(48)世紀の大発見。
北側のブラッドレー辺境伯領との街道整備は、驚くべき速さで終わった。
ロンメル辺境伯がそれだけ開通に尽力してくれたのだ。恩義を感じずにはいられなかった。
アルフレッドは、その街道に照明の魔道具を使って外灯を整備し、ブラッドレー境伯領の領都セントフォレスタとの交易をすぐに始められるよう、準備を進めた。
これで完全に、ブルーノ子爵の思惑に振り回される心配はなくなった。
それと同時に、東側のフルール村へと通じる唯一の道に、想像以上に堅牢な砦が完成した。あまりにも立派すぎる佇まいに唖然としたが、職人たちの怒りが形になったのだと言われては、もはや何も言えなかった。
どちらも想定の半分にも満たない期間で完成させることが出来た。これもロンメル辺境伯のおかげなので、ザルツェリア王国との一件が落ち着いたら、1度温泉にでも招待しようと思う。きっと喜んでもらえるはずだ。
温泉といえば、こちらもリンドロット領内が落ち着いたら、温泉宿を作ってみても良いかと考えている。
滋養と美肌の湯として、絶対に人気を博すに違いない。
いまやリンドロット領は高級食材の宝庫でもある。そうなれば至高の美味を宿の目玉として売り出せるし、金毛神羊の毛やシルクバードの糸を使えば、毛布やタオル、浴衣などの肌触りは極上のものができるだろう。
『他では真似できない、最高のおもてなしをあなたに。』
これは間違いなく成功する。フローラとも相談して、計画を進めていこうと思う。
それから、南側の草原を切り拓いて海へと至る道の整備を始めた。この道が通ったら、さっそく塩作りを始める予定だ。
そう言えば、ついこの間ゼノさんが南側の草原で見つけたという、枝豆と芋を持ってきた。
枝豆があるということは、やがて大豆が手に入る。
大豆があるということは醤油も味噌も作れると言うことだ。(前世で、元アイドルがテレビで作ってたのを真似したり、ラノベの知識を駆使すればきっと⋯⋯)これは嬉しい誤算だった。
だが、ゼノさんが飛びついたのは芋の方で、これで極上の酒を作るのだと、芋を両手に掲げてくるくると踊りながら大いに鼻息を荒くしている。
ゼノさんが普段見せない子供のようなはしゃぎように、周囲からは耐えきれずに大爆笑が巻き起こった。
シルクバードはさっそく翌日から糸を出してくれた。
女性陣からの非常に熱い要望により、まずはその極上の糸を使った下着作りが始まっている。
誓角黒魔牛も、すぐに濃厚なミルクをもたらしてくれた。そこから作り出されるフレッシュチーズは、焼きたてのパンとの相性が抜群だと村の人達の間で一気に評判が広がった。
魔天馬のフィルは、あれから毎日アルフレッドに会いに来ていた。
だが、アルフレッド以外の人間には決して近寄ることを許さなかった。そしてアルフレッドを見つけると、すぐにその鼻面を押し付け甘える姿は、見た者達からまるで恋人のようだと言われるまでになっていた。
そんな忙しい日々を送っていたある日、執務室にガルドさんとゼノさんが物凄い勢いで駆け込んできた。
「「たっ、大変だっ!!」」
「西側の山でミスリルの鉱脈が出たっ!」
「南側の山で浮遊石の鉱脈が出たっ!」
「何っ!?ミスリル鉱脈だとっ!?」
「何っ!?浮遊石の鉱脈だとっ!?」
「「そいつぁ、一大事だッッ!!」」
二人の息は測ったようにピッタリだ。
本当に仲が良いんだろうな。
「その話は本当なのっ!?ミスリルに浮遊石の鉱脈!?それはとんでもなく大変なことよッッ!⋯⋯ど、どのくらいの規模になりそうなのッッ!?」
フローラまでもが興奮を抑えきれないと言うように立ち上がり、そこに入って来た家令のブルックスやメイド長のカミラまでもが取り乱して、大騒ぎとなった。
「ミスリル鉱脈は、軽く見積もっても、この先100年掘り続けてもまず無くなることはない量だ。⋯⋯いや、それどころか多分そんなんじゃ全然追いつかないほど、遥かに膨大な量のミスリルがあの場所に眠ってる。これも、メアリーがあのでっけぇ山を吹き飛ばして、山脈の奥地にまで行けるようにしてくれたおかげだが⋯⋯もはや、この大陸中で必要とされるミスリルを、すべてこのリンドロット領で賄えるようになっちまうかも知れん⋯⋯。」
「「「「〜~〜ッッ!?」」」」
そこにいた全員が息を呑んだ。
