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 今日は高校の入学式である。弥生は着なれない新しい制服に袖を通す。ネクタイもばっちり結び、伸ばした髪は肩より少し下のセミロングで、何度も櫛を通しオイルをつけたら艶々した髪のできあがり。

 全身が見える姿見でくるりと一回転する。プリーツのスカートは弥生の動きに合わせて裾を翻す。

 うっすらと化粧を施し鏡に向かってにっこりと微笑めば、そこには笑顔の女子高生がいた。

 リュックの中には昨日のうちに荷物を詰めていたので、あとは両親と学校へ行くだけだ。

 一階へと降りていき二度目となるお披露目をすると、両親は「似合ってるよ」と褒めてくれた。

 弥生は父母と共に電車に乗り、学校へと目指す。


 学校に着くと桜が満開でひらひらと花びらが待っている。

 弥生は入り口で手続きをして、先輩から赤い花のコサージュを受け取った。

 人が少ないうちに入学式の看板とともに写真を撮り、これから始まると入学式に弥生はなんだか緊張してきた。

 両親とは一旦別れて、新入生である弥生は体育館に行くよう促された。学校には至るところに桜の花が咲いており、花びらが舞う様は幻想的だった。


 弥生が桜の花に魅入っていると、桜の下に佇む美しい少女がいた。その少女の長い髪が風に揺れてさらさらとなびく。あまりにも桜が似合い過ぎて、弥生は目の前の少女は桜の妖精か精霊なのではないかと思ってしまうほど、その少女と桜は絵になっていた。

 淡い桃色の花びらが舞い散る中、少女は桜と自分を見ている弥生の視線に気づいたのか、その少女はこちらに向かって淡く微笑んだ。

 少女は弥生の方に近づいてくる。その動きに人間だったんだと妙に安堵した弥生は、いつの間にか目の前にいる少女が弥生の頭に手を伸ばしたことに気づいた。


「頭に花びらが乗ってるよ、気づかなかった?」


 くすくす笑いながら、その少女は弥生の頭に乗っている桜の花びらを取ってくれたのだ。それを弥生に見せるようにひらひらと振っている。


「あなたも新入生?」


 そういう少女の胸元には新入生の証であるコサージュが付いていた。


「あ、うん。あなたも?」

「そう。私、さくら。九条さくらっていうの。あなたは?」

「私は高橋弥生」

「そう、弥生ちゃんっていうんだ。今は四月だけれど、桜が似合う弥生ちゃんにはぴったりの名前だね」

「ありがとう。さくらちゃんも名前似合ってるよ」

「本当? 嬉しい」


 さくらはなびく髪を指で耳にかける。その仕草があまりにも似合っているので、弥生はつい見惚れてしまう。


「そういえば、弥生ちゃんは何組なの? 私は五組だよ」

「え、私も五組! 同じクラスになれて嬉しい」

「私も」


 少女ふたりはくすくす笑い合う。


「そろそろ行こう?」


 さくらの言葉に頷き、弥生とさくらは肩を並べて体育館まで歩いた。

 さくらは同じ人間だというのに、どこか掴めない感じがして不思議な少女だなというのが第一印象だった。本人曰く、あまり人付き合いが得意ではないそうだ。

 そして、趣味は読書。ジャンルを問わず色々と読むらしい。弥生は読書が得意ではない。漫画の方が好きだし、実際少女漫画を中心に読む。兄がいるのでバトル漫画も読むが、この辺はさくらとは縁遠い気がする。

 話しながら着いた体育館は、決まったクラスであれば自由に座っていいらしい。比較的早く学校に着いたせいか、空席が目立ち前の方に座らざるを得ない弥生とさくらは苦笑しながら共に隣に座った。

 それから人が増え始めるが、みな新入生ということもあり、静かに過ごす生徒が多かった。

 それから程なくして入学式が始まった。


 校長の挨拶というものはどうしてこうも長いのだろう。最初こそ真面目に聞いていた弥生だが、段々と眠くなってきてしまう。

 隣のさくらに「弥生ちゃん、起きて」と鈴の鳴る声でふと目が覚めた。ちらりとさくらを見れば、彼女はにっこりと微笑んで「寝ちゃだめ」と静かに窘める。「ありがとう」と小声で返せば「いいよ」と言われたので、ここはさくらの優しさに甘えることにした。


 長かった校長の挨拶も終わると、今度は新入生代表の挨拶が始まった。

 新入生代表は男子生徒で、女子に好かれそうな爽やかなイケメンが壇上に立ってつらつらと話をする。要はこれから頑張っていきましょうというものを長ったらしく言う仕事なのだ。

