27話
「買取金額は五千ゴールドだね」
「ふぇっ!?!?」
テンスター国の魔武器魔道具買い取り販売店『リトルフラワー』の店内で、緑田は素っ頓狂な声を上げた。
「あー……分かるよ。あんた、ひょっとしてこれ一本で一躍大金持ちになれるなんて夢を見てたんだろ?」
店主のミナエは、緑田が差し出したナイフを眺めながら呆れたように笑った。
「気持ちは分からなくもないけどねぇ。人間ってのはすぐ甘い夢を見て、作り話に騙されちまうのさ」
「作り話……?」
「あれだろ? 貧乏な冒険者が拾った一本の魔武器が王族の目に留まって、屋敷が一軒建ったってあの話だろ?」
「……」
図星だった。緑田は顔を真っ赤にして俯いた。
「やっぱりかい」
ミナエは同情を誘うような顔で、自身のもじゃもじゃ頭を揺らした。
「世の中そんなに甘くできちゃいないのさ」
「……けど、他の店では何百万ゴールドもの値段がついている魔武器がいくらでもありました」
「もちろんあるよ。それどころか、億を超える代物だって世の中にはいくらでもあるさ」
「なら、これだって……!」
「けどねぇ。そういう高値がつく品ってのは、国から認められた国家資格を持つ鑑定士様が、ご立派な『鑑定書』をつけた間違いのない一品だけなんだよ」
「あ……」
言われてみれば、高額な魔武器の横には必ず『鑑定書付き』と書かれた紙が添えられていたような気がした。
「あんた、どうやらこの業界の仕組みを何にも知らないみたいだから、特別に教えてあげるよ。幸い、今は暇だからね。……いいかい? 魔武器や魔道具ってのは、悪魔の魂が宿っていると言われている。だからこそ、魔力を通すだけで普通じゃ考えられない怪奇現象を起こすんだ」
それくらいのなら、緑田も知っている。
「だからさ、必ずしも人間にとって都合の良い効果ばかりが起きるわけじゃないんだよ。特に魔武器は危険だ。使った途端に自分の指が腐り落ちたり、目が潰れたり、顔の皮膚がドロドロに爛れたりする『呪い』の類が、そこら中に転がってるんだ。……となればさ、誰がそんな恐ろしい代物を大金叩いて買うんだい? 誰も買わないだろ? だから『鑑定』が必要なんだよ。『これはこういう効果で、害はありません』というお墨付きがあって初めて、客は安心して金を払うのさ。それがない未鑑定品なんて、どれほど優秀そうに見えても高値なんてつくわけがないんだよ」
「それなら……」
「あんたの言いたいことは分かるよ。なら、そのナイフにも鑑定書を書いてもらえばいい……そうだろ?」
「……はい」
怒涛のように繰り出されるミナエの解説に、緑田は気圧されながら頷くことしかできなかった。
「みんな考えることは同じさ。だから鑑定士ってのはいつだって大忙しなんだ。魔武器や魔道具なんてのは、毎日のようにダンジョンから大量に掘り出されてくるからね。……そうなると、どうなると思う?」
試すようなミナエの問いかけに、緑田は少し考えてから答えた。
「……鑑定を受けるための順番待ちが長くなる、とか」
「まあまあの答えだね。……けど、一番重要なのは『鑑定料がバカ高くなる』ってことさ。仕事が山ほど舞い込んでくるなら、わざわざ安値で引き受ける理由がないからねぇ」
「あっ……」
「特に国公認の鑑定士様なんてのはそうだ。魔武器一つ見てもらうだけで、『百万ゴールド』の鑑定料を取るのがザラなんだよ」
「ひゃ、百万!?」
「そうなったらどうなるかい? ロクでもないガラクタに百万ゴールドの鑑定料を払った挙句、出てきた結果がゴミだったら……破産さ。あっという間に『借金奴隷』の出来上がりだ。……あんた、奴隷になりたいかい? 首輪をつけられて、ご主人様の言うことには何でも従わなきゃならない、人間の最底辺にさ」
「でも……」
言いかけて、緑田は言葉を飲み込んだ。
特殊スキル『開示』の表示によれば、このナイフは間違いなく本物の効果を持っている。緑田はその結果を完璧に信じていた。
けれど、それを他人に証明する手段がどこにもない。悔しい……。絶対に自分の見立ては正しいのに。これは間違いなく数百万、あるいはそれ以上の価値を秘めた至高のナイフなのだから……。
「どうしても諦められない、って顔だね」
ミナエが呆れたように息を吐いた。
「それなら、一か八か百万ゴールドをどこかで用意して、鑑定士様に見てもらうかい?」
「……そんな大金、ありません」
「だろうねぇ……。だから普通のは、鑑定書がないまま二束三文で売るのさ。それなら大金は手に入らない代わりに、破産して路頭に迷うリスクもない。そして実際問題、それが一番賢い選択なんだよ。魔武器や魔道具なんて代物はね、人間の役に立つものの方が遥かに少ないんだから」
ミナエの言い分はぐうの音も出ないほど正論だった。
昨日丸一日かけて『開示』を使いまくり、街中の魔武器や魔道具を見て回ったが、緑田自身が「欲しい」と思えるような品はほんの数点だけ。あとは笑ってしまうようなガラクタやロクでもない呪いの品ばかりだった。
それでも……。
「ふふ、どこまでも諦めが悪い顔をしてるねぇ」
俯いていた顔を上げると、ミナエは怪しげな笑みを浮かべていた。
「あんたみたいに、金はない。だけど自分の勘を信じてるって奴に残された方法が、ひとつだけあるよ」
「……」
緑田は言葉の続きを無言で待った。
「自分を『奴隷』として売り飛ばすことさ……」
緑田の背筋に寒気が走った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
「ブックマーク」と「いいね」を頂ければ大層喜びます。
評価を頂ければさらに喜びます。
☆5なら踊ります。




