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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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15本目

「お電話ありがとうございます、多々木探偵事務所です」

 事務所の紅一点にして所長以外では唯一の職員である若林芽衣が、いつもの明るいトーンで電話に出た。2017年4月1日のことである。


「……もしもし、青木という者ですが。多々木さんは、いらっしゃいますか」

「所長はいま外出しております。お昼頃には戻る予定ですが……ご新規のお客さまですか?」

「ええ」と電話のむこうの男は低い声で言った。「至急、相談したいことがあって」

「本日13時からであればご予約が可能ですが、ご来社されますか?」

「伺います。そちらの場所をおしえてください」


 青木氏に事務所の場所とアクセスを伝えたあと、受付担当の若林ですと言って芽衣は電話を切った。

 それからホワイトボードに13時、青木氏来社と書く。商売繁盛、まことにけっこう。

 所長の多々木からラインがあり、お弁当を買って帰るが若林くんは何がいい? とのことだったので、からあげ弁当でと彼女は返信した。


 正午ちょい前に多々木は弁当持参で帰社した。

「おかえりなさい、所長。13時から予約が1件入ってます、来社です」

「ああ、そう。やっぱ新聞広告の効果かな、うちが多忙なんてめずらしい」

「いま、お茶を淹れますね」

 いつもどおりのランチタイム。多々木がのり弁で芽衣がからあげ弁当というのも、これまた定番だった。


 13時きっかりに青木と名乗る青年は事務所へやってきた。

「所長の多々木です。どうぞ、おかけになってください」

 型どおりのあいさつをし探偵は名刺をわたす。シンクでは芽衣がお客に出すお茶を用意しているところだ。

「多々木さん。これからオレがする話は、誓って与太話なんかじゃありません。証拠だってあります」


 また唐突だな、と多々木は思った。だが導入(はいり)で依頼人の真剣さみたいなものが大概わかる。この青年は切羽詰っている。

「安心して話してください。どんなことでも、けっこうです」

「オレ、過去からきたんです」

「ほう」と探偵は目を輝かす。「おもしろいですね。未来から、じゃなくて?」

「未来からメールがきて、世界線を移動し、いまオレがここにいるんです」


 なるほど、これはおもしろそうだ。が、同時にもっさ(・・・)めんどくさそうでもある。

「証拠って、その未来からのメールですか。拝見しても?」

 無言でスマホを寄越す青木。メールの文面を見た多々木は、目玉が飛び出すんじゃないかってほどに刮目した。

 差出人の「チャンエー院ホウマ」は探偵がプライベートで使用しているハンドルネームだった。qメールのアカウントも彼自身のものだ。


「ちょっと失礼」

 そう断って、多々木は自分のスマホをとり出しqahoo! にログインする。昨日3月31日の20時13分に青木からメールがきていた。

【青木です。元の世界線に戻りました。助けてください】との文面だった。

「昨日、ボクにメールをくれた?」

 額の汗を拭い探偵は聞いた。丁寧な口調ももうヤメだ。


「はい。届いていましたか」

「申し訳ない……このメール・アカウントはプライベート用だが、つねにチェックしているわけじゃないんだ。見逃してしまった」

「まあ仕方ないです。おかげで、こちらの事務所の電話番号を必死に探しましたが」

「どうやって? うちは新聞に広告を出すような零細企業だ。ホームページすらない」


「その広告がオレの部屋にあったんです。偽札に混じって」

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