4話
クラスの女子たちは俺たちを揶揄うだけ揶揄ってどこかへ行ってしまった。なんて迷惑な人たちだ。この空気どうしてくれるんだよ…。
琴葉もまだ頬を赤くしたまま、口を尖らせながら黙って卵焼きをつついていた。
こんな感じで今日の放課後も琴葉と二人とか大丈夫かよ、俺。
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......結局、その放課後はすぐにやってきた。
6時間目が終わって、担任からの連絡事項を聞きながら帰り支度を済ませる。担任の合図で起立して「さようなら」をした。
今日の放課後は琴葉と駅前の書店に行って、その後琴葉の家でゲームと買った本を読むことにしてる。
帰ろうと琴葉に声をかけると、「うん、あ…先に校門行ってて」と言われた。特に理由は聞かずに「分かった、待ってるね」とだけ言って教室を後にした。
夕方になって、少し肌寒い風を感じながら校門の前で待っていた。十五分ほど経ってから琴葉が「お待たせ、ごめんね」と眉を下げた顔をしながら、手には暖かいお茶のペットボトルを二つ持って駆け寄ってきた。
「ちょっと寒かったよね。はいこれ、あったかいよ」
「ありがと……ふぅ、あったまる~」
気を遣えるというか、待たせてしまって申し訳ない気持ちからなのか琴葉は、よく差し入れをもって来てくれる。こんな気遣いは、あの無邪気な面からはあまり想像されにくいけれど、琴葉のこういうところは本当に健気で可愛らしいと思う。
それはともかく、なんで校門で待たなきゃいけなかったのか少し気になったが、それは案外すぐに気が付くことができた。
学校はメイクを全面的に禁止しているわけではない。高校生として節度のあるメイクであれば許されている。琴葉もうっすらとメイクをしてるのは入学初日から知っていた。
そして今、琴葉のメイクはいつもの学校メイクより少し気合が入っていて、目の下にぽわんとピンクのチークが乗っていて、唇はいつもより艶があって目が吸い寄せられた。
正直、今すぐ「かわいい」って言いたい。でもこれは気付いてないってしたほうがいいのか、でも女の子ってこういうのは褒めてほしいものなんじゃないかと、でも恥ずかしいなという気持ちに葛藤しながらも他愛もない会話をしながら駅のほうへと歩いた。
……結局、最後まで「かわいい」の一言は言えなかった。
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学校を出て十分ほど歩いたら駅が見えてくる。今日は漫画の続編と新作の小説を買いに来た。
書店に入って最初に見えてくるのは新刊と書店のおすすめ本コーナーでそこから顔を上げると、たくさんの本棚がズラリと並んでいる。小さいときから通ってるが何度来ても大きい書店だと思う。
「湊、これ気になってたやつ!」
「あ!これも気になる~」
相変わらず気になったものには興味津々に飛びついては、あっちこっちに行ってしまうからいつも俺は振り回されてばかりだ。
「待って、琴葉」
「もぉ、遅いよ湊!」
書店は静かだから少し目立ってしまって、周りからの視線を少し感じた。
ちょっと恥ずかしい……。勘弁してくれ。
「ねえねえ、湊」
袖をちょんちょんと引っ張って文房具コーナーに指差した。
「この猫ちゃんのボールペンかわいくない!」
「ん、ほんとだ。買うの?」
「ふふ~ん、湊とお揃いなら買おうかなあ」
「えぇ、お揃い?この可愛いやつを俺も使うの!?」
「そう、いいでしょ!ほら、この濃い青のとか可愛いけど大人っぽい感じもあるじゃん。ね、いいでしょいいでしょ!」
濃い青って言っても高校生にもなって、しかも男子でこれを使う勇気、俺にはないぞ。でも琴葉の頼みだしなあ…。
「んーー…。」
「ね、いいでしょ。みなとっ」
琴葉のやつ、自分がかわいいと分かってやってるだろ、この上目遣い……。
「……はあ、わかったよ」
「ほんと!やったあ~やったあ」
子供みたいに大げさに喜ぶ高校生は中々いないだろう。
こんなところが琴葉の一番かわいいところだと思う。
その後、目をつけていた本を探したり、気になった本を手に取って裏表紙を読んだりしていたら、二人で十冊近く買っていた。
