(40)いざ、王都へ。
ロンメル辺境伯から連絡があり、アルフレッドは国王陛下に謁見する事が決まった。
そこからは大騒ぎだった。
まずは同行者を決めることから。ここは王都にも王城にも、何度も行ったことのあるフローラを真っ先に指名した。それと当然のように側仕えの三人が付いてくる。
アルフレッドの側仕えとしては、貴族の世界に慣れているカミラとマリベル。
それと、献上品の運搬管理に大工のガルドさんと仲間達五人。
護衛は、防御魔法のメルヴィン、土魔法使いのキースティン。エレノアと自衛団の中から二十人。
次に、服装が問題となった。
アルフレッドの分は、ロンメル辺境伯から話があった際にナタリーが商業ギルドを通して高級な服を仕立ててくれていた。
フローラは、女性のドレスを新しく作るには余りにも時間がないという事で、実家に預けてある謁見用のドレスを幾つか運ばせて間に合わせた。
メイドのカミラ、マリベルとフローラお付きの三人は普段の格好でも大丈夫だろうということにした。(本当はメイド服も高い生地を使った物の方が良いらしいが妥協した)
ガルドさん達は裏方に徹するという事で、既製の高級品の服で取り繕った。
そうなると問題は護衛の人たち。
メルヴィンとキースティンを含む護衛の人たちも、王都や王城へ行くことを考えると、しっかりとリンドロットの紋章の入った正礼装にマントが必要だろう。
そして、ここでもナタリーが大活躍してくれた。
商業ギルドを通して職人をかき集め、ケットシー商会のニーナを通じて大急ぎで素材を運び込み、こちらもギリギリになったが一応の格好がつく形に収まった。
後日談として、この正礼装がリンドロット村でかなりの評判となり、自衛団の団員全員分を作ることになる。
他にも、普段の制服も統一の物が欲しいとの声が多数上がり、それを見たクロスボウ隊の女性達も、自分たちも制服が欲しいと言い出して共に製作する運びとなっていく。
自衛団用には、ナイトブルーの生地に金糸と緑糸でリンドロットの紋章『有翼獣と四つ葉のクローバー』が左胸に刻まれた制服が出来上がった。余りの出来の良さに驚きの声が上がったが、せっかくだからとこれを期に正式にリンドロット騎士団を名乗ることとなった。
※メルヴィンとキースティンはこれを期に騎士団に入団。人と戦うことを考え躊躇していた剛力ガレウスも後に入団をする。
因みにこの『有翼獣と四つ葉のクローバー』の紋章の由来は、危険な魔物が蔓延っているこのリンドロットの地にも、いつか幸せが訪れるようにとの願いを込めてのものだそうだ。
クロスボウ隊の女性用には、ワインレッドの生地に左胸に青いバラが刺繍された制服が出来上がった。これを期にクロスボウ隊は『蒼い薔薇隊』として結成し活動していくことになった。
この刺繍の由来は、自然界において蒼い薔薇が咲くことは『あり得ぬ奇跡』として広く知られていて、それなら女性が戦功を挙げて名を轟かせることで、蒼い薔薇に負けないようこちらも歴史に名を刻ませようと、常々女性たちの間で盛り上がっていたことが発端だそうだ。
王都への出発までの間は、他にも王都までの行程計画を作成したり、通過する地の領主へ挨拶の手紙を出したりと、毎日遅くまで準備のためにバタバタとして過ごした。
「――、こ゛ッッ、お゛ッ、お゛こ゛ッ、こ゛ふッ、ッッ、く゛え゛ッ、ん゛ッッ、ん゛ふ゛ぅッッ、く゛ふ゛ッ、ん゛く゛ッ、ん゛ん゛〜〜」
「〜〜ッッ、ぐぅっ、メアリーっっ、出るっ〜〜ッッ!……」
王都に行ってる間は会えないからたくさんしておく。そう言って夜半過ぎにアルフレッドの部屋に来たメアリーは、いつも通りいそいそと服を脱いでベッドの端に腰掛けたアルフレッドの足の間にしゃがみ込み、頭を押さえつけられ喉の奥までモノを咥え込んで、アルフレッドを果てさせた。
「……ん。アルフレッド様の性癖だから、しかたない」
メアリーは毎回こう言うが、実はメアリー自身がお気に入りの行為になっていることを、アルフレッドは気付いていた。
「あ゛っ、あ゛あ゛っ、お゛っ、奥っ、お゛く゛っ、当たってるっ、当たってるっ、ぐりぐりっ、子宮ぐりぐりっ……あ゛あ゛あ゛っ、き゛ち゛ゃう゛っ、き゛ち゛ゃう゛ぅっ……あ゛っ、ん゛ほぉっ……い゛っ、き゛っ……い゛っ……き゛ゅ゛う゛う゛う゛っっっっ……」
