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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
14/32

13本目

「あ、ヤバっ」

 水戸かず子がいきなり言った。それからテーブルに肘をつき、髪をわしゃわしゃと混返(まぜっかえ)しながら、

「ヤバいヤバいヤバいヤバい……」と連呼した。2016年4月1日、夜のことである。

「落ち着けって。アンタがオレと一緒に【世界線1】からこの【世界線2】に移動したからって、まだ山田花子的な存在がいるとは、かぎらないんだからさ」

 すると彼女はギョッとしてオレを見た。


「なに……アタシの頭のなかを覗いたの? 怖っ」

「……いや、その。この話、前にもしなかったっけ」

「前って、いつよ。さっき会ったばかりでしょ」

 かなりのパーセンテージで彼女はドン()いている。そりゃわかるけど、そう思ったものは仕方がない。

 気まずい沈黙があった。それを打破したのはメールの着信音だった。


「オレのスマホにメールだ。……どうなんだろう、スマホの名義も山田一郎に書き換わっているのかな」

 彼女に聞えるように言ったのだが返事はなかった。もしかしてキレている?

 何の気なしにメールをひらいた。だって、これはオレのスマホでもあるわけだからね!



From:チャンエー院ホウマ〈chang_a_inhouma@qmail.com〉

Subject:130文字しか送れません

Date:2017/05/02 17:25


青木君。私はタタキという探偵です。君はいま別の世界線の2016年にいますね。残念だが君が元の世界線の2017年に戻ると、君は誰かに殺されてしまう。5月2日に君は死ぬ。世界線の移動にはトリガーとなる行動がある。卒業アルバムを開いてはいけない。卒業アルバムを開いてはいけない。



 もはや多少のことでは驚かないと思っていた。だがこれはダメだ、手の震えが止まらない。これが死の宣告ってやつか。

「水戸さん、キレているところ申し訳ないけど……」

「キ、キレてなんかないわよ」

「ヤバいメールがきちゃった。読んで」

 オレはスマホを彼女に渡した。

 メールを読む彼女の表情は真剣そのものだった。まあ、そりゃそうだよね。人の生死がかかっているわけだから。

 スマホを置いて彼女が言った。

「想像以上にヤバい状況ね。このメールの内容が本当なら、あなたは、もとの世界線にはもう戻れないってことよ」

「そうだね、だって殺されちゃうからね」


「チャンエー院ホウマとかいうワードに心あたりは?」

「ない」オレは言った。「探偵さん……タタキさんだっけ。わざわざ名乗っているわけだし、なんだろう、秘密の合言葉か何かかな。あるいはデフォルトの設定か」

「とりあえず返信してみたら」

「そうだね」


 青木です。メールの内容は本当ですか? と短い文章で返信した。いちおう送信はされたみたいだが、しばらく待っても再返信はなかった。

「どうやら、そうぽんぽんメールをくれる状況でもなさそうだな。制限文字数内で文章は練られているし、返信が必要ならそう書いてあるだろ」

「たしかに。卒業アルバムを開いてはいけない、を2回繰り返しているところがリアルってゆうか、エグイわね」

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