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俺は、キミに好きとは言わない。 私は、彼に好きとは言いっちゃいけない。「好き」の二文字は伝えない  作者: ぺんぎんは泳げない。


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5話 かわいいと言われたい一日(琴葉視点)


 今日はいつもより楽しみな日です。放課後に湊とデートをして、私の家でおうちデートをするからです!


 まあ、デートだと思ってるのは私だけだと思うけど……。


 そうとは言え、今日は少し気合いを入れてメイクと髪のセットをしようと思い、いつもより一時間も早起きしちゃいました。もこもこに泡を掻き立てて優しく顔を洗って、化粧水と乳液で保湿して、日焼け止めも塗る。気合を入れるといっても今日は学校なので、いつもの学校メイクで我慢する。節度のあるメイク、これを破っちゃ悪い子になっちゃうからね。


 メイクは学校用だから控えめに。


 だから髪はいつもより気合入れちゃおうかな!



「う〜ん。前髪がなかなか…」


 決まらない前髪をかれこれ十五分くらいだろうか、いじいじしている。


「おーい、いつまでやってんだー。遅れるぞ」

 

 リビングのほうからお父さんの声がした。


 遅れる?お父さん何言ってるんだろ。今日は一時間も早く起きたんだからそんなわけないのに。


「もう七時四十五分だぞ」


 もうお父さん朝からうるさいなあ。……ん?四十五分って言った。言ったよね。嘘!五十分に湊と待ち合わせなのに!!


「お父さん、なんでもっと早く言ってくれないの!」


「んー、なんか張り切ってたから」


 いやまあ、正解ですけども。だからってもう少し早めにいってくれてもいいじゃんかよぉー。


 前髪、大丈夫かな……。



「じゃあ行ってきます、お父さん」


「…お母さんも、行ってきます」


「ああ、いってらっしゃい」





 -----



 いつもよりも駆け足で、湊をあまり待たせないように待ち合わせの交差点まで行く。ここを曲がれば交差点というところで、一度立ち止まる。鞄に入っている手鏡を取り出して、少し乱れてしまった前髪と呼吸を整えて、気持ちを高めながら曲がり角を曲がった。


「おはよー!湊」


 誰よりもかわいいって思ってもらえるように笑顔で、明るい声で、湊に「おはよー」と言う。


「おはよー、琴葉」


 優しい笑顔で「おはよー」を返してくれる湊に、胸の辺りがぽかぽかする。


 嬉しい。たったこれだけの言葉でこうなっちゃうんだから、私は結構重症だと思う。



「授業案外そこまで難しくないな--」なんて言われて、いや、苦戦してるんだけどと思ってると、「あのレベルに苦戦してる」って言おうとしたから急いで湊の口を塞ぐ。


「むぐっーー」


 だって仕方ないじゃん、勉強苦手なんだもん。湊に言われて家でも勉強するようになったんだから褒めてほしいなんて口にしたら「頑張ってるんだな、えらいえらい」って言いながら、頭を撫でてくれた。


 嬉しくて、顔がふにゃ〜とゆるゆるになってしまう。湊の暖かい手が心地よくて、ずっとこうしてもらいたい。他の誰でもない、湊に、私だけにしてほしい。でも、流石に周りの目が気になって、名残惜しいけど手をどけながら言い訳を言う。


「かみ...、くずれるでしょ、ばかっ」と言うと。


「わかったわかった。じゃあ次から撫でないようにするよ」


 え…。もう撫でないなんて口にするからさっきまでぽかぽかしてた体が、一気に冷めたのを感じた。


「え、やだ!それは絶対いや!」


 私のばか!なんで余計な言い訳いっちゃうかな。もう撫でてくれないなんて絶対嫌だもん。湊は優しいから、私が「かみ...、くずれるでしょ、ばかっ」って言ったから気を遣ってくれた。やだなんてあべこべなことを言ってしまって申し訳ないから本音を少しこぼす。


「いいの。みなとはあたま…なでてくれれば、それで…」


 本音と言いながら勝気に言ってしまう自分をもどかしいと思いながら、撫でられたいことを恥ずかしがりながら伝えた。


「お、おう。わかった…」と、まだ少し困惑しているようだが納得してくれた。冷めてしまった体にようやく暖かさが戻ってきて、笑みがこぼれた。




 -----



 三時間目、現国の授業。


 朝、湊に教科書忘れてない?と言われたが、私は忘れていた…。


 なので湊に見せてもらおうと思って、湊の袖をちょんちょんと引っ張る。教科書を忘れたことを伝えると、朝言ったのにって顔をしながらも、「まったく」「はいはい」と言って見せてくれるから、やっぱり湊は優しい。


 さっき私は忘れていた。なんて言っていたが、実はこれが初犯なわけではないのです。家で勉強するようになったのは本当だ。でも私は、このシチュエーションをチャンスだと思ったのです!


