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19話 第二章完

 


 カエンドクタケの効果は絶大だった。食後、わずか一時間ほどで奴らの体調に異変が始まり出した。


 最初に異変が現れたのは息子のジェームズだ。


 先端の尖った杖を持ち歩き、すれ違いざまに俺を小突いて喜んでいた屑野郎。初期症状は寒気と頭痛だったため、最初はただの風邪だと思ったようだ。


 ジェームズが額に手を当てながら自室に引き上げて間もなく、次にマイク、最後に黒丸を殺した元悪のエマに症状が現れた。


 全身を襲う寒気は、瞬く間に震えへと変わっていった。それでもマイクは「誰かにうつされたかもしれん」と言って、風邪だと疑っていなかった。


 一番最初に気が付いたのはエマだった。「あっ!?」と声をあげ、俺を見た目に恐怖が宿っていた。


 奴が旦那に声をかける寸前――俺は何気ない振りをしながら歩き、そして背後からマイクの首へ飛びついた。


 スリーパーホールド。


 前世では格闘技が好きでテレビで放送されたものは結構見ていた。その程度の知識しかなくても使えるのがこの技。


 そして威力は絶大。


 今回の計画において、鍛え抜かれた巨躯を持つ兵士のマイクはかなりの不安要素だった。まともに戦ったら絶対に勝ち目はない。もし何かあれば躊躇なく俺を殺すことは分かっていた。


「ぐげぇ………」


 カエルのような声をあげながら締められる旦那を見てエマが悲鳴を上げる。しかし、助けようとはしなかった。恐ろしさゆえか、旦那が負けるわけがないと思っているのか。


 そしてそれは俺にとって実にありがたい行動だった。マイクは激しい苦悶の中で俺の腕に指を突き立て、強引に引き剥がそうと暴れた。


 だが、無駄だった。


 一度完全に極まってしまえば、俺のような貧弱な腕でも絞め技は強烈な威力を発揮する。いや、むしろ細く痩せこけた腕だからこそ、相手の顎の下へすっぽりと隙間なく入り込み、脱出不能の鎖となっていたのだ。


「ぐ………ぎ………ぐ………」


 マイクの抵抗は長くは続かず、やがて力なく崩れ落ちた。微動だにしなくなったマイクを見下ろし、エマが狂ったように絶叫する。俺はその叫び声を背景に、静かにジェームズの部屋へと向かった。


 次に俺が居間へ戻ってきた時、その手にはジェームズが愛用していたあのステッキが握られていた。悶絶するエマの目の前に、それを突きつける。尖った杖の先端からは、息子の血が滴っていた。


 その時にはすでにエマは絶叫すらできなくなっていた。


 俺はエマに直接手を下さなかった。ただ、地獄の苦しみの中で死んでいく様を冷たく見つめ続けた。


 今すぐ殺してやれば、この女を苦痛から解放してしまうことになる。少しでも長く、一秒でも長く吐血し、のたうち回りながら苦しむべきなのだ。


 やがて、『開示(青)』を使って全員の生命活動が完全に停止したのを確認した。


 その瞬間――全身に電流が駆け巡るような強烈な衝撃に襲われた。視界に表示された文字列が変質し、『開示(青)』は『開示(緑)』へとさらなる進化を遂げたのだ。


 俺は確信した。


 戦闘には何の役にも立たないと思っていたこのハズレスキル。使い方さえ間違えなければ、これ以上なく凶悪な武器になる。敵をいくらでも殺すことができるのだと。


 溢れ出す充足感に浸りながら、俺は家中の金品や旅に使える道具をすべてかき集めた。そして、積み上げた薪に燃料をくべ、火を放つ。


 燃え上がる炎が、憎い家と惨めな過去を包み込んでいく。


 ここ数日は乾燥した天気が続いていたせいで、驚くほど勢いよく火の手が回り、家全体が赤々と燃え上がっていた。


「見てるか黒丸、仇は取ったぞ」


 これだけ明るければ、空の上にいる黒丸にもよく見えるはずだ。そして、満足してくれているだろう。


「お前と同じ死に方をさせてやったぞ」


 もうこんな場所に用はない。


 生きていく。


 人を殺し、金を奪ったが、それでも俺は生きていく。











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