さらにメアリーは、うつ伏せになって押さえつけられての行為や、両手を縛られ目隠しされての行為などがお気に入りで、いつの間にか、それをされると盛大に潮と尿を噴きながら大絶頂を繰り返すようになっていた。
「……これで、アルフレッド様が帰ってきた頃には、私は腹ボテの妊婦になっている。ぐふふっ」
メアリーが、自分のお腹を愛おしそうに撫で回しながら、びっくりするようなことを言い出した。
「――ッッ!? いやっ、ルシエラ婆さん特製の避妊薬はっ!?」
「……この後、きっと飲むのを忘れる」
「いやっ!? ちゃんと飲もうねッ!?」
アルフレッドは焦り、全身から変な汗が噴き出した。
「……アルフレッド様は、私の子供欲しくない?」
メアリーが寂しそうな顔を向けて来る。
「そういうことじゃなくてっ、フローラより先に子供出来ちゃったら問題になるでしょっ! フローラを敵に回しちゃダメだからっ!!」
「むぅ。確かに、正妻を敵に回すのは良くない。仕方ない、今回は諦める」
メアリーは、少し残念そうにしながらも、ニシシッといたずらっ子のような笑顔を見せた。
ふ~っ……
アルフレッドは、ホッと胸をなで下ろしたと同時に、ふとメアリーが撫でているお腹が膨れ上がっている姿を想像してみた。
この小さな女の子が大きなお腹を抱えて愛おしそうにしている様子。
今は肩のところで切り揃えられている髪の毛は伸びて、ひとまとめにして耳の横から前へと垂らしている。表情は既に母親の顔になっていて、優しい微笑みを湛えていた。
出産は苦労するも、元気に生まれてきた我が子を抱きしめ、幸せそうにしている。
それからも、だんだんと大きくなっていく我が子にまめに世話を焼き、意外にも子煩悩なところを見せていく。
子供にはメアリーの才能を引き継いだのか魔法の才があり、メアリーが毎日付きっきりで魔法の基礎を教えている。どうやらメアリーはスパルタのようだ……。
そんな映像が、アルフレッドの脳裏を一瞬で駆け巡った。
……ああ、こんな未来も良いな……
アルフレッドはしみじみとそう思った。
「……いつか」
「……ん?」
「いつか、二人のの子供欲しいな」
「〜〜っ、うんっ!!」
メアリーは、アルフレッドがこれまでに見たこともないほどの満面の笑顔で、その表情を輝かせた。
「アルフレッド様、そろそろ魔法の練習がしたい。どこか吹き飛ばして良い山はある?
きっと今度は上手くいく」フンスっ
「……いや。とりあえず、そんなにポンポン山を消すのは止めておこうか……」
さっきまでの空気は何処へやら、すぐにこんなことを言い出すのもメアリーらしいと言えばらしい……。
そしていよいよ、アルフレッド一行は王都へ向けて出発した。
順調に行っても王都までは約三週間の道のりで、ロンメル辺境伯とは同行せずに王都で会う約束となっており、そこまでは自分たちで組んだ行程に沿って進めて行くしかないのは非常に心細かった。
その結果、道中で魔物や盗賊に襲われたりするのは日常茶飯時で、その他にも、町に着くのが日没ギリギリになって門を閉められそうになり、賄賂を要求する門番とひと悶着あったり、
アルフレッド達を辺境の田舎貴族と侮って、通行料をふっかける門番が登場したりと散々な目にあった。
どちらも、ロンメル辺境伯の紹介状と紋章を見せた途端、相手が真っ青になって急に平伏しだして事なきを得たが、激怒したフローラの手によってすぐにその地の領主の耳に入る事となり、王都から帰る際にはその様な門番はひとりもいなくなっていた。
そんな事もあり、決して順風満帆とは言えぬ道中を経ながらも、アルフレッド一行は無事に王都の地を踏むことができた。
王都ではロンメル辺境伯とも無事に落ち合えた。これで、アルフレッド達はようやく緊張を解くことができ、深い安堵の息を漏らした。
そして、いよいよ翌日に王城へと赴くこととなった日の午後、アルフレッド達が泊まっている宿の前に一台の豪華な馬車が停車した。
「アルフレッド様、お客様がお見えになっております」
宿の主人にそう声を掛けられロビーに向かうと、そこにはどこかの貴族の執事であろう初老の男性が、背すじをピンと伸ばしまっすぐこちらを向いて待っていた。
「お初にお目に掛かります、アルフレッド・リンドロット様。突然の不躾な訪問、何卒お許しください。
