(31)魔法使いメアリー。
「怯むなッッ、撃て、撃て〜〜ッッ!! 何としてもここでくい止めるぞッ!!」
――バシュッ、バシュッ、バシュッ――
――ビシュッ、ビシュッ、ビシュッ――
……ドーン!! ドドドーン!!……
ガツンッ、ガツッ、ガガンッ、ガツッ、ガンッッッ……
――ッッ、ギャオオオオオォォォォ~〜~ッッッッッッ――
「――ッ、諦めるなッッ、怯むなッッ!!」
「メアリーはどこッッ……」
「メアリーッッ!!」
「メアリーッッ!!」
「わ、私がやらなきゃ……私が、私が……ブツブツ……」
……ガクガク……ブルブル……
考えろ、考えろっ、どうしたらメアリーは魔法を使える。どうしたら…………何か手はないか……、何か……
――ッッ、ギャオオオオオォォォォ~〜~ッッッッッッ――
――くッッッ!! ここはいったん引けッッ――
――もう、村まで距離がありませんッッ、ここで引いたらッッ――
思い出せ! 思い出せっ! メアリーが魔法を使った時、何をした……何で魔法が使えた……
――もう矢がありませんッッ――
――地竜の左側面にいた部隊に、ヤツの尾が直撃しましたッッ、負傷者多数ッッ……――
思い出せ、思い出すんだっ……
最初に魔法が発動したのは、東側の山の時……。
あの時も何回も失敗して、メアリーが泣き出したのを慰めて、泣き止んでから呪文を唱えたら魔法が発動した……
――狼狽えるなッッ、ヤツの動きに注意しながら、負傷者の救護を優先しろッッ――
――うわッ!! こちらは、もう持ちませんッッ――
二回目の時はどうだ。ワルターの私兵達が現れて、絶体絶命のピンチだった。あの時は、誰もメアリーの事など見る余裕も無くて、気が付いたらメアリーが光っていて魔法が発動していた。
――――ガアアアアアアアッッッッッッ――――
――ぎゃあッッ、わぁぁッッ〜〜……――
……私がやらなきゃ……私が……私……
三回目の時はどうだった。魔法を使う宣言をしたけど、結局あの日は発動せず、翌日の早朝に人騒がせな成功を収めた……何があった、発動時の共通な事とは何だ?……
――もう、防衛線が持ちませんッッ、限界ですッッ……――
――もうダメですッッ、撤退の指示をッ……――
――――ガオオオオォォォォッッーーーーッッ――――
…………ハッ!?
……もしかして……
もしかして……もしかしたら、メアリーはプレッシャーに弱いのか?
魔法を使う時、皆の注目が集まったり期待されたりすると、極度の緊張状態になってまともに集中出来なくなって……それで……
……もし、そうだとしたら、どうする? あんなに極度に緊張して混乱状態のメアリーを、元に戻す方法なんて……
『ガチガチになってちゃ良いことないわよ。ほら、笑って笑って!』
…………母さん。
……よし。ちょと強引だけど、それなら……
……ブツブツ…ブツブツ……
「メ〜ア〜リーっ〜~」
「――ッッ、ヒイッ!?」
アルフレッドは、座り込んでいるメアリーを後ろから抱きしめた。
「――ッッ!? ア、アルフレッド……様……私、私……」
ガクガク……ブルブル……
「メ〜ア〜リー〜、ほ〜ら力を抜いて、大丈夫だよ。よしよし……」
アルフレッドはあやすようにそう言いながら、メアリーを抱きしめたまま頭をやさしく撫でた。
「あ、アルフレッド様っ……」
「大丈夫、大丈夫。さあ、笑ってみよう」
アルフレッドは、メアリーのわき腹をさわさわとくすぐりにかかった。
「ひゃううっ!? アルフレッド様、何してるのっ!? うひゃっ、く、くすぐったいッッ」
こちょこちょ、こちょこちょ、……
「あっ! ひっ、ひゃうっ、アルフレッド様ッッ、くすぐったいってッッ、ひゃあぁっ、あはっ、あはははっ……」
「ほーら、ほーら、メアリーはくすぐられるに弱いのかな? こちょこちょこちょ〜〜」
「あっ、あはははっ、ちょっ、アルフレッド様っっ、やめっ、こそばいって、そこっ、あはははははは……」
気がつけばメアリーの身体から余計な力が抜けてきて、アルフレッドに身体を預ける様な体勢になった。
「メアリー、ほら杖を構えて」
「あひゃッ!? 耳元でしゃべらないでっ、くすぐったいっ! あっ、あはははっ……でも、私……また失敗したら……」
「大丈夫だよ、ほら杖を構えて見て」
「あはっ、あはは、でも、これじゃあ呪文を唱えられ、うひゃー、ないっ、うひッ、うひひッ……」
「大丈夫だから、そのまま呪文唱えてみようね」
「あああッ、アルフレッド様っ……くすぐったいっ……うひっ!?」
メアリーは笑いすぎて目に涙を浮かべながら、それでもアルフレッドの言う通りに杖を構え、呪文を唱え始めた。
――ッッ、天に仕える翼を持つ者等よ、うひゃっ……大地を護るいにしえの、龍等よ…うひひひ、我、御神の奇跡を紡ぐぅ、っひゃん……〜~っっ……
「メアリー……ほら、呪文の続き、唱えて……」
うひゃひゃひゃ 〜~ッッ!? 〜~ッッ、い、一族の担い手としてッッ、此処に願わん。あはははっ……天をッッ騒がせっ、海を荒らし、大地を枯らし……ひひひっ、混乱をまねく全ての闇を切り裂く、……はぁ、はぁ……刃となりて、ここに顕現しッッ……ッッ!? うひひひっ、悪しき魔をその力を持ってッッ! 裁きを下しっ、消し去らん。わははははっ……超神級魔法……
《 守ジャッジメ護ント・オブ・ザ・天ガーデ使ィアン・エンジェルの 裁 き 》
――――シュキィィィィーーーーンーーーッッッッ――――
…………ズッパアアアアアッッッッーーーーーン⋯ーーーッンーー……ーン…………
…………ズルッ……ドッッッ……ッッシィィィーーーーンンッッッッッーー…………
地竜は、メアリーの魔法で縦に真っ二つにされ、真ん中から左右に開いて地面に沈んだ。
……わ、私……で、できた……ふにゃぁ~〜~ッッ……
魔法が使えた安心感からか、緊張状態が急に解けたからなのか、メアリーは一気に全身の力が抜け、そのまま気を失った。
――――ッッッッ!! ……〜~ッッ、う、う、うおおおおおおおおおっっっっっっっっっっ〜~〜!!!!!!
