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ある日、辺境の貧乏男爵家の当主になった。前世の記憶で楽園を築きたい。  作者: ありんこの王様


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(36)商業ギルド、リンドロット支部。



 ロンメル辺境伯との密談から一週間後、アルフレッド達は何事もなく無事にリンドロット領へ帰ってきた。


だが、リンドロット領内に入るとすぐに、村じゅうが騒がしい事に気が付いた。

大人達が走り回り、何かをテキパキとこなしているのだ。



「おう! 帰ってきたかアル坊よ! もちろん土産は有るんだろうな?」


ゼノさんは相変わらずの酒好きだ。


「うん。ロンメル辺境伯から高いお酒をたくさん貰ってきたよ」


その答えに、ゼノさんはさも嬉しそうに破顔した。


「ところでゼノさん。何だか村じゅうが騒がしい気がするんだけど、何があったの?」


ずっと気になっていた事をゼノさんに聞いてみた。


「おお! そうそう。白魔山から温泉が湧き出したんだよ!」



「…………はい?」


詳しい話を聞くと、地竜を倒した後の調査を行なったところ、白魔山の裏手に地竜がねぐらにしていたと思われる大きな巣の跡を発見したらしい。

その巣は地表が熱くなっており、一種の岩盤浴状態になっていたのだとか。地竜は、ずっとその熱で身体を温めていたと思われるそうだ。

そして、その熱い岩盤をゼノさんが何気なく叩き割ってみたところ、その下から温泉が勢い良く噴き出したらしい。


これには村じゅうの人たちがもろ手を挙げて大喜びし、我先に手伝いを申し出て、今はその温泉を魔鉄を使ったパイプや、赤土と白魔石で固めた土管のような物を作って繋げ、村まで引いて来ている最中なのだとか。



…………ほほぅ…………。



温泉、キターーーッッ!!!!


アルフレッドは、人目も憚らず両手の拳を振り上げて天に向かって叫び声をあげた。



「ちょっと!! 道の真ん中で何やってるのよ。帰ってきたなら、すぐに顔くらい見せなさいよ!」


気が付くと、アルフレッドの前に、フローラが腕を組んで仁王立ちしていた。


「……あ、ああ。フローラ、ただいま……」


……何だかフローラが怒っているような気がする……何故だろう……


……そのまま、機嫌の悪いフローラに引っ張られるようにして執務室まで連れてこられた。



「……私とまだ結婚もしていないうちに、次から次へと愛妾や側室候補を作るってどういうことかしら? カミラ、エレノア、メアリーに商業ギルドのナタリーさんまで……さらに、その次はリナですって!? どういうことなのかきっちり説明してくれますわよね! アルフレッド男爵閣下殿ッッ!!!!」


