54話
「アーサーさん! こんなところでお会いできるなんて奇遇ですね!いやー、うれしいなぁー」
教会から姿を現したゲッシは揉み手をしながら満面の笑みで寄ってくる。
昨日か一昨日に顔を合わせたばかりだし、ゲッシにとって自分は上司のような存在なのだから、休日に会えてうれしいはずが無いとは思ったが、あえて口にはしなかった。
「お前が敬虔な信者だったとは意外だな」
緑田は率直な感想を口にした。日曜日の朝から教会へ礼拝に通うというのは、まさに真面目で敬虔な信者が送る理想的な休日の過ごし方そのものだったからだ。
するとゲッシは周囲をサッと見回すと、声を潜めて緑田の耳元へ顔を寄せた。
「いやあ、そんなわけないじゃないですか。あそこの修道女さんは良いケツをしてるんで、それを見に行ってるんですよ。拝むふりをするだけで『タダ目の保養』ができるんですから、最高ですよ」
敬虔な信者が聞けば卒倒しそうな下心全開の理由を、ゲッシはあっけらかんと言い放った。
「そうか、お前はそういうやつだったな」
緑田も敬虔な信者とは程遠い存在なので、特に起こることも無く言った。
緑田が持つゲッツのイメージは、金に汚く噂話と女が大好きで、自分よりも強い人間には媚を売りまくるが、不思議と周りからは嫌われていない、そんなやつだ。
「あっ」
突然小さく声を上げたゲッシが、緑田の腕を引っ張るようにして道の端へと寄せた。
何事かと視線を向けると、洗練された高級な武具に身を包み、強者特有の重苦しいオーラを纏った二十人ほどの男女が、堂々と大通りを歩いてくるのが見えた。
『黄金の鷲』——貴族の次男や三男などの良家の子弟で構成された、王都でも屈指の実力派冒険者チームだ。魔物の脅威から街や領民を守る英雄的な存在でもあり、人々からは憧れと畏敬の念を集めている。
先ほどまで賑わっていた街の人波が、彼らを中心にしてまるで水が割れるように左右へ引いていった。
「アーサーさん、動いちゃダメですよ。あいつらの行く手を邪魔したら、その場で斬り殺されるかもしれませんからね……」
ゲッシが声を潜めて言った。
緑田はその脅しを笑い飛ばすことができなかった。この異世界において、そういった噂話は決して珍しくないからだ。貴族の通行の邪魔になった子供がその場で手打ちにされたとか、買ったばかりの試作の剣を試すために奴隷を切り捨てただとか、そんな理不尽な話が日常茶飯事として耳に入ってくる。
通り過ぎていく彼ら一人ひとりから、強烈な魔力の圧を感じた。ただ貴族の血筋という生い立ちに胡座をかくのではなく、厳しい訓練を重ねて実力を磨き上げてきた本物の強者たちだ。
無言で彼らの背中を見送りながら、緑田の胸に悔しさが込み上げる。
自分は異世界転生者だというのに、圧倒的なチート能力で無双するでもなく、地道に奴隷を買って安全第一でレベルを上げるのが精一杯だ。
(多分、神様に愛されてないんだろうな。今からでも敬虔な信者になるか………?)
黄金の鷲の集団が完全に通り過ぎ、周囲のざわめきが戻ってくる。
「……すごかったっすね……」
「ああ……」
緑田が短く返すと、ゲッシは何事もなかったかのようにヘラヘラと鼻の下を伸ばした。
「二番目を歩いてた女のケツ、ぷりっぷりしてましたよ! いやー、またしてもタダで良いもん見させてもらいました!」
「ケツの話かい!」
あまりのブレなさに緑田は思わず呆れてため息をつき、ゲッシは「ひひっ」と満足そうに笑った。
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