26話
ここはテンスター国の王都にある安宿『グッドモーニング』。
名前こそ爽やかだが、その実態は犯罪者の巣窟と噂されるような場所だった。
一泊二千ゴールドという王都最安の宿泊費、そして身分証の提示すら求められない緩さゆえに、脛に傷を持つ訳ありの人間が集まりやすい条件が完璧に揃っていた。
その一室から、ひそやかな声が漏れ聞こえる。
「ひひひひひ……」
男はろうそくの小さな灯りに照らされた剥き出しのナイフを見つめ、満面の笑みを浮かべながら怪しい笑い声を漏らしていた。
痩せこけた頬に、野生動物のように鋭い目つき。身に纏う服は浮浪者と見紛うほどのボロ布だ。何を隠そう、この男こそ南野緑田であった。
彼をこれほどまでに不気味に見せているのは、その手にある一本の魔武器のせいだった。
◇
名称: 追炎のナイフ
概要: ナイフ
効果: 攻撃した箇所に炎を発生させる。
危険度: 2 / ランク: 2
◇
泥棒市に並ぶすべての露店を巡り、さらには街の魔武器・魔道具の店を片っ端から検分してまわった。そして『一万ゴールド均一』と書かれたジャンク品の樽の底からこれを見つけた時、緑田の体は興奮で熱く火照った。
今日一日探し求めた中で、唯一まともな実用効果を持った『当たり』の魔武器だったのだ。
会計の瞬間は緊張で生きた心地がしなかった。店員が自分の値段設定のミスに気づき、「やっぱり売れない」と言い出すのではないかと冷や冷やしたものだ。
様々な店で情報収集を兼ねて鑑賞してきた相場感からすれば、このナイフには一千万ゴールド以上の価値があると確信していた。
手持ちの所持金はもう多くはない。自分は特別賢いわけでも、高い戦闘力を持っているわけでもない。
人生崖っぷち。
(これだ……。これで金を稼いで、生きていくんだ)
緑田は高鳴る心臓の動悸を感じながらベッドに入り、大金持ちになった未来の自分を思い描きながらゆっくりと瞼を閉じた。
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