69話
「お、おい……大丈夫か!?」
「なにがですか?」
シゲンが問い返す。
「目が充血しているぞ。もしかして寝てないんじゃないか?」
「実はそうなんですよ。まあ、入ってください」
窓が小さく狭い部屋の中に入ると、同居人の姿はなかった。朝食を食べるために外へ出ているのだとシゲンは言った。
昨日の戦いは見事に勝利した。しかしまだ終わったわけではない。むしろ、これからが佳境だった。
ベッドに腰掛けた緑田が問いかける。
「……まだやれるか?」
シゲンはフッと笑った。
「なんだ、それを確かめに来たんですか?」
「いくら盗賊相手とはいえ、八人もの命を奪ったんだ。並大抵の重圧じゃない」
「俺の親父も、爺さんも、曽爺さんも、弓の腕一本で家族を食わせてきたんです。そして俺自身、子供の頃からバカみたいに弓の鍛錬を重ねてきた。これくらいのこと、とっくに覚悟の上ですよ」
「それなら、今日も頼む」
緑田はあっさりと言い放った。シゲンの答えを、最初から分かっていたかのような口振りだった。
「今度の相手は二十人以上。下手をすれば昨日の三倍だ」
「やりますよ」
「よし、それじゃあよろしく頼む」
緑田の言葉を聞き、シゲンはひとつ息を吐いた。
「まず昨日と違うのは、囮役を変更することだ」
「ほう」
シゲンがニヤリと笑う。
「レッドシューズ本人は『まだやれる』と言っていたんだが、今日の決戦を考えたら体力の消費は避けるべきだからな。俺が止めた」
「それは良い判断だと思います。ですが……少し心配ですね。相手の人数が増えるのに昨日と同じようにいけるかどうか。囮役は相当危険ですよ?」
「ゲッシにやってもらう」
「ほう!」
シゲンは面白そうに笑った。
「あいつはすばしっこいし、誰よりも生き残ることへの執念がある。そう簡単には捕まらないだろう。それに、変な噂を撒き散らした罪滅ぼしもさせなきゃならないからな」
「なるほど、そいつは適任だ」
緑田とシゲンは顔を見合わせて笑った。
クサリヘビ盗賊団との戦いは今夜、いよいよ佳境を迎える。
「安心したらなんだか眠くなってきました。ひと眠りさせてもらって良いですか?」
「もちろん」
緑田は部屋を後にした。
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