「ひえっ!?……な、なんでナタリーやリナのことまでっ!?」


アルフレッドは、突然のことにあたふたとしだした……


「……ナタリーさんは、例の盗賊達の事を教えてくれた手紙の中で、貴方との関係が書かれていたわ」


「〜〜ッッ、ひえっ!?」



「……で、リナの事だけど……」


そこでフローラが後ろを向くと、そこから現れたのは、メイド姿をしたブルーノ子爵家で働いていたマリベルさんだった。


「――えっ、マリベルさん!?」


「お帰りなさいませ。アルフレッド様。あの時お誘い頂いたので、さっそくブルーノ子爵家を辞めてこちらにお世話になりに来ました」


マリベルさんは、ここでも綺麗なカーテシーを決めて挨拶をしてきた。


「あ、ああ。ようこそリンドロット領へ、歓迎するよ。……って随分と早い決断だったんだね」


「はい。アルフレッド様の、あの熱い夜の件をブルーノ様にご報告してすぐに、その足で辞めてきましたから」


アルフレッドの問いに、ブルーノ子爵の屋敷では一度も見せたことの無い、いい笑顔を見せた。



「……は、ははっ、……って、あの熱い夜の件って……も、もしかしてフローラがリナの一件を知ってるのも……」


「はい。私からフローラ様にご報告させていただきました。こういうことは、少しでも早く奥様のお耳に入れておかないと、後で大事になると思いましたので」


「……いや、そのおかげで今、大事になってるんだけど……」


マリベルの中で、フローラは既に奥様なのね……。

絶対に敵に回してはいけない人物、リンドロット領のラスボスをすぐに見抜いて傘下に収まるとは、マリベルは中々に抜け目がない。


背筋に冷たい汗が流れ落ちた。



その後、フローラから、お父様に事情を話して、このままだと私よりも愛妾や側室の方が先に跡継ぎができてしまうので、婚前行為の許可を取ってくるとの、説教と言う名の恐ろしい脅し文句を正座しながら聞かされた……。


……ロンメル辺境伯にそんな怖いことを話すのだけは止めようね。あの赤毛斬牙熊を一撃で葬った大剣を振り回しながら、追いかけ回される映像しか思い浮かばないから……。


こうして、無事に(?)マリベルさんが我が家のメイドになった。マリベルさんはやはり優秀らしく、メイド長のカミラが、マリベルさんが一緒に働くことになったのを聞いて大喜びしていた。




アルフレッド達がリンドロット領に戻ってから一週間後、遂に念願の温泉大浴場が完成した。

湯量が豊富だったので、贅沢をしようと男女用共にプールのような広さの露天風呂を作ってしまった。


もちろん、源泉かけ流し!

もちろん、お湯は龍の口から出てくる。

もちろん、露天風呂の真ん中に女神の石像が立ってる。……なぜだ?



その他にも、サウナや打たせ湯、岩盤浴にジェットバス等、魔石と白魔石それに魔鉄を使って色々なお風呂を製作していった。


驚いた事に、この温泉は白魔石の鉱脈を通ってきているからか、白魔石の影響と見られる効能が如実に見られた。お湯はまったりとした白い湯で肌に良く、疲れや冷え性、ケガ等もすぐ治ると評判になっていく。


特に、この温泉に浸かると肌の調子が飛び抜けて良くなり、風呂上がりの女性達は皆、ゆで卵の殻を剥いたようなつるつるの肌になって、美肌の湯としての評判もうなぎ登りであった。


また、この温泉をそのまま飲んだ人がいて、二日酔いがすぐに治まったと騒いだのを発端に、内臓疲労や病気の治療、胃腸の調子を整えたり、便秘や女性特有の悩みなどを解消してくれる万能の湯として、さらに人気に拍車が掛かることになる。


ここまできたら、もう前世の記憶とラノベの知識の出番だ。


お風呂といえば石鹸! それからラノベの知識では、シャンプーにコンディショナーに、……ついでに、化粧水にハンドクリーム辺りを作っていた気がする。


さっそくやってみた。


まずは石鹸から。

この世界の石鹸は、植物の実を乾燥させて砕いたものを固めて使っている。シャボンの実と言って畑で栽培されているものだ。


よし、ここはひとつ、助けて白魔石えもん! テッテレー!!


まずはシャボンの実をすり潰して、中の成分だけを粉にして取り出した。そこに村の温泉水と白魔石の粉、オリーブに良く似た植物の油、香り付けに花や柑橘系、香草や薬草を練り込んだものなどを混ぜてみた。


そして、ここからがリンドロット流。

土魔法使い達に固めてもらったら、あら不思議!!