 またしても眠くなり、弥生はあくびをかみ殺す。それに気づいたさくらはくすりと笑っているようだった。


 ようやく終わった入学式はやはり退屈だった。

 担任の先生は女性で、外見は二十代後半に見える。髪は後ろでひとつに括られていた。

 担任の先生の後について弥生達は自分のクラスへと向かった。

 席は一番後ろの席で、ちょうどクラスの真ん中辺りで教室の様子を見渡せる席だった。

 担任は岩倉明美というらしく、チョークで名前を書いていた。担当教科は国語ということもあるのだろうか、岩倉の書く字は達筆で綺麗だった。


「じゃあ、出席番号一番から自己紹介しようか。相沢さんからお願いします」


 まずは相沢から自己紹介は始まる。

 それから何人か自己紹介をして、新入生代表を務めた爽やかイケメンの佐藤翔とも同じクラスになったようで、彼は席を立った。


「佐藤翔です。趣味はスポーツ、好きなことは音楽を聴くことです。よろしくお願いします」


 そして、さくらの番になると、クラスは騒然とする。目を見張る美少女がそこにいたからだ。


「モデルでもやってるのかな?」「彼女にしたい!」という、こそこそ話が聞こえる。


「九条さくらです。趣味は読書、好きなものは本です。よろしくお願いします」


 短い付き合いなのに、それがさくららしいなと弥生は思った。

 いよいよ弥生の番になり、心臓はバクバク脈を打ちながら席を立った。


「高橋弥生です。趣味は漫画を読むこと、好きなものは寝ることです。よろしくお願いします」


 なんとか自己紹介を終えて、着席する。

 クラスの雰囲気はいい感じで、新学期が始まることで緊張していた弥生もどうにか馴染めそうで安心した。

 全員の挨拶が終わったことで、始業式も終わりらしい。委員会などは明日以降決めるのだそうだ。

 周りは新しい友達作りのために、ホームルームが終わっても何人か残っている生徒がいたが、さくらは早速帰宅するようだ。

 弥生はすぐさま後を追い「さくらちゃん!」と声をかけた。

 その声に振り向いたさくらは、弥生だと認めるとにこりと微笑んだ。


「どうしたの?」


 衝動的に追いかけてしまったせいで、言葉に詰まる弥生をさくらはずっと待っていた。


「あのね、その」

「うん」

「さくらちゃんが帰っちゃうのかなと思ったら、声かけてた」

「なにそれ」


 さくらはそれがおかしいのか、くすくすと笑った。


「弥生ちゃんって面白いね」

「そうかな?」

「うん。だって、私に話しかけてくる人のほうが珍しいから」


 さくらはなんて事のないように言うが、弥生はなんだか他人事とは思えずこの子のそばにいようと決めた。


「さくらちゃん、スマホ持ってる?」

「うん、持ってるよ」

「よかったら、連絡先交換しない?」

「いいよ」


 さくらとメッセージアプリで連絡先を交換した弥生は、試しに『これからもよろしくね』とメッセージを送った。

 すると、さくらからも『こちらこそよろしくね』と返ってきた。


「親が待ってるからそろそろ行くね」


 さくらはそう言って長い髪を翻し、前を歩いていった。

 背が高いさくらは歩いているだけで注目を浴びる。もちろん本人の美しさもあるが、惹きつけてやまない何かがあるのだ。

 弥生も両親を待たせているので、教室へと戻りリュックを背負って急いで校門へ向かった。


「弥生、友達はできたか?」

「うん、今のところひとりだけど」

「あら、もうお友達ができたのね、よかった」

「うん」


 三人で電車に揺られながら帰宅すると、家には既に始業式を終えたふたつ上の兄がリビングで漫画を読んでいた。


「おかえり、入学式どうだった?」

「ただいま。ひとりだけど友達ができたよ」

「おお、やるじゃん。明日から学校頑張れよ」

「ありがとう、お兄ちゃん」


 弥生は二階へと上がり、制服から部屋着に着替えベッドに寝転がる。

 スマホをいじりながら、初めてできた友達のさくらを思い出す。


「あんなに綺麗な女の子、初めてみたな……」


 さくらのことを思い出すと、どうしても桜の花を連想してしまう。それほどまでに、名前の通り桜が似合っているのだ。

 どっと疲れが押し寄せた弥生は眠くなり、いつの間にか眠ってしまった。

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