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ある日、辺境の貧乏男爵家の当主になった。前世の記憶で楽園を築きたい。  作者: ありんこの王様


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(47)諜報の罠。



「アルフレッド様。急で申し訳ございませんが、お暇をちょうだいしたく存じます。」


執務室で仕事をしていたアルフレッドのところへ、メイド長のカミラが現れてそんな事を唐突に言い出してきた。



「「はあっ!?」」


アルフレッドとフローラは、揃って叫び声を上げた。


「どうされましたかな?」


その声に反応して家令のブルックスが執務室に入って来た。



「カ、カミラが突然辞めるって言い出して⋯⋯」


アルフレッドが、慌てた様子でブルックスに事情を説明する。


「⋯⋯何か、事情がお有りなのですかな?」


ブルックスは、鋭い視線をカミラに向けた。


「ええ。故郷にひとり残してきた母の事が気になりまして。⋯⋯もう高齢なので誰か側にいた方が良いかと。」


「だ、だからって急にそんなッ!?」


「⋯⋯カミラさん。仕事を途中で投げ出すなど貴女らしくないですな。いったいどうしたというのです?」


慌てるアルフレッドと、問い詰めるブルックスを前にしても、カミラの態度は変わらなかった。


「いえ。急ではございません。以前からずっと、いつかはと思っていた事でございましたから。それに、最近では母の体調が思わしくないと報せがありましたので、こうしてお暇をいただこうかという思いに至りました。」


カミラはペコリと頭を下げた。



「えっ!?カミラのお母さん体調悪いのっ!?だったらお見舞いに行くよ。ブルックス、日程調整してくれる?さっそく今日の午後あたりとかどうかな?」


「はっ。承知致しました。善は急げと申しますからな。本日の午後は、ガルド殿たちから南側の草原での調査報告を聞く予定でしたが、そう言う事でしたらそれは明日に延期していただきましょう。」


「ありがとう、ブルックス。よろしく頼むよ。」


「はい。承知致しました。」



「ちょ、ちょっと待って下さいっ!」


アルフレッドとブルックスのやり取りを聞いて、ここまで冷静さを保っていたカミラが急に慌てだした。


「ん?どうしたの、そんなに慌てて⋯⋯」


「い、いえっ。そんなわざわざアルフレッド様の手を煩わせる訳にはいかないですッ。母の体調もそんなに大げさなものではないですしッ、そのっ、そんな事をされなくても大丈夫ですからっ!」


カミラの顔が、だんだんと必死なものに変わっていった。


「いやいや。それでも体調が優れないならやっぱり心配だからね。それにカミラのお母さんなら、ぜひ一度ちゃんと会ってあいさつもしておきたいからね。ーーカミラには、いつか子供を産んでもらうんだし。」


「〜~ッッ!?」


アルフレッドからの突然の申し出に、カミラの顔が一瞬嬉しそうに緩んだ。だが、その後すぐに辛そうな表情になると申し訳なさそうに頭を下げた。


「申し訳ございません、そのお役目はお受けできません。⋯⋯アルフレッド様、そんなに大げさにしないで下さい。母の元に娘が帰る。今回の事は、ただそれだけの事ですから。」


「それでもカミラのお母さんにはあいさつをさせてもらうよ。そうだ!体調が心配なら、カミラのお母さんにリンドロット領へ来てもらえば良いんだよ!温泉にゆっくりと浸かってもらったら、きっとすぐに体調も良くなるよ。よし、さっそく出発の準備をするーー」


「お待ち下さいッ!ダメですッ。アルフレッド様は、絶対に来てはダメですッ!!」


アルフレッドの声を遮るように、カミラが大声を上げ必死になって止めに入って来た。


「どうしたの、急にそんなに大きな声を出して?」


「いっ、いえ。申し訳ございません、失礼致しました。⋯⋯ただ、アルフレッド様がわが家へ来られるのだけは絶対にお辞めくださいッ」


カミラはそれでも頑なにアルフレッドを拒んでくる。



「⋯⋯⋯もしかして、そんなにもカミラに嫌われていたのかな⋯⋯だとしたら⋯⋯すごく悲しいよ⋯⋯」

アルフレッドは悲しそうな表情をみせた。


「〜~ッッ!?そ、そんな事は、あるはずがございませんッッ」


カミラは、今にも泣き出しそうな顔で、縋るような目をアルフレッドに向けてきた。



「⋯⋯カミラさん。貴女、何か隠してるわね。」


フローラの問いに、カミラの肩がピクリと跳ねた。


「〜~ッッ、そ、そんなことは⋯⋯」




⋯⋯コンコン⋯⋯


「お取り込み中、失礼します。」


ガチャりと扉を開けて入ってきたのはエレノアとセシル、そしてフィオナだった。


「アルフレッド様、お取り込み中失礼いたします。早急にお耳に入れておいた方が良いかと思いまして⋯⋯」


3人はいつになく真剣な顔をしている。



「カミラはちょっと待っていてね。エレノア、どんな話なの?」


「はい。先日、旅の商人だという人物が私に接触してきました。そいつは私に、リンドロット領の事やアルフレッド様の事を何かと聞き出そうとしてきました。景気はどうとか、食糧事情はどうとか⋯⋯。また、アルフレッド様の体調や最近変わったことがないかなど、一見世間話に見せかけながら、根掘り葉掘りと聞いてきました。

