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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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11本目

 老婆から依頼を受けた多々木は、さっそく佐須刑事と連絡を取ろうとした。

 1年前に失踪したという老婆の孫について警察のデータベースを拝借しようと考えたのと、新聞広告の件で勘違いがあったことを刑事に詫びるためである。

 その矢先、事務所の固定電話がけたたましく鳴った。虫の報せというやつか、中年探偵はひどくイヤな予感がした。


「お電話ありがとうございます、多々木探偵事務所です」

 事務所の紅一点にして所長以外では唯一の職員である若林芽衣が、いつもの明るいトーンで電話に出た。

「……はい、少々お待ちください。所長、お電話です」

 受話器を差し出す彼女に多々木は聞いた。

「佐須刑事から?」

「はい」

 まったく、なんて日だと思いつつ探偵は受話器を取った。


「もしもし、ボクだけど」

「佐須だ。急いでいるから手短に言うぞ? 青木岳人が見つかった、遺体で」

「え、」

「しかも数時間前に殺されたらしい。ひと月も行方しれずだった男が突然すがたをあらわし、今日、殺されたんだ」

「マジですか……。きみの刑事としての勘が的中したんだね、最悪のかたちで」

「ああ、これから現場検証とかでバタバタする。もしかするとアンタの身も危険かもしれないから急ぎ連絡した。くれぐれも注意してくれ」

 証拠品に含まれていた広告記事。そこには多々木探偵事務所の電話番号があり、赤ペンで丸までされていた。刑事が心配するのも、もっともだ。


「ひとつだけいい? 新聞広告のことなんだけど」

「何だ」

「今年の3月に広告を出したと言ったよね。それは事実なんだけど言葉が足りていなかった。毎年(・・)3月に出していたみたい。すくなくとも3年以上前から」

「……そうか。まあ、くわしい話はまただ」

 よほど急いでいるらしい刑事は早々に電話を切った。まあ青木が殺されたいまとなっては、広告記事など些事にすぎないのかもしれない。

 けっきょくもうひとつの用件、老婆からの依頼については話すことができなかった。


「ちょっと出かけてくる」

 これ以上苦い顔をしているのを芽衣に見せたくなかったので、多々木は外の空気を吸いに出た。

 事務所からほど近い場所に都立胃の頭公園があった。

 缶コーヒーを買い、わりと人の少ないジブリ側のベンチに座ってそれを飲む。中年の哀愁ここに極まれり、といった感じである。


 正直、後味がわるかった。陰謀か、あるいは単なる偶然かもしれなかったが、多々木は青木という青年の失踪事件に関わりがあった。

 だが事件は青年の死という最悪の結末をもって収束した。いや、まだ事件は終わってなどいないが、これ以上は本当に警察の仕事だ。

 青木を見つけられず、彼を死なせてしまった。ボクは無力だ。


「浮かない顔じゃの、探偵」

 ふと誰かに話しかけられた。その口調に多々木は聞き憶えがあった。

「あなたは……」

 見ると、ローブをまとった老女が目の前に立っていた。がっつりフードを被っているため顔が暗い。

「吉田さん」

「ひさしぶりじゃの」


 凶祥寺の母と呼ばれる「めんそーれ吉田」は占い師である、らしい。

 母なのに彼女を凶祥寺で見ることは(まれ)であり、店舗も持たず彼女が占い師としっている者も少ない。

 多々木はその稀なひとりだった。

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