私はザルグリード公爵家に仕えております、セバスと申します。本日は当家の第二夫人シャーリー様の命により、アルフレッド様をお迎えに上がらせていただきました。
門前にて、公爵家の馬車をご用意して待機させております。突然のことで大変恐縮ではございますが、何卒、私共と共にお屋敷まで足をお運びいただけますよう、お願い申し上げます」
セバスさんは背筋をまっすぐに保ち、左手を胸に当てて右手を後ろに回すと、恭しく頭を垂れてあいさつをした。
「……アル。相手は公爵家の第二夫人よ、ここは断るわけにはいかないわ」
フローラがスッと寄ってきて、耳元でそっとアドバイスを送ってくれた。
……あまり気乗りがしないけど、そう言う事なら仕方がない。
「分かりました。そういう事でしたらお伺いさせていただきます。準備をしてきますので、少々お待ち下さい」
アルフレッドはそう答え、一度部屋に戻った。
「……公爵家の人間が、先触れもなしに突然何の用だろう」
「考えられるのは、アルが今まで商業ギルドに登録した物の権利に一枚噛ませろって言ったところかしら……」
アルフレッドの疑問に、フローラが頭を捻りながら答えた。
「まあ、良くあるのは、この王都での優先的な販売権を寄越せってところかしらね。その分、他の都市への斡旋はしてくれるから、全体で見れば損にはならないわ」
フローラの見立ては、十分にあり得そうな事だった。
「……どうしようか?」
「それは、アルがどうしたいかによるわね。けど、癪に障るけど相手は公爵家。完全に断るのは難しいと思った方が良いわ」
「うーん。多少の譲歩はしょうがないのか……」
アルフレッドは悩んだ。ここまで何もしていない人間が、突然横からやって来て権利を寄越せというのはどうしても納得いかなかった。
また、こうして迎えに来られてしまっては、ロンメル辺境伯に相談する時間もなく自身で判断するしかない。
「……まあ、まだそうだと決まった訳じゃないわ。とにかく行ってみましょう。セバスさんをいつまでも待たせておくわけにもいかないでしょう」
そうフローラに言われて、アルフレッドは部屋を出た。同行者には、フローラとお付きの騎士ミレーユ、それにエレノアが付き添った。
その後馬車に乗り込んだ一行は、セバスさんの案内のもとザルグリード公爵家の門をくぐり、屋敷に通された。
そして、そのまま何もなく二時間以上待たされ、アルフレッドが痺れを切らして帰ろうかと腰を上げかけたところで第二夫人が現れた。
「……ふん、そなたがアルフレッド男爵ですか。はぁ……ここへ足を運んで損をいたしましたわ。わざわざ時間を割く価値すらありませんわね。よくもまあ、平然とわたくしの前に立てたものですこと。身の程知らずにも程がありますわ。そなたのような者がこの屋敷の中にいること自体、本来なら許されない不敬だと自覚なさい」
「…………は?」
ようやく部屋に入って来たかと思うと、いきなり嫌そうな顔を見せてそう言い放ち、パチン!と部屋中に響くような鋭い音を立てて扇子を閉じた。
この行為は、アルフレッドに向けて、お前は見る価値もない、挨拶を交わす時間すら無駄だと拒絶の意思を示すものだった。
「――なッッ!?」
これには、アルフレッドよりもフローラの方が先にキレた。
「ちょっと、シャーリー夫人。それは余りにも不作法ではございませんかっ! 人を呼びつけておいて、あいさつの言葉ひとつなく、それはあまりに非礼というもの」
フローラが怒りで声を震わせながら、食って掛かった。
「ふん。非礼ですって? 傑作だわ。私はいつから、あなた達のような下賤な者に挨拶をせねばならない身分に落ちぶれたのかしら。不快よ、その汚らわしい口を閉じなさい」
「〜〜〜ッッ!!」
フローラが怒りで全身を震わせた。
「……それで? 何の用で呼ばれたんですかね。用がないならさっさと帰りますよ。こちらもあなたの顔なんか見たくもないですからね」
腹に据えかねたアルフレッドも、相手が第二とは言え公爵夫人に向かって辛辣な言葉を投げつけた。
「ふん。やはり下賤な者は言葉も下品ですわね。まあ良いわ。ワタクシも貴方たちと長々と話をするつもりはありません。単刀直入に言いましょう。石鹸とシャンプー、それに化粧水とハンドクリームの権利を今すぐ全てこちらに渡しなさい。貴方たちには手に余る代物。ワタクシが全て有用に使って差し上げます」
