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ある日、辺境の貧乏男爵家の当主になった。前世の記憶で楽園を築きたい。  作者: ありんこの王様


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(52)滑空魔導車、王城へ行く。



ロンメル辺境伯の屋敷がある、領都セントフォレスタから王都までは、早くても馬車で10日は掛かる。


道中で、雨が降ったりその後に道がぬかるんだりすれば、それだけ馬車が前へ進むことが出来なくなり、到着はさらに遅れることになる。



なぜ、こんなことを言い出したのかというと、滑空魔導車(エアスライダー)に乗ったアルフレッド達は、ロンメル辺境伯が運転にハマってしまい、夜も照明の魔道具を使い道を照らしながら走り続けたために、わずかたったの2日で王都にたどり着いてしまったからだ。


これには、さすがにロンメル辺境伯ですらしばらくの間、驚きのあまり開いた口がふさがらなくなっていた。


ここまで早くたどり着いたのには他にも理由があって、道中はずっと滑空魔導車(エアスライダー)にロンメル辺境伯の旗を掲げていたのも大きかった。

そのおかげで、途中の町や村で止められたり誰何されることもなく、盗賊に襲われることもなかったのである。


ロンメル辺境伯の影響力の大きさを、改めて実感させられる出来事だった。



王都の重厚な正門をくぐり抜け、王都のロンメル辺境伯の屋敷に着き、滑空魔導車(エアスライダー)が静かに停止する。

ロンメル辺境伯は制御レバーからゆっくりと手を離すと、自身の両手をまじまじと見つめ、それからアルフレッドを振り返った。


「アルフレッド卿よ、これはいい、実に素晴らしい。まさか本当に2日で着いてしまうとは。⋯⋯まだ、信じられん気分だよ⋯⋯」


「運転ありがとうございました。お疲れではないですか? 」


「ハハハ! 疲れるどころか、逆にワクワクが止まらんよ。道中の風、あの速度⋯⋯。これは癖になりそうだ。どうだ、王都での用件が済んだら、帰りは少し遠回りをして別のルートを試してみんか?」


「……勘弁してください。同行した騎士たちのことも考えてあげて下さい。」


滑空魔導車(エアスライダー)の後部座席では、護衛として同行した3人の騎士がまるで彫刻のように硬直していた。彼らは2日間、乗り慣れない独特なフワリとした揺れと速度に耐え、夜通しの爆走であったために途中で休むことも叶わず、座席の端をずっと血の気が引くほど強く握りしめ続けていたのだ。

それが、地面に着地した今もなお、魂が抜けたような顔で前方を凝視したまま、ピクリとも動けないでいる。


そんな彼らの哀れな姿に、アルフレッドは同情し苦笑いを浮かべた。



オーウェン国王陛下への謁見は、2日後に行われることになった。

今回は非公式での会談ということになり、場所も謁見の間ではなく、その横の控えの間になるとのことだった。


それまでの間、ロンメル辺境伯と会談の内容について話し合いを重ね、カミラとエレノアにお世話をしてもらいながら過ごした。



そして会談当日、控えの間にてオーウェン国王陛下と面会した。


同席したのは、マテウス宰相とエヴァンス近衛騎士団長。それに、何故かエリザベート第一王妃までもがそこに座っていて、会談が始まると同時に、その王妃が真っ先に口を開いた。


「アルフレッド卿、久しいですわね。相変わらず壮健なようで何よりです。それより、また何か凄い物を発明したそうですね。何でも、『受け付けた者が気絶するほどすごい』という噂の立つ、冷暖風の魔道具とやらだとか。ぜひ詳しくお聞きしたいものですわ」


ああ、そういうことか……。

それにしても情報が早い。なんか、あの石鹸とシャンプーの一件以来、目を付けられている気がするのは気のせいではないと思う。


そこから、冷暖風の魔道具について懸命に説明をしていたのだが、途中からどうも王妃の意図はそう言うことではないようだと気付いた。

そこで、後日改めて納めるので是非とも使って欲しいと伝えると、満足したように大きく頷き、ようやく次の者へと発言を譲る。


アルフレッドはここで、ふ~っとひとつ大きなため息をつき、額に滲む汗をぬぐう。


そこで次に質問をしてきたのは、先ほどからずっとソワソワしていたマテウス宰相。

やはり、王城まで乗ってきたあの滑空魔導車(エアスライダー)のことが気になって仕方がないらしい。それなら口で説明するより実際に見せる方が早いと考え、一同で中庭に移動して体験してもらうことに。