これは大変な事になった。もちろん国王陛下へは報告しなくてはならないが、他領や他の国から目を付けられることは避けられない事態になってしまった。
「⋯⋯まずは試掘を始めよう。とりあえず、しばらくはこの事は他言無用でお願い。」
全員が、重々しく首を縦に振った。
「それから、浮遊石って何?」
「「「「はあっ!?」」」」
アルフレッドの問いに、全員が目の玉が飛び出すような驚きの表情を見せた。あまりの衝撃に、ブルックスなどはその場で硬直してしまっていた。
「アル、もしかして浮遊石の事を知らないのっ!?」
フローラが半分叫ぶように問いかけてきた。
「⋯⋯う、うん。初めて聞いた。その浮遊石って、そんなに凄いものなの?」
「「「「「はぁ〜~〜ッッ⋯⋯」」」」」
アルフレッドの回答に、その場にいた全員が頭を抱え深いため息をついた。
「これが実際の浮遊石だ。」
ガルドさんが机の上に、手のひらサイズの平べったく綺麗な青い石をひとつ置いた。
「これに魔力を注ぐと、地面から1メートル位の高さまで浮かび上がる。」
「⋯⋯ふーん?」
アルフレッドは、何となしにその石を持ち魔力を注いでみたが、何の変化も起こらなかった。
「何も起きないよ?」
「そのまま、その石を上下逆さまにしてみな。」
アルフレッドの疑問に答えるように、ガルドさんが教えてくれた。
「⋯⋯おおお?」
アルフレッドが言われた通りにすると、浮遊石はフワフワと浮き上がり、ある一定の高さで止まった。
「それが浮遊石の性質だ。一度魔力を込めれば、後はずっとこの浮力が続く。んで、この石を馬車の荷台に取り付けりゃあ、馬の負担を減らすだけでなく、一度に大量の荷を運べる様になる。だからこそ、商人や貴族、果ては軍や国がこぞって喉から手が出るほど欲しがる超貴重な物なのさ。国によってはすべてを管理して、厳重に秘匿するところもある。兵糧や武器がいくらでも楽に運べるとなれば、それだけで戦の常識がひっくり返っちまうからな。」
「へえー。この石って凄いんだね。」
「なにを呑気なことを言ってるの!? ミスリルと浮遊石が同時に見つかったなんて知られたら、明日には他国の軍隊がここに押し寄せてくるわよッ!」
フローラの指摘に、アルフレッドの背中に冷たいモノが流れ落ちた。
後日、詳しく調査をしたところ、この浮遊石もかなりの量の鉱脈が眠っていることが判明した。
さっそく、試掘した浮遊石を馬車の荷台に取り付けてみたところ、普段の2倍以上の荷物を積んでも、馬に一切の負担が掛からないことが分かった。
「ふーん。確かにこれは、国や軍が放ってはおかないわけだね。ニーナも欲しがるかな?商隊を組むときに楽になりそうだよね。」
「⋯⋯確かに、ニーナ殿なら飛びついて欲しがるでしょう。ただし、気をつけなければならないのは、浮遊石を積んでいると分かれば、他人からその馬車を狙われ、襲撃される危険性があるという事ですな。」
ブルックスが冷静に指摘をしてくれた。
「⋯⋯そっか。それじゃあやめた方が良いか⋯⋯」
「何、そうとも限りません。浮遊石を積んでいると分からない程度に、馬車の荷台に取り付ける浮遊石の量を減らせば良いのです。本来の力は十全には発揮できませんが、馬車が軽くなることには変わりはないですし、他の者たちから見たら、能力の高い良い馬を連れている程度にしか見えないでしょうから。」
「さすがブルックス!それでいこう!」
後日、秘密裏に馬車を改造してもらったニーナは、アルフレッドに泣きながら感謝を伝えてきた。
「「かんぱ〜い(ニャッ)」」
ある日、アルフレッドはニーナから飲みに誘われた。
訪れたのは、最近リンドロット村で人気の、臓物の煮込みと串焼きの店だった。
「ぷはー。仕事のあとの酒は美味いニャッ!アルフレッド様、せっかく招待したのにこんな店で申し訳ないニャ。けど、ここの煮込みと串焼きは絶品ニャ!ぜひ食べてみてほしいニャよッ!」
「へい!煮込みお待ちッ。こんな店で悪かったな。でも、味は保証するぜ!アルフレッド様、しっかり堪能していってくれな!アハハハ⋯⋯」
クマのような大男の店主が、豪快に笑いながら注文した品を置いていった。
「〜~ッッ!?これは美味いな!」
ひとくち食べたアルフレッドは、思わずそう口に出した。
それを見ていた店主は、白い歯を見せて満面の笑顔で喜んでいた。
