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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
15/32

14本目(★)

「え、ウソでしょ」

 水戸かず子が言った。お得意の【世界線年表】に彼女が追記しようとした矢先のことだった。

「なんで? なんでもう追記されているの……」

 泣きそうな表情でオレにそう訴える。


********************

【世界線1】

 2017年3月31日に青木が消失した世界。荷物が届けられた世界。

(追記)

 2016年4月1日。水戸、任務で青木宅を訪問し荷物を届ける。その後、青木とともに世界線2へ移動。


【世界線2】

 本来、青木が存在しなかった世界。山田一郎というダミー(?)。

********************


「追記って、この2016年4月1日ってところ?」

「そうよ。しかもあなた、さっき、それをしっているような口振りだったじゃない」

「あれは何て言うか、そんな気がしたといいますか」

「……待って」いちど大きく深呼吸してから彼女はつづけた。「記憶に齟齬が生じているわ。あるいは、あのメールが関係しているのかもしれない」


 未来から送られてきたメール。オレの死を警告したメール。オレのほうこそ泣きそうなんですけど。

「ふう、ごめんなさい。こんなときこそ冷静にならないとね」

 言って彼女は自分のスマホを取り出した。カメラを起動し年表をパシャリ。

「何してんの」

「証拠写真てやつ。年表に追記した記憶が飛んだときのための、ね」

「スマホのデータだって、あやしいもんだぜ?」

「やれることはぜんぶ、やるわ」


「頼りにしているぜ、女スパイさん」

 オレは苦笑して言った。

「ついでに言っておくけど、あなたのことはアタシが守ってみせる。だって、このままあなたを死なせたら寝覚めがわるいもの」

「そりゃどうも。でも、アンタの身だって危ないんだよ」

「甘く見ないでちょうだい。だてにレオタード着て空飛んでいないから」


 もうね、こうなったらまな板の上の鯉だ。好きに(さば)いてちょうだい、って感じ!

「とりあえず、この部屋を出たほうがよさそうね。山田一郎についてしらべるのは危険みたい」

「どうすんの、アンタの部屋に行くの? 山田花子がいるかもよ?」

「いたら蹴っ飛ばしてやるわ、この……」

長い脚(ガイナーなシーアー)で、だろ?」


「だから他人の頭のなかを覗かないでよ!」

「覗いてない。誓ってオレにそんな能力はない」

 めっちゃキレられるかと思ったが、すっと彼女はクールダウンした。

「……信じることにするわ。たぶん、アタシはあなたに話しているんだと思う、いろいろと。その記憶をなくしているか、あるいは、時間的な順番が(テレコ)になっているのか……」


「そうかもな。現にオレらは時間軸を漂流しているわけだし」

「ええ。いまみたいに気づいたこと、どんどん口にしてちょうだい」

「怒らない?」

「怒らない。もしかすると、こうして対面しているアタシとあなたで、流れている時間がちがうのかもしれないから」


 なんだか、オレと彼女のあいだに見えない河が流れているような、そんな気がした。

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