」


 言って電話の向こうの人物はブチッと通話を切った。戻ってきた探偵が吉田という人についてオレに説明してくれた。

 めんそーれ吉田。凶祥寺の母と呼ばれる彼女は占い師である、らしい。

 母なのに彼女を凶祥寺で見ることは(まれ)であり、店舗も持たず彼女が占い師としっている者も少ない。多々木さんはその稀なひとりだった。

 吉田は年齢不詳だが、50歳を超えていることはたしかだそうだ。


 事務所のインターホンが不意に鳴った。さっきオレが鳴らしたのとおなじ音色だったから、すぐにわかった。

 はあい、と言って芽衣さんが応対に出た。なんだオレ以外にお客か? ちょっと勘弁してほしかった。

 彼女がドアを開けた瞬間、ぱあっと閃光が迸った。

 この光を見るのは何度目だろう。オレには忌わしい記憶しかない。これを見たとき、かならず世界線の変動が起きていた……。

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