一瞬の静寂の後、天をもつんざく地鳴りのような大歓声があがった。
「うおおおっ!! 飲め飲め〜~っっ!!」
「勝利の美酒に、乾杯〜〜っっ!!」
「「「「乾杯〜〜〜っっ!!!!」」」」
ゼノさん達は、ボロボロになりながらもガルドさん達に抱えられて戻って来た。
偶然あった岩の隙間に隠れて、難を逃れたらしい。
そしてキズの手当てをした後、無事に宴会に参加している。やっぱり酒がないと始まらないんだとか。……どれだけ酒が好きなんだ……
「それにしても、あの地竜が頭から縦に真っ二つたぁ、あれを眼の前にしてもまだ信じられねぇよ!」
「地竜をあんなふうに真っ二つに捌いたヤツなんか、後にも先にもいねぇだろうな!」
「「「ちげぇねえ、わはははっ」」」
「わはははっ、地竜の肉ってこんなに美味ぇ〜んだなッ! 知らなかったよ!!」
「そりゃあそうだ。地竜なんて倒せるヤツなんかそうそういないんだから、味なんて誰も知らんがな!」
「「「ちげぇねえや、わはははっ」」」
またもや今回も、村を挙げてのお祭り騒ぎの大宴会となった。
「いやぁ! 今回もメアリーのおかげで助かったなぁ!!」
「…………うん」
「やっぱりメアリーは、本当にすごいや!!」
「…………うん」
「メアリーがいてくれたら、怖いものなんてないね!!」
「………………。」
「……なんでぇ? どうしたメアリー、元気がねぇな?いつものドヤ顔はどうしたよ?」
「…………乙女には、調子の悪い時もある」
「…………お、おう、そうか。そりゃあ大変だな……無理しないようにな」
「…………部屋に戻る」
メアリーは、スッと立ち上がると俯きながら宴会の席に背中を向けた。
「……あっ!? メアリーっ、ちょっと待ってくれ!!」
呼び止められた声に、ビクッと反応し、ゆっくりと振り向いた。
「メアリー。今日は本当にありがとうな。本当に助かった、この通りだ」
ひとりの男が頭を下げると、ひとり、またひとりとそれに続いた。
「メアリーには、本当に感謝してる。いつもメアリーに頼っちまって申し訳ない。でも、今回は自分ではどうしょうもなくて……」
「……ああ。つい焦ってメアリーの名前叫んじまった。こんな小さな女の子に責任全部押し付けるようなマネしちまって本当に自分が情けねえ。……なのに、メアリーはそんな俺達を見捨てないで助けてくれた。本当にありがとう」
「そうだよな。何でもかんでもメアリーに頼るなんて事はしちゃダメなんだ。もしかしたら、あの時にまだ俺達にもやれる事はあったかも知れない。自分達で出来る事は自分達でやらないと、いつか罰が当たる。……メアリー、今回はあんな頼り方しちまって本当にすまなかった。怖かったろ、ごめんな。……それから、助けてくれてありがとう」
「「「「ありがとう!!!!」」」」
そこにいた全ての人達が立ち上がり、メアリーに向かって頭を下げた。
メアリーはその場に立ち尽くし、その光景を目を見開いて見ていた。
こんなに面と向かって感謝された事は今までなかった。
今まで、魔法が使えるのが当たり前だと言われ続けてきた。出来て当たり前、出来なければ罵倒され、殴られてきた。
それが、この村では違った。ここに来てからは皆優しくて暖かくて、魔法が使えても使えなくても変わらず普通に受け入れてくれた。
だから、大好きなこの村の人達の為に頑張ろうと思った。この村の人達の為なら……そう思ってた。
だけど今日、地竜に追い詰められた人達は、やっぱり今までの人達と同じ反応を見せた。結局ここでも、メアリーではなく便利な魔法使いとしか見られていないのだと思った。
アルフレッド様だけは、私をメアリー個人として見てくれた(最後に変なことをされたけど……でも、魔法を使えなかった原因を突き止めてくれたから許す)けど、他の人達はここでも同じなのだと思った。
だから、もうダメだと思った。もうここにいられないと思った。以前の様に、酷い事をされる前にここを出ていった方が良いと考えていた。
今度はどこか知らない町で、もう二度と魔法なんか使わず誰とも接する事なく、そっと静かに暮らしていこう……そう思っていた……。
……それが……
気が付くと、熱いモノがつーっと静かに頰を伝い落ちていた。
「………うん。次、また何かあったら私に任せる」
メアリーは、ない胸を精いっぱい反らして、嬉しそうに胸を張った。




