42話
王都の一等地にあるオークション会社『ハンマープライス』に到着した緑田とユウタは、受付で必要書類を記入して呼ばれるのを待った。
どこか冷やりとした空気は、まるで歯医者で自分の順番を待っている時のようなどんよりした緊張感を煽る。
「――アーサー様、どうぞ」
応対してくれた受付の女性の顔に、どこか不自然な違和感が浮かんでいることに緑田は気づいた。
「お客様がご指定された売上金の受け渡しに関しましてですが……手続きは、すでに完了しております」
「……え!?」
「ですから、すでに支払いは済んでおりますが」
「そんなはずは……!」
「魔武器・魔道具の買い取り販売店『リトルフラワー』の店主であられるミナエ様が、今朝一番でご来店されまして……」
最後まで説明を聞き終えるより早く、緑田は受付を飛び出していた。
「アーサーさんっ!」
静かな店内にどよめきが広がる中、ユウタの慌ただしい足音が背後から追いかけてくる。
嫌な予感が全身の毛穴から吹き出す中、足を一切緩めずに走り抜けた先にあるはずの『リトルフラワー』の扉には、冷たく「臨時閉店」のプラカードが掛けられ、窓という窓にはすべて厚手のカーテンが引かれていた。
「クソがっ!!」
怒りに任せて蹴り飛ばすと、扉は盛大な音を立てて勢いよく開き跳ねた。
「……」
「これは……」
店内の棚に並んでいたはずの膨大な魔武器や魔道具は、綺麗さっぱり姿を消していた。
荒い息をつきながら奥の居住スペースへと踏み込む。ここは店舗兼住居なので、もしかしたらまだミナエがいるかもしれない。
しかし、そこに人の気配は一切なく、強盗にでも襲われたかのように、物が散乱しているだけだった。
「やられた……クソッ!!」
怒りと憎しみが混ざり合った緑田の絶叫が、静まり返った店内の窓ガラスを激しく震わせた。
「追いかけましょう!」
張り詰めた緑田の感情を遮ったのは、力強いユウタの声だった。
「でも、どうやって……!」
「任せてください。僕の『特殊スキル』を使いますから」
そう言い残すと、ユウタは驚くことに床へと這いつくばり、鼻を利かせて匂いを嗅ぎ始めた。
「一体、何を……?」
「……ありました!」
すっと立ち上がったユウタの指先につまんでいたのは、一本の『ヘアゴム』だった。
「本当はあまり人に見せたくないんですけど……」
ユウタの肉体から、ピリピリとした金属のような匂いが立ち上る。魔力の活性化を告げる特有の気配だ。
「特殊スキル——『アイリーンズ・バタフライ』、発動!」
ユウタの手元で淡い光に包まれたヘアゴムが、実体を持つ一匹の黒い蝶へと変化した。
「蝶よ、お前の持ち主の元へ行け!」
ひらひらと、しかし迷いのない力強さで、蝶は空間へと飛び立っていく。
「これでミナエさんの足取りを追うことができます。この状況から察するに、彼女は店の商品だけでなく、家財道具なども持って行ったはず。つまり、大量の荷物を運ぶために『荷馬車』を使っている可能性が高いです。僕たちが馬を調達して追いかければ……大丈夫、きっとすぐに追いつけますよ!」
頼もしく微笑むユウタを見て、怒りに狂うばかりで冷静な判断も打開策も出せなかった自分の情けなさに緑田は歯噛みした。
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