68話
朝日というには少し遅い太陽の光が降り注ぐ王都の片隅に、総部屋数二十ほどの安宿がある。
以前は金さえ払えば誰でも泊まれる『犯罪者の巣窟』とまで言われていた場所だが、今はもうそんな影もない。緑田がオーナーと交渉し、建物ごと年間契約で借り切っているからだ。
そのため、現在ここで寝泊まりしているのは全員が緑田の奴隷である。その影響で、近隣の住民からは「治安が良くなった」と密かに喜ばれていた。
さて、そんな宿に向かって歩く二人の男がいた。
一人は緑田。
彼が引くリードの先には、犬種不明の大型犬『ベス』がいる。緑田が魔武器を探し回っていたある日、突然の夕立で雨宿りをしていたところ、隣に寄り添ってきた野良犬だ。雨が上がった後も当たり前のように後ろをついてきて、そのまま居座ってしまったのだった。
そしてもう一人は、奴隷の『ダルマ』。
デルモンドの店で購入した奴隷で、前職は酒場の護衛だったという。スキンヘッドに大柄な体格、ギョロリとした目つきはいかにも強そうで、見た目は四十代にも見えるが実年齢は二十九歳とまだ若い。
無口かつ無表情で、他の奴隷たちの間では「彼が笑ったところを一度も見たことがない」と噂されるほどだった。
だが、強面な見た目とは裏腹に仕事ぶりはすこぶる真面目で、遅刻も一度もない。魔物狩りでもチームの輪を乱すことなく淡々と役割を果たしてくれるため、緑田としてはかなり気に入っている男だった。
そんな彼が持つリードの先には、黒の仔猫『ミケ』がいる。カラスに襲われていたところを保護し、そのまま飼うことになった猫だ。
天気のいい日には、こうして二人で朝の散歩をするのが習慣になっている。
ベスは「行くぞ」と言えば、大きな体を揺らしながらノソノソ付いて来てくれるが、どこか「仕方ないなぁ」と思ってる雰囲気を感じさせ、散歩が好きなのかどうかは分からない。
ミケはリードを付けられるのが嫌そうで最初はいつも逃げるが、置いて行こうとすると鳴いて、最後には付けさせてくれる。この猫は普段はベスとべったりなので、散歩が好きというよりもベスと離れるのが嫌だからしぶしぶ一緒に来る、という感じに見えた。
宿に到着すると、緑田はベスのリードをダルマに預け、階段を上っていった。
ノックした部屋から出てきたのは、シゲンだった。
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