オーウェン陛下を筆頭に揃って中庭へと赴くと、そこにはアンネローゼ第二王妃とシャルロット第三王女、クラウディア第三王妃とソフィア第四王女、さらにはエヴァンゼリン第四王妃とクリスティーナ第五王女と、それぞれが母娘でずらりと並び、アルフレッドたちを待ち構えていた。


目の前に広がるあまりにも華やかな光景に、アルフレッドは思わず頭を抱えそうになる。控えの間にいたはずのエリザベート第一王妃が、あらかじめ裏で手を回していたのだろう。


……あの人ならやりかねない。いや、間違いなくやるだろう。



遠巻きにこちらに視線を送ってくる王女たちの目は、完全に新しいおもちゃを見つけた子供のようだった。特に、最年少のクリスティーナ第五王女などは、早くも滑空魔導車(エアスライダー)をきらきらとした瞳で見つめており、今にも飛びつきそうな勢いだ。


「アルフレッド様! それが噂の滑空魔導車(エアスライダー)なのですか!?」


王族の列から真っ先に飛び出してきたのは、シャルロット第三王女だった。続いてソフィア、クリスティーナ両王女もドレスの裾を揺らしながら興味津々といった様子で距離を詰めてくる。


「お母様から伺いましたわ。冷暖風の魔道具に続き、今度は空に浮かぶ乗り物までお作りになったとか」


「ぜひ、私たちも乗せていただきたいです!」


キラキラとした瞳で真っ直ぐに見つめられ、アルフレッドはタジタジになりながら、中庭に鎮座する滑空魔導車(エアスライダー)に視線を向けた。


⋯⋯まぁ、いいか。プロペラを回さないでゆっくり進めばそんなに危険でもないだろうし。


どうせいつかこのような無茶振りをされる可能性があるのなら、いっそのこと今この場で全員に体験させてしまった方が話が早い。アルフレッドはそう割り切ることにした。


「⋯⋯分かりました。それでは国王陛下、マテウス宰相。よろしければ、王妃様方と王女様方もご一緒に、ご案内いたしましょう」


アルフレッドがそう提案して、まずはオーウェン陛下とマテウス宰相の2人を乗せると、ふわりと微かに車体を揺らしながら浮き上がらせた。


「⋯⋯ほう?」


オーウェン陛下が声を漏らす。駆動音が全くしないため、いつ浮いたのかさえ肌で感じなければ分からないほど滑らかだったのだ。



「それでは、少し速度を上げます。掴まっていてくださいね」


滑空魔導車(エアスライダー)は、中庭の石畳を滑るように加速した。

車内にはガタガタという馬車特有の揺れが一切ない。


「おおっ!?こ、これはっ!ば、馬車など比較にならん! おいマテウス宰相、見ろ! 揺れが本当に一切無いぞ!?」


「お、お待ちください陛下、身を乗り出されては危険ですッ! ひっ!? お、お止めくださいッッ⋯⋯!」


いつもは冷静沈着なマテウス宰相も、手すりをギリギリと軋むほど掴みながら、驚愕で目を見開いている。


「驚いたな。これほどの速度でありながら、振動が一切ない。馬車に長く乗ると腰を痛めるものだが、これならどれだけ遠くへ移動しても疲れることはないだろう。アルフレッド卿よ、これは凄まじい乗り物だぞ。」


オーウェン陛下は、この滑空魔導車(エアスライダー)をいたく気に入ったようだった。逆に、最初に興味津々だったマテウス宰相は、今回同行してきたロンメル辺境伯の騎士たちのように、独特の浮遊感に慣れなかったらしい。顔を青くして、すっかり気圧された様子だった。



続いて、王妃、王女たちを乗せた。


「まぁ! 私たち全員で乗れるのですか!?」


「すごい、中がとっても広いですわ!」


シャルロット第三王女を筆頭に、ドレスの裾を上品に持ち上げながらも、弾むような足取りで次々と車内へ乗り込んでいく。最年少のクリスティーナ第五王女にいたっては、シートに座った瞬間、嬉しさのあまりピョンピョンと跳ねていた。


