14本目(★)
「え、ウソでしょ」
水戸かず子が言った。お得意の【世界線年表】に彼女が追記しようとした矢先のことだった。
「なんで? なんでもう追記されているの……」
泣きそうな表情でオレにそう訴える。
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【世界線1】
2017年3月31日に青木が消失した世界。荷物が届けられた世界。
(追記)
2016年4月1日。水戸、任務で青木宅を訪問し荷物を届ける。その後、青木とともに世界線2へ移動。
【世界線2】
本来、青木が存在しなかった世界。山田一郎というダミー(?)。
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「追記って、この2016年4月1日ってところ?」
「そうよ。しかもあなた、さっき、それをしっているような口振りだったじゃない」
「あれは何て言うか、そんな気がしたといいますか」
「……待って」いちど大きく深呼吸してから彼女はつづけた。「記憶に齟齬が生じているわ。あるいは、あのメールが関係しているのかもしれない」
未来から送られてきたメール。オレの死を警告したメール。オレのほうこそ泣きそうなんですけど。
「ふう、ごめんなさい。こんなときこそ冷静にならないとね」
言って彼女は自分のスマホを取り出した。カメラを起動し年表をパシャリ。
「何してんの」
「証拠写真てやつ。年表に追記した記憶が飛んだときのための、ね」
「スマホのデータだって、あやしいもんだぜ?」
「やれることはぜんぶ、やるわ」
「頼りにしているぜ、女スパイさん」
オレは苦笑して言った。
「ついでに言っておくけど、あなたのことはアタシが守ってみせる。だって、このままあなたを死なせたら寝覚めがわるいもの」
「そりゃどうも。でも、アンタの身だって危ないんだよ」
「甘く見ないでちょうだい。だてにレオタード着て空飛んでいないから」
もうね、こうなったらまな板の上の鯉だ。好きに捌いてちょうだい、って感じ!
「とりあえず、この部屋を出たほうがよさそうね。山田一郎についてしらべるのは危険みたい」
「どうすんの、アンタの部屋に行くの? 山田花子がいるかもよ?」
「いたら蹴っ飛ばしてやるわ、この……」
「長い脚で、だろ?」
「だから他人の頭のなかを覗かないでよ!」
「覗いてない。誓ってオレにそんな能力はない」
めっちゃキレられるかと思ったが、すっと彼女はクールダウンした。
「……信じることにするわ。たぶん、アタシはあなたに話しているんだと思う、いろいろと。その記憶をなくしているか、あるいは、時間的な順番が逆になっているのか……」
「そうかもな。現にオレらは時間軸を漂流しているわけだし」
「ええ。いまみたいに気づいたこと、どんどん口にしてちょうだい」
「怒らない?」
「怒らない。もしかすると、こうして対面しているアタシとあなたで、流れている時間がちがうのかもしれないから」
なんだか、オレと彼女のあいだに見えない河が流れているような、そんな気がした。




