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44話 ~不協和音~

 



「おいおい、なんだよ。盗賊の割には妙に小綺麗な格好してるじゃん」


 幌馬車を停止させたタクロウが、ヘラヘラと笑いながらゆっくりと御者席から降りてきた。やや肥満気味ではあるが、その巨体はしっかりと筋肉がついていて侮れない。


「さっさと消え失せろ! お前らにくれてやる金なんざ一文もねぇんだよ!」


 タクロウは手に構えた魔銃の銃口を緑田たちの額に向け、あざ笑うように言い放つ。


「誰が盗賊だっ……!」


 怒りに任せて前に出ようとした緑田を、ユウタがさっと片手で制した。


「危険ですから、ここは僕に任せてください」


「……わかった」


 緑田は激しい悔しさに歯噛みしながらも、言われた通り一歩後ろへと下がった。


「おいおい、なんだよそれ。情けねぇ野郎だなあ! ガキを盾にして自分は安全地帯に避難かよ?」


「盗賊はそちらの方です。……その金を今すぐ返してください」


 向けられている冷たい銃口に一切怯むことなく、ユウタはまっすぐに見据えて言い放つ。


「何言ってっか、全然意味わかんねぇな!」


「とぼけても無駄です。その幌馬車の中にミナエさんが隠れていることは分かっているんですから」


「ミナエ? 誰だそりゃ、そんな名前の奴なんて知らねぇよ」


「だったら、その荷台の中を見せてください。やましいところがないなら、できますよね?」


「はっ! 盗賊を馬車の中に招き入れるバカがいるかよ。ふざけたこと言ってんじゃねぇ、これ以上近づいたらマジで撃ち殺すぞ!」


 緑田は勢いよく走り出した。


「おい、てめぇ……!」


 向かった先はタクロウではなく、物陰である幌馬車そのものだった。相手が銃口を向けている以上、不用意に近づけば蜂の巣にされることは分かっている。


 だが、緑田には一つ勝算があった。銃という武器は、素人目で見ても動いている標的に当てるのが極めて困難だという事実を知っていたからだ。


 それとほぼ同時に、ユウタもまた別の方向へ走り出した。ターゲットは、タクロウその人だ。


 突然の二方向への分散に、タクロウはどちらの脅威を優先すべきか、一瞬の二者択一を迫られた。


「クソがっ――!!」


 タクロウが狙いを定めたのは、まっすぐ自分に向かって突撃してくるユウタの方だった。


 乾いた銃声が五発、連続して轟く。


 そのうちの一発がユウタの左肩を直撃したが、彼は痛みに顔を歪めながらも足を止めなかった。


(このまま一気に懐に飛び込めば、近接戦の得意な自分の勝ちだ……!)


 だが、それはタクロウの不敵な笑い声を聞くまでの話だった。


「はっ!」


 ——ドフッ!


 鈍い肉の裂ける音と共に、なんとユウタの背中を銃弾が背後から貫き通した。


「ひゃっはー! 俺の魔銃『クラーケン』は特製の特製品だ! 外したはずの銃弾が勝手に軌道を変えて戻ってきて、敵の背後から突き刺さる固有のスキルが仕込まれてるのさ! 魔武器屋の息子を舐めやがって、油断したなガキ! 短い人生、ここでおさらばだ!!」


「ユウタっ……!」


 幌馬車まであと一歩のところまで迫っていた緑田は、血を流して崩れ落ちるユウタの姿を見て、すぐさま方向転換して駆け寄った。


「特殊スキル——『アイリーンズ・バタフライ』、発動……!」


 激痛に顔を歪めながらも、ユウタは最後の魔力を絞り出したのだった。




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