何ということでしょう、泡立ちと香りの良い、肌に優しく、汚れ落ちの良い高級感漂う石鹸が完成したではないですか。


……まあ、唯一大変だったのは、土魔法使いたちが普通に魔力を込めて固めると、レンガのように硬くなってしまうことだった。柔らかすぎても硬すぎてもダメなので、魔力の力加減が難しかったのだ。


さっそく商業ギルドへ登録し、ケットシー商会を通じて販売したところ、そりゃあ売れるよねってほど売れに売れた。

油や香料を変えて高級感をさらに高めた貴族用も、ぼったくり価格にもかかわらず予約が殺到し、皆そろってホクホク顔だ。


んでもって、お次はシャンプー。

こちらは、先ほど出来た石鹸を一度粉にして温泉水で再度溶かし、そこに保湿成分としてハチミツとツバキに似た植物の油、薬草から作ったポーションを混ぜて徹底的にかくはんしたら完成。

一度固めた石鹸を使うことで成分が凝縮され、さらにそこに温泉水が加わることで白魔石の効果をアップさせた。そしてこれが髪に潤いを与える見事な一品に仕上がった。


男性用のシャンプーには、ミントや薄荷に似た成分を入れてスッキリ爽やかに、女性用は柑橘系や草花の香りを付けたら評判が一気に爆発。

やっぱり、髪の毛を清潔に保てるのは良いよね。


因みに、これで充分に髪の毛がしっとりツヤツヤになってしまったので、コンディショナーは諦めたよ。


その次はハンドクリーム。

ミツロウにオリーブ油モドキ、草花や柑橘系の香料、温泉水を加えて溶かし固めたら完成。

こちらは簡単な割に効果が目で見て分かるので、高級品は貴族の女性達に、一般用は家庭の主婦から使用人達にまで愛用されて大ヒットした。特に冬場の水仕事はあかぎれ等ができて厳しいらしいので、大変に喜ばれた。


最後に化粧水。

温泉水にハチミツとアロエベラのエキス、薬草から作ったポーションを混ぜたら完成。

やはり白魔石の鉱脈を通って来た温泉水の効果は凄く、つるつるの肌になるのをそのまま保湿する方向にしたところ、これが大当たりとなって女性達に大人気になった。


後年、世の女性達からリンドロット領を指して【美をもたらす桃源郷】などと言われるようになるのは、また別の話。


因みにここまでの製品の製造は、エルフの人達が喜んで引き受けてくれた。

自然由来のモノを利用しているので、自然に触れ合いながら働けるのがエルフの人達には嬉しいようだ。


それと、どうせならとドライヤーと扇風機を作った。こちらも設計図を作ったら、エルフの人達と大工のガルドさん達で試行錯誤して作り上げてくれた。


やっぱり髪の毛を洗ったらドライヤーで乾かしたいし、お風呂上りは扇風機の風に当たりながら牛乳を飲みたいよね。


因みに、この二つも商業ギルドへ登録したところ、石鹸からここまでの一連の商品と合わせて革命が起きたと大騒ぎになったらしい。

この立て続けの登録ラッシュで、商業ギルドはしばらくの間ドタバタと大忙しだったとか。




それから少し経ったある日、突然リンドロット領に商業ギルドの支部が出来た。

ちょっと前に、ギルド名義で村に一軒建物を建てて欲しいと依頼があったみたいだけど、そこにギルド支部が誕生したらしい。


そして、さっそく商業ギルドの支部長が着任の挨拶に訪れたと、ブルックスがアルフレッドを呼びにやってきた。


リンドロット領に商業ギルドが出来ることについて、事前に領主のアルフレッドに何の連絡もないのはどう考えてもおかしい。せめてひと言文句を言ってやろうと思い、気合いを入れて応接室のドアを開けた。


すると、そこにいたのは意外な人物だった。



「…………えっ? ナタリー!?……何してるのっ!?」


アルフレッドの顔は、あまりにも驚いたことで物凄くマヌケな顔になっていたらしく、ナタリーは笑いが収まるまでにかなりの時間を要した。

そして、その後に改めて挨拶の言葉を交わした。


「ふふふふっ。お久しぶりです、アルフレッド様。この度商業ギルド、リンドロット支部の支部長に任命されました、ナタリー・オルコットと申します。どうぞこれから、末永くよろしくお願いいたします」


