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 翌日、支度を整えて早めに学校へ向かうと、既にさくらは登校していたようで本を広げて読んでいる。


「さくらちゃん、おはよう」


 その声にさくらは顔を上げた。無表情だった顔は、弥生の登場でふわりと綻び花のような笑顔を浮かべた。さくらはしおりを挟み、ぱたりと本を閉じる。


「おはよう、弥生ちゃん」

「なに読んでるの?」

「ミステリー小説だよ」


 さくらは昨日の自己紹介で言っていた通り読書が好きなようで、毎日のように本を読んでいるのだそうだ。


「すごいね、私なんて漫画しか読まないよ」

「そうなんだ。でも、物語を読むということはいいことだと思うよ」


 文学少女に言われたらその気になるのが弥生のちょろいところなのだろう。


「ところで、部活は何か入る?」

「ううん、私は入らないよ。その代わり、図書委員になるの」


 さくらは根っからのインドアのようだ。弥生はテニス部だったので過酷な練習から逃れるため、高校に入ったら文学部か帰宅部の二択に決めていたのだ。校則のゆるいこの学校は部活必須ではないのがありがたい。


「弥生ちゃんは?」

「私はどうしようか迷っているの」

「迷っているなら、部活には入らないで一緒に図書委員やらない?」


 思いがけない提案に弥生は戸惑う。部活をやらないのは結構だが、果たして女子同士で同じ委員会に入れるものなのだろうか。


「女子同士でもいいのかな?」

「分からない。でも、やりたいことがないならまずは本に触れてみるのがいいと思うの」


 目的もなくこの学校に決めた弥生は、家から近く校則がゆるいというのが魅力的だったため、それらを理由にして学校選びをする怠惰な学生なのだ。よって、やりたいことも特にない弥生からすれば、さくらの提案は案外悪くないものに思えてきた。


「さくらちゃんがそう言うのなら……」

「じゃあ、決まりね」


 弥生が同意すると、さくらは嬉しそうににこりと笑った。そんなに喜んでくれるのなら、弥生も気持ちよく図書委員になろうと思えるから不思議だ。

 クラスメイト達もぞろぞろと登校してきたようで、教室は喧噪に包まれる。

 やがてチャイムが鳴り、ホームルームの時間になった。


「今日から授業が始まります。みなさん、時間割りの通り授業の支度はしてきましたか?」


 担任の岩倉の問いかけに、生徒はちらほらと返事をした。


「一時間目は国語なので、このまま私の授業になります。ホームルームが終わって少し休憩を挟んだら始めますよ」


 ホームルームといっても初日は特にすることもないのですぐ終わった。

 そして、国語の授業が始まる。

 教科書を開いて、一行ずつ音読をする。名前順に始まり、さくらの番になると、彼女はつっかえることもなくスラスラと音読をした。

 弥生は緊張で少しつっかえてしまったので、やはりさくらはすごいなと思う。


 そうこうしているうちにあっという間に一時間目が終わった。

 弥生はさくらの方に行こうとしたが、さくらの周りには爽やかイケメンの翔を筆頭に人だかりができていたので、様子を見ることにした。


「九条さんすごいね、音読上手だったよ」

「ありがとう」

「九条さんはモデルか何かしてるの?」

「してない」


 なにを聞かれてもそっけないさくらに、弥生は自分との差を感じてまたしても不思議な気持ちになった。


「そうだ、連絡先交換しない?」

「今スマホ壊れてるから無理」


 そっけないさくらに周りは困惑し、友達になる気のないさくらに女子達は「行こう」と言って、そっと離れていった。男子は連絡先を交換しようと必死になっていたが、女子がいなくなるとさくらは完全に無視を決め込んで、机の中から本を取り出し読書を始めた。

 誰が話しかけても黙々と本を読み進めるさくらは本当に読書をしているようで、定期的にページをめくっていく。

 せっかくの美少女とお近づきになりたい男子は、恋になる前に散ってしまったようだ。

 さくらの周りに誰もいなくなったので、弥生は声をかけるかどうか迷っていると、さくらと目が合った。

 すると、さくらはにこりと微笑んで手招きをした。

 もしかして、呼ばれている?

