63話
「お二人がご覧になった馬車を引く男……私どものギルドに所属する商人に間違いありません」
商人ギルドのブラヒムは、苦渋の表情で言葉を絞り出した。
篝火を頼りに夜の監視を続けた結果、緑田とレッドシューズが目撃したのは、クサリヘビ盗賊団のアジトから出てくる荷馬車だった。後を追うと、御者は王都に店を構える大型商店へと入っていった。二人はその真意を確かめるため、商人たちを束ねる商人ギルドへとやって来たのだ。
「あなた方は盗賊に手を貸している、ということでよろしいですか?」
緑田の率直な問いに、ブラヒムの顔が歪む。
「勘違いしないでいただきたいのは、自ら望んでそのようなことをしているわけではない、ということです」
「というと……?」
「脅されているのです。週に一度、食料などの生活物資をアジトまで運ばなければ家族を殺す、と」
「ですが、盗賊は街の中に入りこむことはできないはずです」
「それは違います」
ブラヒムはハッキリと言い切った。
「確かに検問では盗賊が出入りできないよう監視しております。しかし、それが確かであると誰が言い切れるのでしょうか。賄賂を受け取って解雇された兵士など過去にいくらでもおりますし、まだ盗賊と認定されていないだけの輩も大勢おります。検問は決して万能ではありません。現に脅されている商人の家には、次の必要物資が書かれた手紙が届いているのです。消印が無い、これはつまり郵便配達員の手を経ずに直接届けられた手紙です。奴らが街の中に入り込んでいるという何よりの証拠です」
「だからといって……」
「我々とて、悔しい思いをしていることをご理解いただきたい! クサリヘビ盗賊団に襲われた同胞は数えきれません。ですが、我々には彼らと気概など生まれた時から持ち合わせてはいないのです。騎士様のように戦いに名誉を感じることも、悪を打ち倒す正義感も持ち合わせておりません。物を売り買いし、金を稼ぎ、日々を慎ましく生きていく……それが商人なのです。どうか、そのことをご理解いただきたい」
返す言葉を見つけるのが難しかった。
緑田には盗賊に脅される商人の気持ちが痛いほどよく分かった。緑田自身、戦闘系のスキルは持っていない。魔物狩りで多少鍛えられたとはいえ、奴隷たちと腕相撲をすればあっさり負けてしまう程度の力しかないのだ。暴力に対する恐怖は、身に染みて理解しているつもりだった。
二人は商人ギルドの建物を後にした。
最初は怒りに満ちていたレッドシューズも、商人の切実な吐露を聞いた後は、非難の言葉すら失っていた。ただ黙って、緑田の一歩後ろをついてくる。奴隷は主人の後ろを歩くというのが、この世界の常識だった。
緑田がふと足を止めると、背中にレッドシューズがぶつかった。
「あ……申し訳ありません……」
力なく頭を下げるレッドシューズ。どうやら相当に意気消沈しているようだった。
「勝てる」
緑田は呟いた。
「奴らの弱点が分かったぞ」
戸惑うレッドシューズの表情が、驚きと希望へと徐々に変化していった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