「「「…………は?」」」
先ほどフローラが言っていた話が可愛く見えるほどの衝撃に、アルフレッド達は揃って目が点になった。
「よろしいですわね。では、そういうことで」
それだけ言うと、もう用はないとばかりにシャーリー夫人はくるりと踵を返した。
あまりのことに怒りが限界にまで達し、全身がワナワナと震える。握った拳は力が入りすぎて真っ白になっていた。
「……くっ、……くっくっくっくっ、……あ〜っはっはっはっ……」
「……アル?……」
突然笑い出したアルフレッドを見て、フローラは戸惑いの色を見せた。
「あっはっはっは⋯⋯シャーリー夫人、そのお話、承りましょう」
「……ふん。中々、分をわきまえておるではないか」
シャーリー夫人はそこで足を止め、満足気な顔を見せた。
「――ッッ、ちょっと!? アルッ!?」
フローラは心底驚いたという顔になり、アルフレッドにしがみついた。
「アルッッ、正気なのッ!? しっかりして!!」
目に涙を浮かべてアルフレッドに詰め寄った。
そんなフローラに、笑顔を向けてから真っすぐにシャーリー夫人を見据え、
「そのお話、お受け致しましょう。……ただし、それと引き換えに、この公爵家の持つ全ての領地と資産をこちらに譲渡していただけたらです。そうしたら喜んで全ての権利をお渡しいたしますよ……それが条件です」
アルフレッドは、してやったりと言わんばかりの笑みで公爵夫人を見返した。
それを聞いたフローラとミレーユ、エレノアが、ポカンとした顔からいっきに笑顔が弾けた。
「アルッッ!」
「「アルフレッド様ッッ」」
――そういう事ねっ、驚かせないでよ! あはははっっっ……――
わいわいと騒ぐアルフレッド達とは反対に、プルプルと身体を震わせて怒りを露わにするシャーリー夫人。
「〜〜ッッ、な、何を馬鹿な事を言ってるのッッ、そんなことする訳がないでしょうッ!! ふざけるのもいい加減にしなさいっ、ワタクシを愚弄してるのかしらッ!! このっ、無礼者がッッ!!」
シャーリー夫人の怒鳴り声が部屋中に響き渡った。
「……その言葉。そっくりそのままお返し致しますよ。石鹸もシャンプーも何もかも、開発する際に、販売する時に、貴方は手を貸してはくれましたか? 何か手伝いをなさいましたか? 何の貢献もしていないくせに権利だけ寄越せとか、どこかのオークですらみっともなくて口にしない厚顔無恥な言葉ですよ。人を愚弄している無礼者はあなたです! 強欲・お・ば・さ・んッ」
「……!?……お、おばっ……ッッ」
アルフレッドの余りの暴言に、思考が追いついていないかのように、シャーリー夫人の顔から表情が抜け落ちた。
「…………ッッ〜〜ぷっ……」
「「〜〜ッッ、くっくっくっ……」」
「「「あっはっはっはっはっ!!!!」」」
フローラ達は大爆笑の渦となった。
「〜〜ッッ、 ワタクシを愚弄するのもいい加減にしなさいッッッ!!……良いでしょう! アルフレッド男爵ッ、このままただで済むとは思わないことですわッッ!!」
「〜〜はっはっは〜〜っ……良いですよ。どうぞ何でもやって下さい。では帰りますね」
さあ皆帰ろう。そう言って席を立った。
「キ〜〜ッッ、覚えておきなさいよッッ!! この王都に何をしに来たのかは知らないけれど、たとえどんなに小賢しい玩具を作ろうとも、貴方のような身の程知らずの男爵風情がワタクシに、この公爵家に反抗したら、どうなるか徹底的に分からせてやりますからッッ!!」
シャーリー夫人は、アルフレッド達の背中に罵声を浴びせてきた。
「……ああ。知らなかったんですね。王都へ来たのは、国王陛下に謁見するためですよ。因みに、それが明日です。……丁度良いですから、今日のこの素晴らしいお話も、陛下への『土産話』としてお伝えしておくことにいたしましょう。――それでは、ごきげんよう」
それだけ言うと、アルフレッドは部屋を出た。
「えっ!? えっえっ!? ええっ!?⋯⋯ちょっ、ちょっと待ちなさいッ! それはどういうことですのっ!? 陛下と会われるとは、いったいッッ⋯⋯」
後ろの方でシャーリー夫人が何か喚いていたが、そのまま扉を閉めた。
「……お待ちなさいッッ、……お待ちになってッ〜〜……ッ……」
シャーリー夫人の声が、扉の向こうから小さくこだましていた。




