18話 ~背中越しのチャンス~
俺は森の中を歩き回っていた。今まで魔物を恐れ、足を踏み入れることすらできなかった森を。
不思議だった。嫌な恐怖心は消え失せ、謎の予感があった。自分が魔物に見つかるはずがない、ここで死ぬはずがないという、根拠のない確信のようなものだ。
そして、その予感は正しかった。歩く中で何度か魔物と遭遇したが、奴らは俺に気づくことなく、ただ通り過ぎていった。
もしかしたら、俺から「人間らしい臭い」が消えていたからかもしれない。風呂など入らせてもらえず、最近はまともな水浴びすらしていないからだ。そんな俺の姿を見てエマは毎日――いや、毎秒のように嫌味を叩きつけてきたが、俺の心には一切響かなかった。
何日も森を捜索し、俺はついに目的のものを発見した。
大切にポケットへしまい込む。進化した『開示(青)』が、これが間違いなく俺の求める猛毒だと教えてくれた。
もしスキルが見立てを誤っていれば、俺が返り討ちに遭って殺されるだけだ。だが、不思議と恐怖はなく、胸が躍っていた。俺は空を見上げ、静かに黒丸へ語りかけた。
(仇は取ってやるからな)
決行のチャンスは、すぐに訪れた。
エマが得意料理のスープを作っている最中、台所を留守にしたのだ。そこにはスープに入れる肉団子のタネ――刻み野菜が練り込まれた肉が置いてあった。
俺はポケットから袋を取り出し、あらかじめ『細かく刻んでおいたキノコ』を肉の中に混ぜ込み、気づかれないよう慎重に練り直した。
そのキノコの正体は、「カエンドクタケ」。
炎のように真っ赤で不気味な形をしたその茸は、素手で触れるだけで皮膚に猛烈な痛みを与える。そして口にすれば数時間で発熱、悪寒、嘔吐、下痢、腹痛、手足の痺れを引き起こし、やがて神経障害を発生させて死に至らしめるという極上の劇物だ。
この数日間、俺の手は焼けるように痛み続けていた。だが、嬉しかった。痛みに対して「嬉しい」と感じたのは、人生で初めてだった。
食えば、必ず死ぬ。試すまでもなく、俺はスキルの示した効能を心の底から確信していた。
その夜の夕食。
マイク、エマ、ジェームズの三人はいつものように、俺の目の前で美味そうに料理を平らげ、俺にはカビの生えたパンだけを投げつけてきた。
それでいい。今回ばかりは、まともな飯を与えられないことが心底嬉しかった。
「今日のスープは絶品だな」
やつらがそう言ってスープを啜るたび、俺は込み上げる笑いを必死で噛み殺さなければならなかった。どうやらカエンドクタケからは、素晴らしい出汁が出るらしい。
俺は待った。やつらを地獄へと突き落とすカウントダウンを刻む、一秒一秒を。
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