70話
子供の頃の俺だ。
太陽が真上に上り、家の煙突からは飯の旨そうな匂いの煙が上がっている。庭には家族が集まり、俺の弓の練習を見守っていた。
「たくさん練習して上手くなったから、見てもらうんだ」
俺はそう意気込んでいたが、矢を放つ瞬間に左手の動作を誤り、弾けた弦が前腕を強く打ち付けた。あまりの痛さに、俺は泣き叫んで弓を投げ捨ててしまう。
ばあちゃんは俺と同じくらい痛そうな表情でぎゅっと抱きしめてくれたが、父さんは「弓を捨てるとな事だ!」と激しく怒り飛ばした。怒られた俺は、ますます声を上げて泣きじゃくって……。
もう、二度と戻ってはこない幸せな日々。
シゲンは鼻の奥がツンとするような痛みで目を覚ました。
窓から差し込む光は、すでに夕暮れ色に染まっている。かなり熟睡できたようだが、果たして体調はどうだろうか。
ベッドの上で身体を起こしたシゲンは、ある違和感を覚えた。
疲れが残っているどころか、頭も体も驚くほどすっきりとしていて、今すぐにでも走り出せそうなほど爽快なのだ。
シゲンはぎゅっと拳を握りしめる。身体の内側から力が満ち溢れてくる感覚。自分の身に、何かが起きている。
シゲンはベッドから飛び起きると、すぐさま緑田の元へと向かった。
◇
「特殊スキルを手に入れたようだな」
感じた違和感を説明すると、緑田はしばらくじっとシゲンを見つめた後、静かに口を開いた。
「とくしゅ……すきる……?」
「特殊スキル『黄金の風をゆく梟』。弓術専用スキルだ。『射る先にある闇や草木などの障害物を見通し、風を味方に付けることができる』……と書かれているな」
「とくしゅ……つきる……」
「おい、大丈夫かシゲン。『つきる』じゃなくて『スキル』だぞ。一体どうしたんだ?」
ぽかんと口を開けて首をひねるシゲンを見て、傍らにいたレッドシューズが思わず吹き出した。
「アーサーさん、『特殊スキルは神の祝福、持てる者は百人に一人なり』という言葉を忘れたんですか? 最初から持ってる人間にとっちゃどうってことないかもしれませんが、持ってない人間からすれば喉から手が出るほど欲しい垂涎の標ですよ。シゲンが口を開けたまま固まっちまうのも当然ですって」
「そうか、そうだったな。ってことはシゲンは今、ものすごく嬉しくてビックリしてるってことか」
「そりゃそうです。それに、本来なら特殊スキルの有無を知るには高額な鑑定の魔道具が必要なんですから――」
「特殊スキル……!! まさか、この俺に!? 嗚呼、神よ! ありがとうございます! 嗚呼、神よ……!!」
突然正気に戻ったシゲンはその場に膝をつき、ぼろぼろと涙を流しながら天を仰いだ。
「そんなにすごいことなのか……」
普段はプライドが高く冷めて見えるシゲンの劇的な変貌ぶりに、緑田は思わず圧倒されていた。
「アーサーさん! アーサーさんも本当にありがとうございます! 俺にあの仕事を任せてくれたから……きっとそのお陰です!! 特殊スキルを手に入れることは、我が家の先祖代々の悲願でした。それがまさかこんな形で叶うなんて……嗚呼、本当に、本当にありがとうございます!」
シゲンは緑田の手を握りしめ、いつまでも涙ながらに喜びをかみしめていた。
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