 高校生になったら湊に猛アピールして、好きになってもらって絶対付き合いたいって思っているから、机をくっつけられるのは意識してもらうのにうってつけだと思った。もし湊が、私のことを「昔から仲のいいお節介な妹みたいな存在」としか思っていなかったら、告白をした時にそんなことを言われてしまったら、多分もう立ち直れなくなってしまうから。


 後悔したくないから。


 少し大胆でもアピールするって決めたんだ。迷惑だったりするのかな?そう思う時もあるけど、しない後悔よりする後悔だと思って、湊にやめてって言われるまでは全力でアピールしよう。する側だって恥ずかしいんだから、これくらいは許してね。


 つまり私は、確信犯なのです!



 教科書を見せてもらうために机をガタガタと寄せあった。それだけじゃまだ少し距離があるなと思い、机の脚を飛び越えて湊に近づく。ほんの数センチで体がくっつく距離で顔が熱くなってしまう。でも、ここで恥ずかしがっていたらアピール出来ないと思って、耳元で掠れた甘い声で囁くように話した。


「ねぇ…みなと」「教科書、それじゃ…よく、みえないよ…」と、本当は見えているけど、適当なことを言って数センチしかなかった距離を更に縮めるように体を乗り出す。


 湊は耳をじわじわと赤くして、肩をビクンと跳ね上げていた。照れてくれたんだ、意識してくれたんだと嬉しくなって気持ちが溢れてしまいそうになったけど、少し揶揄ってやろうと思って「……どうしたの、そんなにみみ…あかくして」と言ってみる。


 そうしたら湊は、顔を真っ赤に染めながら目を丸くして「そんなに教科書みたいならやるよ、一人で見とけ」と、教科書を押し付けて机を離して突っ伏してしまった。


 照れ隠しなんだろうけど、そんなに離れなくてもいいじゃんと思いながら頬をぷくっと膨らませた。


「むっ...」





「神谷…神谷、教科書二十四ページーーー」


 あ、湊当てられてる。本当に寝てるじゃん。


「湊、湊…。当てられてるよ、起きて」


 寝ぼけてる、かわいい。

 

 そっか、私が教科書持ってるから湊読めないじゃん。教科書押し付けられたし、ちょっといじわるしてやろう。口元を隠すように肘をついて、目を細めながらニヤニヤと湊を見つめた。


「なんだ神谷、教科書忘れたのか?珍しいな、隣の桜井に見せてもらえ」


「あ、はい。琴葉悪い、教科書見せて」


 やば、我慢できない。めっちゃ机きょろきょろしてた。さっきの仕返しはこれで出来たかな?


「ふふっ…。ふっ、ひひひ」


 あ、ばれちゃった。ブイサインを小さくして、指をにぎにぎした。



 キーンコーンカーンコーン


 はあ、ドキドキしたあ~。楽しかったな、この授業。


 また教科書忘れちゃおうかな!



 -----



 6時間目が終わって、担任からの連絡事項を聞きながら帰り支度を済ませる。担任の合図で起立して「さようなら」をした。


 やっと授業が終わった。よし!これから湊とデート!めちゃくちゃ楽しみ。その前に準備しなきゃね。


「琴葉、行こ」


「うん、あ…先に校門行ってて」


「分かった、待ってるね」


 湊が階段を降りていくのを確認して、私はトイレに駆け込んだ。鞄からメイクポーチを取り出す。鏡の前で体を左右に軽く揺らして、全身の身だしなみを確認する。よし。洗面台に少し体を乗り出しながら、目の下に薄くチークを乗せる。唇に艶を出して、パッっとリップ音を出して完成。一応まだ学校だからね、それに濃いの嫌いかもしれないからこれくらいにしておこう。最後に髪を軽く整えて、鏡の前でニコッと笑って本当の完成だ。


「気合入ってんね、琴葉ちゃん」


「んっ!」


 お昼食べてた時に揶揄ってきた女の子達がニマニマしていた。見られていたことに恥ずかしくなって一気に顔が赤く染まっていった。


「み…みてたの?」


「ふふっ、ごめんって。琴葉ちゃん、これからデート?」


「あ、いや、デートっていうか、そう思ってるのは私だけっていうか……湊は…」


「ふ~ん、やっぱ神谷くんとデートなんだ」


「あ、ちがっ。そ、そんなんじゃないから!普通に遊ぶだけだから!」


「はいはい、ほんと琴葉ちゃん分かりやすくてかわい~。楽しんでねっ」


「……うん」


 もお、あの子たち絶対私のこと揶揄って楽しんでるよ。むぅ…。


 湊のこと待たせちゃったなあ、少し寒いし温かい飲み物でも買っていってあげよう。




「お待たせ、ごめんね」

「ちょっと寒かったよね。はいこれ、あったかいよ」


「ありがと……ふぅ、あったまる~」


 ………。それだけ?私メイクさっきしてきたよね?湊、何も言わずに歩き出しちゃったんだけど!


