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52話

 




「うーん………」


 とある魔道具を見ながら緑田は顔をしかめた。


 名称:鼻毛毟り棒

 効果:鼻の中に突っ込むと粘着性の粘液が発生し、鼻毛を全滅させてくれる棒。ただし、猛烈に痛い。

 危険度:1

 ランク:0


 王都の一角には露店が並ぶエリアがある。そこでは様々な物が売られている。


 魔物狩り自体は週に一日の休日を設けているが、この散策だけは毎日欠かさず行っている。彼らにとってこれらの売買は収入の柱であり、サボるわけにはいかないのだ。


 これらの品は探索者がダンジョンから持ち帰るため、露店や専門店には毎日のように新しい商品が入荷してくる。


 その多くは今目にしたような役に立たないガラクタばかりだが、時には数百万、あるいは一千万ゴールドを超える価値のものが混ざっていることもあるため、決して油断はできなかった。


「……」


 無言のまま後ろをついてくるのは、護衛の『ダルマ』だ。


 デルモンドの店で購入した奴隷で、前職は酒場の護衛だったという。スキンヘッドに大柄な体格、ギョロリとした目つきはいかにも強そうで、見た目は四十代に見えるが実年齢は二十九歳とまだ若い。


 無口かつ無表情で、他の奴隷たちの間では「彼が笑ったところを一度も見たことがない」と噂されるほどだった。


 強面ではあるが仕事ぶりはすこぶる真面目で、遅刻も一度もない。魔物狩りでもチームの輪を乱すことなく淡々と役割を果たしてくれるため、緑田としてはかなり気に入っている男だった。


 名称:求愛叫びバッタ

 効果:バッタの形をした置物。魔力を込めると午前0時に大声で愛を叫ぶ。内容は毎回変わるが、何と言っているかはバッタにしか理解できない。

 危険度:0

 ランク:0


「今日はいつも以上にハズレが多いな……」


 緑田がつぶやいても、ダルマは何も答えない。別に返答を期待しているわけでもないので、それでよかった。

 そうして二人で街を歩き回っていた時、突然、耳元で「あ!」と大きな声が上がった。


 見れば、ダルマが勢いよく走り出していく。


「えっ!?」


 不穏な気配を感じて慌てて周囲を見回したが、そこにあるのはいつも通りの街の風景だけで、怪しい人物は見当たらない。

 訳も分からないままダルマの後を追いかけると、彼は狭い路地に巨体を押し込むように入っていき、大声を上げながら両手を振り回していた。


「おいダルマ! どうしたんだ!」


 追いついた緑田が背中に声をかけると、一羽のカラスが慌ただしく飛び立っていった。


「申し訳ありません、ボス……」


 振り向いたダルマの大きな手のひらには、黒い子猫が一匹乗っていた。


「視界の端で、カラスに襲われているこの子が目に入りまして……居ても立ってもいられず、走ってしまいました。申し訳ありません、護衛失格です。どうぞ、俺を殺してください……」


「いや、さすがに殺しはしないけどさ……」


 ひとこと説教でもしてやろうかと思っていた緑田だったが、予想以上に思い詰めているダルマを見て、叱るのをやめた。というより、彼がこれほど長々と喋るのを初めて聞いた気がした。


「みゃーう!」


 子猫は強気な姿勢で、緑田を威嚇してくる。カラスに襲われたせいか全身がぐっしょりと濡れており、汚れか血のようなものも付着していた。


「親猫は?」


「……いないみたいです」


 ダルマは子猫を愛おしそうに抱えながら、辺りを見回した。


「あの……もししばらく待っても親猫が現れなかった場合、宿へ連れて帰って俺が飼ってもよろしいでしょうか?」


「ちゃんと世話できるのか?」


「実家で飼っていた経験がありますので、おそらく大丈夫です。分からないことがあっても、誰かに教えてもらいながら頑張ります」


「うーん……ちゃんと世話できるならいいけど」


「ありがとうございます!!」


 ダルマは巨体を折り曲げ、深々と頭を下げた。


「にゃう!! にゃうにゃうにゃーー!!」


 両手を必死に振り回す子猫は、どうやら緑田のことを敵だと認識したようだった。


「まあ、いいか………」


 緑田は笑った。そして魔武器魔道具探しを中止して、ダルマと共に子猫を病院に連れて行くことになった。


「すいません、ご迷惑おかけして………」


 申し訳なさそうにしながらもダルマは嬉しそうに子猫を抱えている。気のせいか、今までよりもダルマとの絆が深まっている気がした。


「案ずるより産むが易し、か………」


「なんですか………?」


「いや、なんでもない」


 そろそろ大丈夫だろうと思って、子猫を撫でようとしたら素早い動きで指に噛みつかれていた。


「にゃーう!」


 自分の方が強いんだぞ、そう言っている気がした。






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