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20話 ~新天地~

 


「許さない!!許さないぃいいいいいいいいい!!」


「卑怯者!!この卑怯者がぁあああああああああああ!!!!」


「死ね!!死ね!!死ねーーーーー!!!!」


 憎悪の声が発せられた天井には巨大な三匹のカメムシがへばりついていた。甲殻の表面には、不気味に歪んだ親子三人の顔が浮かび上がっている。


 ——マイク。

 ——エマ。

 ——ジェームズ。


 激昂した父親マイクの顔を持つカメムシは血走った眼球をギラつかせ、泣き顔のエマの顔を持つカメムシは開いた瞳孔を蠢かせ、残虐な笑みを浮かべたジェームズの顔を持つカメムシは耳まで裂けた口から細い触角を覗かせていた。


 ワサワサと無数の脚を蠢かせながら、カメムシとなった三人が緑田の体へと這い登ってくる。


 不快な翅の羽音が耳元で凶暴に響き渡り、あの日の毒キノコを混ぜ込んで作った肉団子スープの臭いと、青臭いカメムシの強烈な悪臭が混ざり合った地獄のような異臭が鼻腔を突き刺した。


『なぜ殺した! カメムシみたいに毒で殺して投げ捨てたな! 許さん! 死んでも死にきれるか!!』


『酷い、あんたは悪魔だ! 踏み潰される虫ケラのように私たちを殺したんだ!!』


『屑野郎! 虫ケラ以下はお前だ! 喰ってやる、お前の全身を噛み千切ってやる!!』


 三匹の背中にある巨顔が回転しながら狂叫し、口から青ぐろい汁を撒き散らす。そして、鼻や口の隙間から胎内へ潜り込もうとしてくる。


「うわぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 叫び声を上げながら跳び起きた南野 緑田の額には、濃密な脂汗がじっとりと滲んでいた。黴臭い闇を激しい勢いで吸って吐く、吸って吐く。


 ここはテンスター国で最も栄える王都、その端にある安宿の一室であった。


「うるせんだよ、ブチ殺すぞ!!!」


 薄い壁の向こうから、殺気立った男の怒声が鼓膜を激しく震わせた。


「すいません……」


 小さな声で謝りながら毛布を掛け直したが、完全に冴えきってしまった目は到底二度と眠れそうになかった。


 あの日から、数日が経った。


 復讐を遂げた瞬間の達成感などあっという間に消え失せて、今はこうして眠るたびに、毎日のようにあの時の出来事を夢に見ていた。


 首を絞めた指先の感触、ステッキで頭を殴りつけた衝撃、恐怖に怯える声、見ぐるしい命乞いの声、そして死ぬ間際の絶望に満ちた声——その全てを、脳は焼きついたように鮮烈に記憶していた。


 緑田は眠ることを諦め、ベッドに腰かけたまま、じっと部屋の闇を見つめた。


 後悔はない。


 もし今あの時に戻ったとしても、間違いなく同じことをするだろう。ただ、自分の心がこれほどまでに弱いとは思いもしなかった。


 たった一人の静まり返った部屋の中で、まるで誰かにずっと見張られているような不気味な気配が拭えない。


「ちくしょう………」


 痩せこけた頬、鋭くとがった目。そこにいたのは、まだ両親が生きていた頃の緑田とは別人のようだった。





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