「それでは国王陛下、少しの間、皆様をお借りいたしますね」


そう言い残して再度浮かび上がると、速度を上げた。


「きゃああっ!? 速い、速いですわ、アルフレッド様!」


「すごい! 地面の上を滑っているみたい!」


シャルロット第三王女と最年少のクリスティーナ第五王女が身を乗り出すようにして歓声を上げる。


「確かに、これはすごい発明ですね。」


「これに乗ってしまったら、もう普通の馬車には戻れないですわね。」


エリザベート第一王妃をはじめ、王妃様たち全員も興奮している様子をみせている。文字通り滑空するような未体験の乗り心地に、車内はお祭り騒ぎだ。



中庭を大きく一周して、元の場所へスーッと静かに停止させた。


「アルフレッド様ッ、ぜひ今度は私に運転のしかたを教えて下さい。」

目をキラキラさせて、シャルロット第三王女がアルフレッドの手を握ってきた。


「⋯⋯っ、ふ、ふんっ、まあまあね。でも、貴方がどうしてもって言うのなら、また、乗ってあげても良くってよ。」

ソフィア第四王女はツンデレさんのようだ。


「アルフレッド様ッッ、また一緒に乗りましょうね。でも、今度は私がアルフレッド様のお隣ですからねッ!」

クリスティーナ第五王女は、そう言ってアルフレッドに飛びついてきた。


確か以前、歳はアルフレッドの2つ下だと聞いていたが、何となく妹のミーシアに似ている気がして、思わず無意識のうちに頭を撫でてしまった。


「……っ!? むふ〜〜っ」


突然のことに一瞬驚いた顔を見せるも、その後は嬉しそうに目を細めながら、されるがままになっていた。


「――っ!? ち、ちょっと!そういうのは公平にしないといけないと思うわッ!」


プリプリしながら、ソフィア第四王女は自分の頭を差し出してきた。

よく見るとその向こうで、シャルロット第三王女が羨ましそうにこちらを見ている。


王女たちにこんなことして良いのだろうか……

そう思いながらも、結局は3人の頭を順番に撫でていく。


「〜〜っ、そ、そうよ。その調子よっ。と、特別に、これからも私の頭を撫でることを許して差し上げますわっ」


フンと鼻を鳴らして尊大な態度を見せるソフィア第四王女だが、その可愛らしい耳が真っ赤に染まっていることにアルフレッドは気づいていた。


続いて、シャルロット第三王女の方を見やると、やっと自分の番がきたとばかりにパァッと顔をほころばせ、瞳をキラキラさせながらすり寄ってくる。


アルフレッドがシャルロット王女の頭に手を置くと、待ちきれない様子で自分から頭をグリグリと擦り付けてきて離れない。

胸の前で両手を握りこぶしにして、うっとりとした顔になっている王女からは、見えないはずの尻尾が、ブンブンとちぎれんばかりの勢いで振られている錯覚さえ覚える。


……犬かっ。



「な、なによそのだらしない顔は……!」


「あー! シャルお姉様ばっかりずるいです!」


頬を膨らませつつも、ちょっと羨ましそうにするソフィア王女と、まだまだ撫で足りないクリスティーナ王女がまた参戦してくる。


な、何だこの状況は……。

ふと気が付くと、クラウディア第三王妃とエヴァンゼリン第四王妃までもが、物欲しそうにして、こっちの様子を伺っている。


⋯⋯⋯いや、さすがにダメだからね。王妃様方の頭を撫でたりなんかしたら、物理的にこの首が飛ぶんだからねっ。


――あっ!今、クラウディア第三王妃が舌打ちしたよねッ!?


いや、本当に無理だから……というか、無茶させないでくださいっ!



