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30本目の世界線  作者: 大原英一
雷鳴
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10本目

 山田一郎の部屋に独り取り残されたオレ。ここはかつてオレの部屋だった。家具や家電製品の配置もそのままだ。

 あやしいスパイもどき女・水戸かず子の推測では、タイムスリップしたことにより世界線が変動し、オレという存在そのものがない世界にオレたちは飛び込んでしまったらしい。

 青木(オレ)の代役を山田がつとめる世界、とでも言いましょうか……。


 落ち込んでいても仕方ないので、彼女の言いつけどおり山田一郎の痕跡についてしらべることにした。

 スマホとPCからまずは行ったろかいな。メールやSNSでのやり取りを見れば、あるいは彼の交友関係などがあきらかになるかもしれない。


 ふと、本棚の卒業アルバムに目が行った。

 小中高と3冊あるが、すべてオレの母校のものだった。あたりまえだけど気味がわるかった。

 山田一郎は本当にオレのダミーなのだろうか。それともオレが彼のダミーなのか。

 辛抱たまらず小学校の卒アルを引っ張り出した。そこに満面の笑みを浮かべた山田少年が写っていると思うとドキドキが止まらなかった。


 表紙をめくったとき、まるで世界が破裂したかのような閃光がオレをつつんだ。

 うそーん。また、パターンじゃないの?

 この光をオレと水戸さんはすでに経験している。これによってオレらはタイムスリップしたのだ。

 とっさにスマホを確認した。待ち受け画面に表示されている日付けを。


【2017年3月31日】


 ……マジですか。こういう結末なの?

 いや、まだ安心できない。オレという存在が消えていたままでは意味がない。無事に帰還したとは言えない。

 すぐに財布のなかの免許証を確認する。よかったオレだ、青木岳人の名前と写真が入っている。こんな嬉しいことはない。


 これはアレやね、いわゆる夢オチってやつやね。オレさえ黙っておけば、あの忌わしい記憶を証明するものは何もない……て、えっ?

 異物が視界に入った。ベッド脇の棚に、とんでもないそれが。

 一瞬、札束かと思い速攻で手に取ったが、何のことはないちゃち(・・・)な偽札だった。新聞紙を紙幣のサイズに切り揃えてあるだけの。

 荷物を届けにきたのよ、という彼女の声がフラッシュバックした。これがその荷物だというのか……。


 やはり現実だ、夢なんかじゃない。

 彼女がくれた護身用スプレーもポケットのなかに入っていた。世界は連続している。一見元どおりのようでも、あきらかにちがっている。

 外の空気が吸いたくなった。

 そうだコンビニへ行こう、パチンコ屋でもいい。この部屋の外にもたしかに世界が存在していることをたしかめたかった。


 コンビニへ向かう途中、池の森公園にさしかかった辺りで肩を叩かれた。振り返るとそこに男が立っていた。山田一郎だった。

 早い早い早い……オレがこの世界で会いたくない人ナンバーワンが、いきなりあらわれた。

「ちょっと顔を貸してもらえるかな」

 山田は言った。その手にはナイフが握られていた。


 テンションがぶわー上がる。ここでしょ。こういうときのための護身用スプレーでしょ。

 すかさずオレはそいつをポケットから取り出し、ヤツにむかって噴きつけた。

 そのとき一迅の風が吹き、スプレーの成分がぜんぶオレのほうにやってきた。

 ぶはっ、こりゃたまらん……。

 涙がぼろっぼろ出るなか、かろうじて山田のすがたを視界に捉えると彼は涼しい顔をしている。

 花粉症対策みたいなごつい眼鏡をしているにしても、まるで風が吹くことを予知していたかのようなノーダメージっぷり。


 つぎの瞬間、往年のアーネストホーストが放ったかのような鋭い蹴りがオレの鳩尾に食い込んだ。

 無理。オレは意識をうしなった。

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