途中、あまりにもしつこかったので、私には分からないと言うと、貴女はアルフレッド様のお気に入りだろうと、知ってることだけで良いので教えて欲しいと言って、こんなモノを置いていきました。」


エレノアの手には、ミスリルの剣が握られていた。



「私のところにも同じ旅の商人を名乗る人物がやって来て、同じ話をしていきました。どうやら私がアルフレッド様の側室待遇になっていることを知っているようでした。そして、情報をくれれば報酬を渡すと言って、この様な魔法の杖を置いていきました。」


セシルが差し出したのは、杖の先に大きな魔石のはまった、見るからに高そうな魔法の杖だった。



「私のところにも同じようにやって来ました。私の場合は奴隷なのに待遇がかなり良いことから、アルフレッド様の愛妾なのだろうと目を付けてきたようです。

皆さんと同じように情報を聞き出そうとして来ましたが、私が突っぱねると、今度は急に故郷の両親は大丈夫かと聞いてきました。

突然何を言い出すのかと思いましたが、しばらく会っていないようだが両親のことが心配ではないのかと、両親は最近高齢になってしんどそうにしているし体調も良くないようだと、私の両親の住んでいる所や、両親の名前や特徴まで話したうえでそんなことを言ってきました。

そのうえで、情報をくれれば後悔はさせないし両親の面倒は見てやる。意味は分かるよなと言って脅してきました。そして、報酬の前払いだと言ってこんなモノを置いていきました。」


フィオナの手には、大きな宝石がいくつか乗っていた。



ふと、先ほどからカミラの様子がおかしいことに気がついたエレノアが、


「もしかしてカミラさんのところにも来たんじゃない?いったい何人に声を掛けて回ったんだ?こんなことで踊らされるような私達ではないことに気が付かないとは、あヤツはこういう仕事に向いてないんじゃないか?」


エレノアは呆れたように肩をすくめ、それにセシルとフィオナも同調した。


「こんなこと、すぐにアルフレッド様のお耳に入る事になるのに、こんな杜撰な諜報活動をしているなんて、たかが知れてますね。」


セシルもやれやれという顔になった。



「⋯⋯カミラさん。そうなの?」


フローラが尋ねると、カミラは顔を真っ青にして俯き、その身体が震え始めた。



「⋯⋯カミラ⋯⋯それなら相談してくれれば良かったのに。」


「〜~ッッ、アルフレッド様にはご迷惑をおかけする事はできませんッッ、⋯⋯以前、ブルックスさんから、こういう可能性について指摘されていたことを思い出したのです。もし仮に今回何事もなく終わったとしても、またいつかどこからか、きっと同じような事をしてくるかも知れないという思いに至りました。⋯⋯それならば、私が身を引くのが一番良い方法だと⋯⋯」


「カミラ、それは違うよ。その可能性があるのはカミラだけじゃない。今回のように、みんな同じ危険を抱えているんだ。その対策をしてこなかったのは考えが大甘だったけど、もう二度とこんな目に合わせないと誓う。カミラのお母さんもすぐに安全を確認しよう。だからもうそんな心配はしなくて大丈夫だ。⋯⋯⋯カミラ、もうこんなことは考えなくて良いんだよ。⋯⋯つらい思いをさせて、申し訳なかった。」


そう言って、アルフレッドは震えているカミラを抱きしめた。



「⋯⋯そう言えば、カミラのお母さんとフィオナのご両親はどこに住んでいるの?」


「私の母は、ブランドン伯爵の領地に住んでいます。」


「私の両親も同じです。」



「なにっ!?アイゼン・ブランドン伯爵!?」


「⋯⋯?アル、それが何かあるの?」


アルフレッドの驚きようを不思議に思ったフローラがキョトンとした顔で訪ねてくる。



「⋯⋯これから話すことは、ここ以外では口外禁止だよ、良いね。」


アルフレッドは、執務室にいる皆に固く口外禁止を約束をさせたうえで話しを始めた。


「⋯⋯実は今、このフラムフォルド王国は隣国ザルツェリア王国と一触即発状態にある。⋯⋯そして、残念なことに、そのザルツェリア王国と裏で繋がりがあると言われているのが、アイゼン・ブランドン伯爵なんだ。」