そう言って勢いよく飛び付いてきたナタリーをしっかりと受け止めた。



ナタリーは、アルフレッドがリバーシとチェスを商業ギルドに登録した頃から、リンドロット領に支部を作るように上層部に進言していたらしい。


そして今回の石鹸から始まり、ドライヤーから扇風機に至るまでの一連の大ヒット連発で、遂にリンドロット支部の開設が認められたのだとか。

そこで、予てからリンドロット支部の開設を提言していて、アルフレッドとも懇意にしているナタリーが支部長として任命されたのだと言う。


もしかしたら違う人が支部長に任命されてた可能性もあったのかな?

ある時にふと疑問に思って聞いてみたところ、きっとその人は命がいらない人なのだと思いますわ。ウフフフフッ……と、近寄り難い雰囲気で言っていたので、それ以降はこの話題に触れないようにしている。


因みに、フローラとブルックスは、商業ギルドの支部がリンドロット領に出来ることを知っていたんだとか。


…………教えてよね。




それから数日後、商業ギルドの件も落ち着きを見せた頃、遂に銃が完成した。

ボルトアクションのライフルタイプにマガジンを付けた。マガジンには弾丸を二十発詰め込めるようにして、銃身の内側にはらせん状の溝を作り、弾丸が回転して飛ぶことで弾道を安定させる仕組みだ。その他にも銃身が熱を持たない工夫や、リロードのスムーズさの他に、銃の威力を数倍に上げる効果の白魔石を溶いて描いた導線を組み込んで仕上げた。これはもはや魔銃と言って良いかも知れない。


弾丸は、炎の魔石と白魔石の粉末と、火花草という着火剤のような役割をする多年草を乾燥させて粉末にしたものを混ぜて、薬莢に詰めた。それを撃鉄に取付けた炎の魔石が薬莢の雷管を叩くと中で弾けて、魔鉄の弾丸が飛び出すという作りになった。


銃が完成した時、真っ先に試し撃ちを始めたのは、意外にもクロスボウ隊の女性たちだった。

興奮しながらいつまでも試し撃ちを止めない姿を見て、このままでは自分たちに銃が回ってこないという事に気が付いた自衛団の団員たちは、団長のエレノアに泣き付いた。

そのエレノアが苦笑しながら仲介した事で、渋々完成品十丁の内の半分が自衛団に引渡された。


試し撃ちの銃が足りなくなった女性達の不満はすぐに爆発した。女性達は大挙して大工のガルドさんのところに押し掛け、尻を蹴飛ばし他の仕事を後回しにさせてまで、追加で銃と弾丸を作らせた。


嬉々として試し撃ちをしている女性達の中にはエルフの女性も大勢いて、この村の女性たちはみんな揃って勇ましいのだと改めて認識させられることになった。これは、今後もガルドさんを見習って逆らわない方が良いと思う。


不眠不休で銃を作らされているガルドさんは、目の下にクマを作り、フラフラになりながらも作業を続けていた。アルフレッドは少し落ち着いた頃を見計らい、労をねぎらうために高いお酒を持って、ガルドさんの元へと向かった。



「――おお!? さすがはアルだ! こりゃあ、ありがてぇ! やっぱコレがねぇと始まらねぇよ! わっはっは!……って、まさかこれ、また何か作らされる前の賄賂とかじゃねぇよな?」


「イヤだなぁ〜。そんなことあるわけないじゃない。…………ただ、次はもっと大きな銃を作って欲しいなぁってお願いしにきただけだよ。……大砲って言うんだけどね。テヘッ」


「ブッ!? ゲホッ、ゲホゲホッッ……〜ッッ、アルッッ、ワシを忙しさで殺す気かっ!? テヘッじゃねぇッッ!!」


「え〜〜っっ」


「え〜〜っじゃねぇッッ!!」




そんなバタバタの日々を送っていた時、村に事件が起きた。





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