紙袋には買った本と青とピンクのボールペンが一本ずつ。かわいい猫の入った琴葉が欲しいと言った、お揃いのボールペンである。
本だけだったはずなのに。
……結局、あの上目遣いには勝てなかった。
書店を後にして、コンビニでゲームしながら食べるお菓子を買って琴葉の家へ向かった。
その道中、お揃いが嬉しいのか、沢山本を買えたのが嬉しいのか、琴葉はルンルンで歩いていた。それにつられて、俺も嬉しい気持ちで琴葉のルンルンなペースに合わせて隣を歩いた。
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「お邪魔します」
「どぞ~」
いつも通りの軽い琴葉の出迎えの声。彼女の家には小学生のころからよく来ているからどこに何があるかなど何でも知っているといっても過言ではない。俺の家に来るときは、靴を綺麗に揃えるが自分の家だと気にしないのか適当に脱ぎ捨てる。自分の靴を揃えるついでに琴葉の靴も揃えてやる。
「わざわざいいのに」
「ん、いいのいいの。ついでだから」
「じゃあ先に部屋行ってて、飲み物持ってくから」
「おっけー」
買った本の入った紙袋とお菓子の袋を持って見慣れた階段を上がって、右の突き当りの部屋に入る。昔から来ているから琴葉の家は他人の家特有の落ち着かない匂いなんてもう感じていない。幼馴染とはいえ来過ぎなのではと自問自答してしまった。それでも琴葉の部屋の少し甘い心地の良い匂いには、いまだ落ち着かない。
「おまたせー、お茶でよかった?」
「ん、ありがと。どうする?先にゲームする?」
「うん!ゲームしよ!」
ベットを背もたれにモニター前の床に座る。買ってきたお菓子を机に並べて、琴葉からコントローラーを貰う。
流れるように琴葉は俺の足と足の間にすっぽりと嵌るように座ってくる。いつからだったろうか、琴葉は俺の足の間に座って来るようになっていた。
「毎回思ってるんだけど、そこ座られるとコントローラー持ちにくい」
「ん~……じゃあさあ」
「じゃあさ」と言いながら彼女はいつもよりも体を俺のほうにぐりぐりと寄せてきて、コントローラーを持った俺の手を右手、左手と順に掴んできた。白くすべすべした手は暖かいよりも熱いと言ったほうがしっくりくる。
「こうやって、お腹の、ま...前で持てばさ……もちやすい、でしょ?」
「……へっ。」
思わず素っ頓狂な声が出てしまった。だってこれじゃあまるで琴葉に抱き着いてるのと何ら変わりがない。お腹にくっついている俺の両腕から琴葉の呼吸ごとに少し膨らんで腕が押されるのを感じる。制服のワイシャツ越しでも体温を感じる。落ち着こうと深呼吸をしようにも琴葉の匂いがして頭がくらくらしてどうにかなってしまいそうだった。
冷静になろうと今日あったことを思い出す。
朝は琴葉と雑談しながら登校して頭なでて...。ええっと授業で琴葉が教科書忘れたって言って見せてやって、それで……。あとは、あと、ん〜っと………。
あっ...。
「そういえばさあ、言おうと思ってたことあるんだけど、その時言えなくて...だから今言ってもいい?」
「ん、なあに?」
分からないくらいに弱く息を吐いて...。
「校門で待ち合わせたじゃん。その時の琴葉の、その...メイク……、めっちゃ...かわいかった」
「か...かわっ………ぇ」
「それだけ...」
その後、お互いに硬直したまましばらく無言でいると、バッと琴葉が急に立ち上がった。何事かと顔をそっとのぞき込むと耳まで赤くなっていて、口が小さく開いたり閉じたりしていた。
「や、やっぱゲームやーめた!本!買った本読もう。うん、そうしようそうしよう!ね、みなとっ」
「お、おう。いいけど」
急なことで少し戸惑いつつも本を手に持って、気まずい空気の中で二人して黙々と本を読んだ。
日が沈み夕焼け色がうっすらと残っている時間帯には、気まずかった空気はなくなっていて読んでいた本の感想を言い合っていた。
「いい時間だしそろそろ帰るよ」
「ん、わかった。玄関まで送るよ、片付けはしとくね」
「ありがと。お茶もありがとね」
慣れた足取りで階段を降りて靴を履いた。
「じゃあまた明日ね!みなとっ」
手を後ろに組んで少し気恥ずかしそうにしながらも、いつもの無邪気な笑顔で髪を揺らしながら言った。
「うん...。また明日」