「「「「〜~ッッ!?」」」」


皆が息を呑むのが分かった。



「それでは、今回の一連の動きの裏には、アイゼン・ブランドン伯爵とザルツェリア王国が絡んでいると?」


「可能性はあると思う。」


ブルックスの問いに、アルフレッドは難しい顔で頷いて見せた。



「早急に、カミラのお母さんとフィオナのご両親の安全を確保して。この際だから事情を説明して、リンドロット領に移住してもらえないかも聞いてもらえると助かる。」


「ちょっと待って。相手がザルツェリア王国となると下手な動きは返って危ないわ。こういう事は慣れている人に任せた方が良いと思う。私からお父様に連絡を取ってみるわ。」


アルフレッドの指示に、フローラがロンメル辺境伯を動かすことを提案してくれた。


「それから、今度その旅の商人が来たらすぐに教えて。後をつけさせましょう。何か分かることがあるかもしれないわ。もしかしたらザルツェリア王国の隠し拠点があるかもしれないし。こちらもお父様のところに専門の人達がいるはずだから、任せてちょうだい!」


「フローラ、ありがとう。助かるよ。ではみんなそれでお願い!⋯⋯あ、それと、今度その旅の商人が来たら、高い物をたくさんふんだくってやってくれ。本当の商人なら痛い目を見させてやれば良いし、間者ならどうせ向こうの国の金だ。どちらにしても遠慮は要らないよ。」


「「「「〜~ッッ!?、っ、はいっっ!!」」」」


ずっと緊迫した話をしていたところに、最後にこのようなことを言われ、一瞬戸惑った四人だったが、すぐにその意図に気がついて力いっぱい返事を返してきた。



その後、カミラのお母さんとフィオナのご両親は、無事に何事もなくロンメル辺境伯が保護したという一報が入ってきた。


どちらも事情を説明すると、娘に迷惑をかけてしまった事を申し訳なさそうにしていたらしいが、最終的に騒ぎが落ち着いたらリンドロット領へ移住してくることを承諾してくれたそうだ。




そして問題の旅の商人がやって来た。

事前に用意していた偽りの情報を四人から聞いた商人はとても嬉しそうにしていたそうで、報酬をかなり奮発してくれたんだとか。


だが、アルフレッドからの指示があった四人はさらに高額なものを遠慮なく要求し、商人が悲鳴をあげるほど毟り取ったそうで、その人物がリンドロット領を出たときにはほとんど手持ちが無く、スッカラカン状態だったと嬉しそうに報告をしてくれた。


やっぱり女性を敵に回すと恐ろしい⋯⋯。



その後、ロンメル辺境伯からの報せでは、その商人は一度アイゼン・ブランドン伯爵の屋敷に入った後、どこにも立ち寄ることなくロンメル辺境伯のブラッドレー領を通過して、隣国ザルツェリア王国へと国境を越えていったそうだ。


間者だと分かっていながらも、関所では正式な商業ギルドの会員証を提示されたうえ、ザルツェリア王国の伯爵家お抱えの商人だったらしく黙って通過させるしかなかったらしい。

相手につけ入る隙を与えないためにも、明確な証拠もない状態で取り調べをすることが出来なかったのが悔やまれると、ロンメル辺境伯から謝罪された。


「ザルツェリア王国へ入ったってことは、当分ここへは来ない可能性が高いな。偽りの情報で満足したのか、もしくはカミラのお母さんとフィオナのご両親が共にロンメル辺境伯に保護されたと悟って逃げ出したか⋯⋯。」


「その両方かも知れないわね。何にせよ、今後はリンドロット領に出入りする人間のチェックを厳しくして、見張りや見回りを強化していかないといけないわね。」


これについては、今回の件で骨身に染みて痛感させられた。

見張りや見回りの強化だけではなく、こういう事を専門に対処出来る人間も必要になってくるだろう。早急に、ロンメル辺境伯に相談した方が良さそうだ。



フローラを通じて、ロンメル辺境伯に今回の反省から専門の人間を置きたいと相談したところ、訓練を付けてくれる事になった。それと、その人材が育つまでの間、警備をしてくれるために人を派遣してくれた。


その結果、他の貴族達や商会の間者が次々と見つかって頭を抱えた。

その間者たちは、厳しい尋問を受けたうえですべての私財を没収され、リンドロット領を追放処分にされた。


やはり早急に対策を取らねばならないと、改めて認識させられた。


それにしても、アイゼン・ブランドン伯爵を通じて、ザルツェリア王国が既にこんなところまで潜入してきていることに驚かされた。

もしかしたら、こちらのフラムフォルド王国の内情を事細かに調べあげて、内通者を増やすのが目的なのかも知れない。


やはりザルツェリア王国は、戦をする方向に完全に舵を切ったのだろうか⋯⋯。






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