 弥生は席を立ち、さくらの元へと向かうと、彼女は今まで読んでいた本を閉じて弥生に向き直った。


「ねえ、弥生ちゃんは音読苦手なの?」


 国語の授業の時につっかえてしまったことを突かれ、弥生は小さく「うん」と答えた。


「そうなんだ。でもね、弥生ちゃんの声は落ち着くから私は好きだよ」


 まさか声を褒められると思っていなかった弥生は照れてしまう。弥生の声は高過ぎず低すぎず普通の声をしている(と思っている)ので、真正面から好きと言われるのは初めてだった弥生は言葉に詰まる。


「その、さくらちゃんは可愛い声してるよね」


 さくらは声までもが美しいのだ。凛とした声は美少女のさくらに似合っている。


「自分ではそう思わないけれど、弥生ちゃんがそう言ってくれるのは嬉しい。ありがとう」


 さくらは弥生のことを気に入っているようなので、なんだか面映ゆい。

 チャイムが鳴り二時間目が始まるので、弥生は急いで自分の席に戻った。

 右隣には翔がいて、こっそりと話しかけられた。


「高橋さんは九条さんと仲いいんだね」


 どうやら翔は様子を見ていたらしい。


「うん」


 それしか言えなかった弥生はもう少し言葉があるだろうと思ったが、翔がさくらに気があるのは何となく分かっていたので、それ以上何かいうのは躊躇われたのだ。

 教室に先生が入ってきたので、ふたりはおしゃべりをやめた。



 お昼休みの時間になると、さくらは弥生の席までやってきた。


「ねえ、外で食べない?」

「外で食べていいの?」


 校則がゆるいこの学校ならそこまで叱られることはないだろうが、悪目立ちするのは避けたかった。


「怒られる時は一緒ね」


 さくらはいたずらっ子のように笑い、弥生の手を取って教室を出た。教室を出る時に視線を浴びたが、さくらは気にしていないようなので弥生も気にしないことにした。


「はあ、なんでみんな私に構うのかな」


 さくらはため息をつきながら廊下を歩いた。


「それはさくらちゃんが可愛いからだよ」

「見た目で判断されるのって嫌いなんだよね」


 はっきりと言うさくらに弥生は「気を悪くさせたのならごめんね」と謝った。


「ううん、弥生ちゃんはいいの」

「私はいいの?」

「うん、弥生ちゃんだけは特別だから」


 昨日から思っていたのだが、さくらは弥生にだけ心を開いているようで、それが何だか気になってしまう。特別だなんて言われたら、同じ女子でも照れてしまうではないか。

 校庭に出て、桜の花びらが舞うアスファルトにハンカチを敷いて腰を下ろした。

 さくらはお弁当を広げたので、弥生もそれにならうように包みを広げる。

 母が弥生の大好きな母お手製卵焼きを入れてくれたのが嬉しかったので、弥生はつい笑顔になる。


「弥生ちゃんのお弁当おいしそう。お母さんが作ってくれたの?」

「そうだよ。さくらちゃんも?」

「そう、私、料理は苦手なの」


 弥生は意外に思った。さくらなら何でも卒なくこなすイメージがあったからだ。


「へえ、そうなんだ。私は料理けっこう好きだよ」


 弥生の言葉にさくらは食いついた。


「そうなの!? 私、弥生ちゃんの手料理食べたい!」


 珍しくさくらが興奮しているので、弥生は「そんなに大したものは作れないよ」と言うが、さくらはすごいすごいと誉めそやす。悪い気がしない弥生は「今度何か作って持ってくるね」と言うと、さくらに大変喜ばれた。



 午後はオリエンテーションで部活動の宣伝が見ごたえあってとても面白かったが、これといって部活に入ろうとは思わなかった弥生はさくらと共に図書委員に入り、放課後は図書室にいることを選んだ。



 翌日の一時間目はホームルームで、しかも委員会決めのためみな顔を伏せている。

 翔は学級委員長に立候補して、そのまま決まった。

 弥生とさくらは図書委員に立候補して、こちらもほかに手を挙げる人がいなかったので無事に決まった。

 なんだかんだで委員会決めはどうにか埋まり、一年五組は新しくスタートした。

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