64話
王都の真上には、冷たい光を放つ月が昇っていた。
食料取扱店『ワンダー』に勤める商人スガヤは、ため息をつきながら二頭引きの荷馬車に揺られていた。
積まれているのは水やワイン、各種酒類、小麦粉や塩漬け肉、パン、野菜などの食料品で、総重量は一トンほどにも及ぶ大荷物だ。四人の私兵と御者と共に目指すのは、クサリヘビ盗賊団のアジト。
「何が悲しくて、盗賊相手に商売なんかをしなきゃならないんだ……」
誰も言葉を返さなかったが、その場にいる全員が心の中で同感していた。いくら代金は払ってくれるとは言っても、馬車を護衛する私兵にかかる費用を考えれば赤字でしかないのだ。
「パン!! パンパン!!」
乾いた音が夜の暗闇に響き渡り、スガヤと思わず体を縮こませた。
「敵襲!! 頭を下げろ!」
私兵の誰かの叫び声が聞こえ、スガヤは言われるがままに御者台で頭を伏せた。
「どうして……!? どうして俺たちを襲うんだ!? 俺たちは食料を運んできたんだぞ!?」
恐ろしい闇の中で、再び銃声が響き渡る。盗賊団の奴らが撃ってきたに違いない――スガヤは反射的にそう思い込んで叫んでいた。
「おい撃つのをやめろーーー!!俺達は食料を届けに来たんだぞ!!敵じゃない!食料だ、お前達の食料を運んできたワンダーの商人だ!!」
しかし銃性はまたしても轟いた。
「撃つなっていってんだよ!!一体なんで、どうしてなんだよぉおおおお!やめろぉおおーーー!!」
「ヒヒィィィン!!」
狂ったような馬のいななきが夜空に届く。
「やめろーーー!!撃つな! 馬が暴れる!!」
「なんとかしてくれ!!」
「駄目です! 敵の位置が分かりません!!」
「なんだって!?」
矢継ぎ早に次の銃声が撃ち込まれる。
「敵はどこかに身を隠して撃ってきています!」
「灯りを消せ!!」
馬車には道を照らすランタンが灯されており、敵からはこちらの姿が丸見えなのだと、私兵がようやく気がついた。
「逃げましょう!」
「なんだって!?」
「相手の位置も分からず、こちらはたったの四人です! 一方的すぎて勝負になりません、守り切るのは不可能です!」
「しかし……!」
「逃げるなら、荷物は置いていきましょう!」
御者のファモンが悲痛な声を張り上げた。
「こんなバカみたいな量の荷物を積んだままじゃ、馬は走ることもできません! 生き延びたいのなら荷物を切り離して逃げた方がよっぽど早いです!」
追いうちをかけるように、何度目かの銃声を闇が飲み込んでいく。
「逃げましょう!」
「逃げるべきです!」
御者と私兵たちが、切羽詰まった表情でスガヤの決断を求めていた。
「……分かった、逃げるぞ!!」
スガヤのその一言により、一行は一トンの物資をその場に放置し、命からがら王都へと引き返すこととなった。
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