67話
銃声が聞こえた瞬間、サバビーは反射的に上体を低くし、一歩前へ踏み出した。
『銃声が聞こえたらその方向へ突っ込み、敵を撃ち殺せ』
頭領からはそう命じられていた。だが、いざその場に立ってみると、音だけを頼りに正確な位置を割り出すことなど不可能だった。
右手の方向から聞こえた気はする。だが、それが右前方なのか、真横なのか……どこに向かって走ればいいのか見当もつかず、サバビーはその場に立ち尽くしてしまった。
「うおーーー!!」
暗闇のどこかで、すでに味方の何人かが叫び声を上げて走り出していた。無月の闇の中では、それが何人で誰なのかすら分からない。本当に位置を把握して走っているのだろうか。自分も後を追うべきなのだろうか。
再び響く銃声。
やはり右手の方向で間違いない。サバビーは意を決して走り出した。正確な場所は分からずとも、右側に敵がいることだけは確かだ。ここに立ち止まっていても意味はない。
その時――前方を走っていた味方の黒いシルエットが、ゆらりと力なく倒れた。
(まさか命中させたのか……!?)
「逆だーーー!! 敵は逆側にいるぞーーー!!!」
サバビーは喉が破れるほどの声で叫んでいた。
最初は銃弾で倒れたのだと思った。だが違った。倒れた味方の背中に、深々と矢が突き刺さっているのが見えたのだ。その矢は、銃声が聞こえたのとは明らかに『反対の方向』から飛んで来ていた。
悪魔のような策略。
あの銃声は、自分たちの注意を逸らすための罠――本命の敵は、真逆の暗闇に潜んでいる!
三度、魔銃の破裂音が夜空を揺らす。
次の瞬間、サバビーの左肩に、まるでハンマーでぶん殴られたかのような強烈な衝撃が走った。
「くそっ!!」
サバビーは必死に前方へ地を蹴った。狙われている。だが、一体どうやって!?
数メートル離れれば味方の姿すらおぼろげにしか見えないこの暗闇の中で、どうやって矢を正確に命中させているというのだ。
「ぐほっ……!」
激しく走りながら、知らぬ間に喉の奥から咳がこみ上げた。ひどい風邪をひいた時のような、重く粘り気のある咳。
喉を射抜かれたのだと理解しながら、サバビーの視界が急速に傾き、地面へと倒れ込んでいく。
薄れゆく意識のなか、彼の脳裏に最後に浮かんだのは――幼い頃、誕生日のプレゼントに父親からお手製の木刀をもらった、あの温かく幸せな記憶だった。
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