47話 ~嘘~
ユウタの最ードを見届けた緑田は幌馬車へ乗り込んだ。
「か、か、金ならないよっ!」
目が合った瞬間にいつもの早口がやってきた。しかし全てがいつも通りとはなっていなかった。強気な態度を取り繕おうとしているが、その声は震え、顔は青ざめている。にじみ出る恐怖と動揺は隠しきれていなかった。
狭い車内で向かい合わせに座ると、緑田は冷ややかな目で彼女を見据えた。
「本当だよ! 金はもう全部借金返済に使っちまったんだ。うちの旦那が重い病気でね。入院費がどうしても必要だったんだよ。ギャンブルにのめり込んで店にまで迷惑をかける、どうしようもないクズなんだけどさ……それでもあたしには、あいつが必要なんだ。……ねえ、分かるだろ? 夫婦なんだからさ、見捨てるわけにはいかないじゃないか。あたしだって、こんなことしたくなかったんだよ? だけどどうしようもなかったんだ。最後はマフィアの金貸しにまで手を出しちまって………だからない!金は本当にもうないんだよ!!」
「……」
「その代わりといっちゃなんだけど、魔武器や魔道具があるから、それをごっそり持って行ってくれよ。それが、あたしが渡せる本当にすべてなんだ。なあ、あんただってこれ以上罪を重ねたくないだろ? 警察に追われる羽目になりたくないだろ? だから、これでどうか見逃してくれよ、ねえ。あたしみたいな年寄りを痛めつけたって、何の解決にもならないだろ……分かっておくれよ、ねえ、頼むよ!!」
必死の弁明を続けるミナエを遮るように、緑田は静かに呟いた。
「2,870万ゴールド」
「え……?」
「この馬車には、それだけの金が隠されているらしいんだがな。あんたが『ない』と言い張るなら、この金は全部俺がいただく。それでいいな?」
「あっ………え、もしかして、あんた『鑑定』のスキル持ちかい……?なんだい、あんたも人が悪いねぇ、それならそうと言ってくれりゃあいいじゃないのさ、あー、恥ずかしい。金がないって言ったのは確かに嘘だった。申し訳ない、本当に心から申し訳ないと思ってる」
ミナエは媚び売るように笑った。
「それだったらこういうのはどうだい?その金を元手に商売を始めて金儲けをするっていうのは?私達の商売で一番大事なのは商品を見極める目だ、逆にそれさえあればいくらでも金儲けができるんだ。嘘を付いたお詫びにあんたの金を五年で倍にしてやるよ。私が死ぬ気で働くからあんたは何にもしないでただ遊んでりゃあいい!どうだい?悪い話じゃないと思ーーー」
「金を置いてこの馬車から降りろ」
「ちょっと待ってよ!!そんな冷たいこと言わないでおくれよ、酷いじゃないの、こんな年寄りから何もかも奪い取って、出て行けだなんてさ。あんたにだって、母親がいるんだろ?どう思うんだい、もし赤の他人から母親が出て行けなんて言われてたら?ね、そうだろう?あれ………あれは………あっ!!」
ミナエが突然、何かを見るように馬車の外を指さした。
「あ、あれ! 警察だよ! きっとさっきの銃声を聞きつけてやって来たんだわ、ほら、ん、ぼごっ……!」
言葉を最後まで紡ぎきれなかったのは、彼女の喉元に冷たい刃が深く突き刺さったからだった。
「……古典的だな」
ミナエの手を見ると魔銃が握られていた。緑田は鼻で笑う。
「隙を突いて、隠していたそれで俺を撃ち殺すつもりだったんだろうが……それを持っていることくらい最初から分かっていたさ。俺のスキルを忘れたか?」
「ごぶっ、ごはっ……!」
緑田は突き立てたナイフの柄を握りしめ、冷酷にその名をつぶやいた。
「燃えろ――『追炎のナイフ』!」
その瞬間、傷口から猛烈な炎が噴き上がった。
「あびゃびゃびゃびゃーーーーー!!!!!!」
強烈な高熱は瞬く間に皮膚を溶かし、生肉を香ばしく焼き焦がしていく。魔武器の真の名を呼び起こした時、その呪われた力は通常の何倍にも膨れ上がる。
炎は勢いを失うどころか、鮮血のしぶきを燃料にするかのようにむしろ激しく燃え盛った。
刺された痛みと焼かれる激痛のあまり、ミナエは狭い幌馬車の中を狂ったように転げ回り、やがて動かなくなった。
炎が燃え移る幌馬車を後にし、外に出た緑田は、ユウタが死の直前に残した言葉を頼りに隠し収納を探し当てた。巧みに偽装されていたそれをどうにかこじ開け、ずしりと重い大金が入った革袋を引きずり出すことに成功する。
だが、そこにはもう、共に笑い合う少年の姿は無かった。
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