 でも、そうだよね。湊はデートとは思ってないんだし、仕方ないよね。


 かわいいって言ってほしかったな。




 書店について二人でたくさんの本を見て回り、途中でボールペンのお揃いをおねだりしてみたり、少しでも意識してもらえるように振舞うことを努力したけど、あんまり意識してもらえなかった気がするなあ。


 まだこれからおうちデートがあるんだから、そこで精一杯アピールしてやるんだから。



 書店を後にして、コンビニでゲームしながら食べるお菓子を買って、私の家へ向かった。




 -----



「お邪魔します」


「どぞ~」

「じゃあ先に部屋行ってて、飲み物持ってくから」


「おっけー」


 よし!今日一番のアピールチャンス。小さい時から家で湊とは遊んできたけど、アピールしよう、そうと決めるとめちゃくちゃ緊張する。


 コップにお茶を入れるのに手がプルプルと震えてしまう。喉がカラカラに渇いてきて一思いにお茶を一気に飲み干す。大きく息を吐いて大きく息を吸う、それを数回してバクバクと鳴っている心臓を落ち着かせる。


 まだ緊張の残っている足取りで階段を上がっていく。


「おまたせー、お茶でよかった?」


「ん、ありがと。どうする?先にゲームする?」


「うん!ゲームしよ!」


 ゲーム機の電源を入れて、コントローラーを二つ取って湊に渡す。


 生唾を飲み込んで、自然と湊の足の間に座り込む。体を密着させてるわけじゃないけど、やっぱりこれはやり過ぎなんじゃないかとずっと思っている。まあ、退いてと言われたことはないからいいんだよね?


「毎回思ってるんだけど、そこ座られるとコントローラー持ちにくい」


 退いてと言われるのかと思って一瞬強張ったけど、持ちにくいって言われた。持ちにくいってことは持ちやすければいいんだよね?


「ん~……じゃあさあ」


 …ちょっと恥ずかしいけど。いや、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど。アピールするって決めたもんね!うん、やってやる!やってやるぞ!


 お尻をぐりぐりと湊のほうに寄せていく。湊の体にくっついたのを感じて、体が熱くなっていく。それからスカートでそっと手を拭って、湊の両手を掴んで自分のお腹の前に回す。


 ...あったかい。湊の体温がじわっと伝わってくるのがわかる。心地よくて、とっても安心するなあ。



 …………好き。


 今すぐにでも、この言葉が漏れ出ちゃえばいいのに。


 でも…。今までの距離が近すぎて、たぶん湊は妹のようにしか思ってないんだろうなあ。


 

 それから数分だろうか。お互い黙ったまま時間だけが過ぎていった。でも、この時間が続くなら無言でもいい。そう思っていたら湊が話し出した。


「そういえばさあ、言おうと思ってたことあるんだけど、その時言えなくて...だから今言ってもいい?」


 なんだろう、気になる。


「ん、なあに?」



「校門で待ち合わせたじゃん。その時の琴葉の、その...メイク……、めっちゃ...かわいかった」


「か...かわっ………ぇ」


「それだけ...」



 え……ぇ?今かわいかったって、かわいいって言ったよね?


 それって友愛、親愛、慈愛………それとも、「恋愛」?どんな意味で言ってくれたの?それに何で今そんなこと言ってくるの?あの時は何も言ってくれなかったじゃん。


 頭がぐるぐるして、顔が真っ赤になっていくのがわかる。


 パンクしそう………嬉しすぎて。



 待って。もし恋愛だったとしたら、今のくっついてる状態って思っていた以上にやばいんじゃない!?そう思ってから急に頭が冴えてきて、バッと立ち上がった。


「や、やっぱゲームやーめた!本!買った本読もう。うん、そうしようそうしよう!ね、みなとっ」


 冴えてきたと言っても照れ隠しを考えることに関してだけだったようで、自分のポンコツさに頭を抱えたくなる。


「お、おう。いいけど」


 急なことで少し戸惑いつつも本を手に持って、気まずい空気の中で二人して黙々と本を読んだ。




 日が沈み夕焼け色がうっすらと残っている時間帯には、気まずかった空気はなくなっていて読んでいた本の感想を言い合っていた。


「いい時間だしそろそろ帰るよ」


「ん、わかった。玄関まで送るよ、片付けはしとくね」


「ありがと。お茶もありがとね」


 少し片付けをしてから二人で玄関まで降りていった。



「じゃあまた明日ね!みなとっ」


 今日のことを思い出して、少し照れ笑いを浮かべながら声をかけた。



「うん...。また明日」


 湊の「また明日」、小さいときは気にならなかったけど小学校高学年辺りから、少し違和感を感じている。


 傍から見れば湊の「また明日」は優しい笑顔。


 でも、私から見ればどこか苦しそうで、辛そうで、悲しそうで、それを受け取ってしまったら、いなくなっちゃうんじゃないかって怖くなる。


 聞きたい。なんで苦しそうに言うの?辛そうなの?悲しそうなの?そう聞けたらいいんだけど。


 でも、『怖い』…聞くのが怖い。


 




 聞いてしまったら何かが崩れてしまいそうで、そうなってしまうのが嫌だから。


 だから私は、見て見ぬふりをする。






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