その後、何とか女性陣を落ち着かせたところで、あらためて控えの間へと移動した。


「ふむ。アルフレッド卿。あの滑空魔導車(エアスライダー)は大変見事な物であった。さっそくわが王家としても発注したい。マテウス宰相と細部を詰めてくれ。」


「オーウェン陛下、過分な評価をしていただきまして、ありがたき幸せに存じます。ただ、あの滑空魔導車(エアスライダー)は、まだ改良の余地を残しております。未だ商業ギルドへも登録をしていない、いわば試作段階なのでございます。

先般、ロンメル辺境伯からも注文を承りましたが、同様の説明を理解してもらったうえで、現行の型を1台だけという条件で契約をいたしました。その辺りの事情を汲んでいただけますよう、お願い申し上げます。」


アルフレッドが深く頭を下げると、オーウェン陛下は何かを考えるような仕草をみせた。


「ふむ。あれでまだ試作段階とな。予には十分に高い完成度であると思うがの。⋯⋯そういう事なら仕方がない。こちらもロンメル辺境伯を倣って、現行の型を1台頼むとしよう。どうあっても、今の馬車よりも快適で早く目的地にたどり着けるからのう。アルフレッド卿、良いか?」


「はっ。ではその旨承りました。」


「うむ。マテウス宰相よ、後は任せた。」


「御意。」


滑空魔導車(エアスライダー)が手に入ると聞いて、エリザベート第一王妃があからさまに喜んでいるのが分かった。あの人が表情に出すのは珍しい。アルフレッドは内心で驚きを隠せなかった。



「さて、遅くなってしまいましたが、ここからが本日の本題になります。」


今まで静観していたロンメル辺境伯が、声のトーンを落として場の空気を変えた。


そこからはアルフレッドが引き継ぎ、リンドロット領で見つかったミスリル鉱脈と浮遊石の鉱脈の報告をした。


話の途中、幾度となく控えの間に驚愕の声があがった。だがそれも、すべての説明が終わる頃には誰ひとり声を発することが出来ないほど、張り詰めた空気に包まれていた。


「ミ、ミスリル鉱脈が100年分以上⋯⋯だと⋯⋯」


「そのうえ、浮遊石までもが大きな鉱脈としてリンドロット領で見つかるとは⋯⋯」


聞こえてくる声はどれも、衝撃でかすれていた。



「いや、良くぞこの非公式の会談に留めてくれた、礼を言う。隣国ザルツェリア王国との戦が目前とされる中、今この国の結束が崩れるような事態は決してあってはならん。この件はここにいる者たちのみの話として、口外禁止を申し渡す。⋯⋯皆のもの、良いな。」


オーウェン陛下が険しい表情で告げると、そこにいた全員が御意を示し、深く頭を下げた。



その後、今後のリンドロット領の対応についても話し合いが行われた。決まった事としては、


ミスリル、浮遊石とも産出量の3割を優先的に王家へ卸すこと。


早急にリンドロット領内に防衛対策を万全に施すこと。


名目上の監査役として、ソフィア第四王女をリンドロット領へ派遣すること。


以上の3点だった。

3点目については、強く反対の意を唱えたが、他の貴族たちへの牽制としてはこれ以上ないとロンメル辺境伯に諭されて、渋々承諾した。


過去にも、高位の貴族が共同経営を名目にしたり、防衛の協力を申し出て兵を送り込み、鉱山を丸ごと乗っ取られるなんて事はいくらでも例があるらしく、そこに王家の者を監視役として駐在させることで、他の貴族たちに手を出させないための絶対的な防壁にするというのが今回の狙いだった。



「よし。今回はここまでとしよう。今夜はゆっくりと休んでくれ。⋯⋯ただ、すまんがその後はなるべく早く自領へ戻ってもらいたい。」


「⋯⋯⋯ザルツェリア王国⋯⋯ですな。」


オーウェン陛下の言葉に、ロンメル辺境伯の顔が厳しくなる。


「ああ。斥候からの報告によると、ザルツェリア王国が国境付近に兵を集めているとのことであった。ここまではロンメル辺境伯も把握しているかと思うが⋯⋯さらにその数を増やしていて、すでに1万を超える軍勢が揃っているとのこと。もはや一刻の猶予もない状況だ。」


そこでロンメル辺境伯がスッと立ち上がった。



「陛下の御前であり大変申し訳ございませんが、退室の許可をいただきたく。ーーアルフレッド卿、いくぞ。」


ロンメル辺境伯は、オーウェン陛下の返事を待つまでもなく出口へと向かっていった。



「ロンメル辺境伯、頼むぞ。援軍はすでに手配をしておる。⋯⋯それまで、何としても持ちこたえてくれ。」


オーウェン陛下の声に、ロンメル辺境伯は振り返ることをせず、ただ右手を上げて応え、そのまま退室していった。






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