46話 ~遺言~
「ユウタっ!!」
駆け寄ってきた緑田の姿を捉え、ユウタは静かに微笑んだ。
「アーサーさん……僕、言いたいことがたくさんあるんです。聞いてくれますか? たぶん、もう時間が残されていないので……」
緑田に余計な狼狽を与えないよう、あえて淡々とした穏やかな口調で語りかけるユウタに、緑田は固い表情で黙って頷いた。
「まず、デルモンドさんには『今まで僕を育ててくれてありがとうございました』と伝えてほしいです」
緑田は黙って頷く。それはユウタの言葉を完全に尊重するため。自分の声でユウタの言葉を遮ってはいけないと思った。
「それと、これから奪われたお金を回収しに行くと思うんですけど……相手から『もう金はない』と言われても、絶対に安易に信じないでください。ああいう荷馬車には盗賊対策の隠し収納が仕込まれている場合があります。あらかじめそこに金を隠して『無い』と言い張っているのかもしれませんし、あるいは別の協力者や銀行を使ってどこかへ隠しているのかもしれませんから……」
緑田は溢れそうになる感情を抑え、深く頷く。
「……それから、僕の腰にあるナイフを取ってもらえますか?」
それは、緑田が自ら出品し、デルモンドからユウタへと贈られたあの『火炎のナイフ』あるいは『追炎のナイフ』だった。
「せっかくデルモンドさんからもらった一番の宝物ですけど……僕には、もう必要がなさそうなので。ぜひ、アーサーさんに受け取ってもらいたいです」
緑田は一瞬の戸惑いを見せた後、そのナイフを受け取り、静かに頷いた。
「あとは……ええと、そうだ。手を握ってもらえますか?」
ユウタは片手を持ち上げようとしたが、すでに肉体は言うことを聞かなくなっていた。
「これでいいか……?」
緑田は血に染まったユウタの手を、両手で優しく包み込むように握りしめた。
「はい……それじゃあ、行きますよ……!」
その直後、緑田の全身に熱く煮え滾る濁流のような奔流が流れ込んできた。
「ッ、これは……!?」
「なんとなく、できるような気がしたんですけど……やっぱり、できました」
先ほどまでと比べても、ユウタの声は明らかに弱々しく、今にも途切れそうだった。
「僕の魔力を、アーサーさんに全て渡しました。これでたぶん、僕の『特殊スキル』も受け渡せたと思います……。……うん、そろそろ本当の限界みたいです。最後に……ひとつだけ質問させてください。アーサーさん、あなたはいったい……何者なんですか……?」
「俺は、転生者だ! この世界ではない、まったく別の世界から来たんだ!」
緑田は必死に叫んだ。
しかし、ユウタは安らかな満足げな微笑みを浮かべたまま、そのまま静かに動きを止めていた。緑田の最後に絞り出した告白を理解できたのかどうかは、分からなかった。
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