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65話

 



「ひゅっ」


 放たれた矢は青空を飛翔し、的の中心を的確に射抜いた。


 シゲンは不満そうに鼻を鳴らすと、次の矢を番(つが)えようとした。その時、主人である緑田とレッドシューズが揃ってこちらへ歩いてくることに気がついた。


 シゲンはそれに気づかないふりを決め込み、再び矢を放つ。しかし、放たれた矢は中心を外れて的に刺さった。




 ◇




「盗賊討伐に力を貸してほしい」


 緑田はシゲンの目を真っ直ぐに見つめながら言った。


「敵は恐らく八人。夜中に王都から物資を運ぶ荷馬車を守るため、岩山から出てくるはずだ。そいつら全員をお前の矢で射抜いてほしい」


「正直言って気の乗らない仕事ですが……まあ、断れる立場でもありませんからね。やりましょう」


 シゲンは目を合わせようともせず、ため息交じりに答えた。


「どうしたんだシゲン。これはお前の弓術の実力を見せつける絶好の機会じゃないか」


「絶好の機会……そうですかね? まあ、頑張ってみますよ」


「もしかして、人を殺すのが怖いのか?」


 緑田がふと問いかけると、やる気のなさそうだったシゲンの目が一気に吊り上がった。


「主人といえども侮辱は許せません!」


「いや、そんなつもりじゃ……」


「俺の父も、祖父も、曽祖父も、戦場で弓一本を手に敵将を次々と討ち取ってきた……うちはそういう家系です。その末裔である俺が、人を殺すのが怖い? 侮辱以外の何だっていうんですか!」


「落ち着けよシゲン。アーサーさんは乗り気じゃないお前を気遣って言ってるんだ」


「気遣い? そんなものはいりません! 俺はどんな状況でもやるべきことはやります」


 レッドシューズが宥めても、シゲンの吊り上がった目は戻らない。


「アーサーさんはお前の弓の腕を見込んで、こうして直接頼みに来たんじゃないか。侮辱なんてとんでもない、これはお前にしかできない仕事なんだよ」


「俺にしかできない仕事? 敵はただの盗賊の下っ端でしょう。大げさすぎるんじゃないですか」


「さっき言った通り敵は八人だ。対してこっちは三人。だがお前も知っての通り、俺もアーサーさんも直接的な戦闘は決して得意じゃない。つまり、お前にメインで戦ってもらうことになる。これがどういう事か分かるだろう?つまり、お前ひとりで八人と戦って勝てと言ってるんだ。これが信頼じゃなくて何なんだ」


「一対八……ですか」


「俺たちが補給を止めてるせいで、敵は水も食べ物もまともに手に入らなくなって三日目だ。どれほど死に物狂いでやってくるか想像できるだろう?」


「補給を止める……? 結構えげつないことをやってるんですね」


 シゲンの表情が、怒りから興味へと変わっていく。


「敵は魔銃を持って俺たちを探し回るだろう。そんな奴らを仕留めるには、魔銃よりも遥かに長い射程と精度を持つお前の弓術が適任だ。アーサーさんはそう判断したんだよ」


「……そうなんですか?」


 シゲンは疑わしそうな目で、アーサーの表情を伺った。


「シゲン、お前の力が必要だ。お前にしかできない。敵はただの盗賊の下っ端なんかじゃない。これは五十人の盗賊団を壊滅させるための前哨戦だ。力を合わせて盗賊団を討伐しよう!」


 力強く語る緑田の目にようやくシゲンは目を合わせた。


「………そこまで言われちゃ仕方ありませんね。まあ、俺も動かない的ばかり相手にするのに飽きてきたところです。先祖伝来の弓術の妙技、とくとご覧いただきましょう!」


 荒い鼻息を吐くシゲンは、すでにやる気で満ち溢れていた。プライドが高く、おだてられると途端に弱い。彼の父、祖父、曽祖父の血は、間違いなくシゲンにも受け継がれていた。





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