45話 ~アゲハ蝶~
腹部からドクドクと噴き出した鮮血は、空中で瞬く間に無数の黒い蝶へと姿を変えた。
百羽、二百羽、三百羽………。
崩れ落ちようとするユウタの身体を下から支え上げ、まるで一陣の疾風の如き速度で敵のへと運んでいく。流れ出る血はその瞬間に蝶へと変わっていき、今ではもう黒い筋斗雲のようだった。
「な、なんだ……!?」
タクロウは慌てて魔銃の引き金を引いたが、すでに弾は撃ち尽くされていた。
「……っ」
ユウタは深く息を吸い込み、限界に達しかけている意識を必死に集中させた。
致命傷だ。もう自分は助からない。それは誰よりも自分が一番よく分かっていた。けれど、ここで何もせず犬死にするつもりなど毛頭なかった。
恩人であるデルモンドから命じられた任務を果たす。たとえ命が尽きていようとも。
——「お前には剣の才能がない」
剣術の稽古をするたび、何度周囲からそう言われたことだろう。だが、ユウタには「努力を継続する才能」があった。来る日も来る日も、ただ愚直に、ひたすら剣を振り続け、五年後には自分を嘲笑っていた男をその剣で打ち倒すことに成功した。
耐え抜くことにかけては、絶対の自信があった。気絶すればそこで終わりだ。だが、今のユウタには、この死線を越えて目的を完遂できるという確かな自信があった。
腰に下げた剣の柄に手を掛け、一気に鞘から引き抜いた。
「やめろーーっ!!!」
恐怖に顔を引きつらせたタクロウの二重顎が激しく揺れる。
——だが、遅い。
何千、何万回と繰り返してきた基本の型。師に教えられた通りに、ユウタは全身の残された力を込めて剣を薙ぎ払った。
刹那、鮮血の軌跡を描きながら、男の首が胴体から綺麗に跳ね飛ばされた。
(最低限の役目は果たしたかな……いままでで、一番うまく剣が振れた)
タクロウの巨体が崩れ落ちるのと同時に、体を支えていた無数の蝶々は霧のように儚く砕け散り、ユウタの身体は静かに地面へと投げ出されたのだった。
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