「〜~これもサービスだ。たくさん食べていってくれな。」
気を良くした店主から、特大のソーセージや、塊肉のシチューなどがどんどんと運ばれて、あっという間にテーブルが料理で埋め尽くされてしまった。
「は〜ぁ、食べた食べた。もう入らない、お腹が苦しいよ。」
「ニャ〜、お腹いっぱいなのニャ〜。今日は楽しかったのニャ〜、これもみんな、アルフレッド様のおかげなのニャ〜⋯⋯」
「いやいや、そんなことはないよ。こちらこそ、ニーナと一緒に飲めて楽しかったよ。美味しいお店を教えてくれて、ありがとうね。」
アルフレッドは、ニーナに笑顔を向けてお礼を言った。
「ニャ〜、その笑顔は反則なのニャ〜。それに、そんなことあるのニャよ?獣人のウチを信用してお抱えの商会にしてくれたり、ロンメル辺境伯領で商いをできるように取り計らってくれたり⋯⋯そのうえに、あの馬車まで。ウチは感謝してもしきれないほど、恩を受けているニャよ〜⋯」
「いや、そこはほら、ニーナのおかげでリンドロット領もすごく助かっているから。お互い様と言うことで!」
「ニャ〜、そんなことないのニャ〜。ウチは、アルフレッド様にご恩をお返しするのニャ〜⋯⋯」
ニーナは、アルフレッドにしがみつくようにすると、その腰にしっぽを絡ませ、
「⋯⋯だから、ずっとずっと、アルフレッド様のそばにいさせてほしいのニャ⋯⋯」
そう言って、自分の唇をアルフレッドの唇に押し付けてきた。
「ちょっ、ちょっと!ニーナ、酔っぱらってる?」
「ムゥ、酔ってないのニャ〜。アルフレッド様、今夜は帰さないのニャよ〜、ムフフフ⋯⋯」
「ちょっ、ちょっと、ニーナッッ。ちょっとまってッッ⋯⋯」
アルフレッドは、そのままズルズルと引き摺られるようにして、夜の街へ消えていった。
「ニャ~ッ! ここはどこニャ! なんでこんなところにいるニャ~ッ!」
翌朝、目が覚めると隣の部屋でニーナが盛大に取り乱している声が聞こえてきた。
このままでは、他の宿泊客に迷惑がかかると思い、アルフレッドは慌ててニーナの部屋の扉をノックした。
「ニャッ! アルフレッド様ッ!? なぜアルフレッド様までこんなところにいるニャッ!?」
「まっ、待てっ!待ってッ!?もしかして、ニーナは昨夜のことを覚えてないのッ!?」
混乱しているニーナを落ち着かせ、そこから昨夜、ニーナに歓楽街を連れ回された話をして聞かせた。
「⋯⋯ニャ〜、そうだったのかニャ〜……。それは申し訳ないことをしたニャ〜⋯⋯」
ニーナは猫耳としっぽをペタンと垂れ、シュンとしてしまった。
「ま、まあ、そんなに落ち込まなくても。お酒の失敗は誰にでもあるし⋯⋯」
「ニャ〜⋯⋯でも、アルフレッド様に迷惑をかけてしまったニャ〜⋯⋯」
「い、いや、迷惑だなんて思ってないよ。むしろ嬉しかったというか⋯⋯」
「〜〜ッッ!?、ほ、本当かニャッッ!?」
アルフレッドの、その言葉を聞いて、ニーナの目がキラキラと輝き出した。
「う、うん。もちろんだよ。ニーナみたいに可愛い娘と一緒にいられて、本当に楽しかったよ。」
「〜〜ッッ、そ、そうかニャッ! それは良かったニャッ! そうニャッ! アルフレッド様と一緒に夜を明かしたと言うことは、アルフレッド様の女になったって事で良いんニャよねッ!?」
ニーナはキラキラした目で、ズイズイとアルフレッドに迫ってきた。
「えっ、と……それはちょっと違うような?……一緒にお酒を飲み明かしただけだし……?」
「⋯⋯そうかニャ⋯⋯やっぱりウチが獣人だからダメなのニャ⋯⋯」
困惑の表情を見せるアルフレッドの姿を見て、自分が獣人だからダメなのだと勘違いしたニーナは、また落ち込んでしまった。
「ち、違うッ、そんなことは断じてないッ。」
「⋯⋯じゃあ、ウチもアルフレッド様の女かニャ⋯⋯?」
「……あ、ああ……も、もちろんだよ……これからよろしくね。」
「〜〜ッッ!?アルフレッド様ッッ、ウチ、最高に幸せニャッッ〜」
アルフレッドに抱きついたニーナは、しばらくの間、言葉にならない嬉し涙を流し続けた。
(……本当にこれで良いのだろうか……)
ニーナの頭をモフりながら、アルフレッドは自戒の念にとらわれていた。
だが、すぐそれも考えるのをやめてしまった。
(……ま、いっか。ニーナは可愛いし)




