(28)後日談と、ワルターのその後。
ドカアアアアァァァアァァアァァーーーーーンンンンッッッーーーーーンーー……ンッッーー⋯⋯ーーッッ…………
「うおおっッッッ!!! ?な、なんだなんだッッッ!? なにが起きたッ!?」
まだ外がやっと白みかけた頃、カミラと共に裸で寝ていたアルフレッドは、突然の事に慌てて飛び起きた。
建物全体がビリビリ、ビリビリと震えていて、まるで特大の雷が幾つもまとめて直撃した様な、そんな強い衝撃だった。
慌てて服を着て外に飛び出すと、そこには村の防御壁の上に立ってふんすと胸を張っているメアリーの姿があった。
気がつくと、周辺の家々からもわらわらと人が外に出てきて、あたりはざわついていた。
「メ、メアリー〜〜っっ!? そんなとこで、何してるんだぁ〜〜っっ!!」
アルフレッドが叫ぶと、メアリーはこっちを見てニヤリと笑い、西の方を指さした。
そこには昨日まであった大きな山がなくなっていて、もうもうと土埃が立ち込めている光景が広がっていた。
「昨日は、魔法が発動しなかった。だけど、ずっと魔法を唱えていればいつかは発動するはず。だから試してみたら一発で出来ちゃった」ブイブイ。
……いや、出来ちゃったって……
「お〜。無事に成功したんだな。良かったなぁ〜、メアリー!!」
「メアリーは、やっぱすげぇなぁ〜!」
「メアリーちゃん。おめでと〜っっ!」
「メアリー、後でお菓子あげるね〜」
皆、あれだけの衝撃があったのに何でもない顔をしている。
「さぁ~て、今日はあの西側の調査に行かなくちゃならねぇから、忙しくなるな。……でも、その前にもう少し寝とくかぁ、ふぁ〜ぁ……昨夜遅くまで飲んじまったから、まだ眠みぃぜ……」
ポリポリと頭を掻きながら家へ戻っていく大工のガルドさん。
「ちょっ、ちょっと待ってガルドさんっ! あれだけの衝撃があったのに、その何でもないような落ち着きは何っ、何なのっっ? 驚かないのっ??」
「ん〜? あ〜、アルかぁ。だって昨日メアリーが魔法使うって言ってたじゃねぇか。それが発動したのがたまたま今朝だったってだけだろ。何の問題もねぇじゃねえか。見ろ、周りにも騒いでいるヤツなんかいねぇだろう?」
改めて周りを見渡すと、皆大人しく家へ戻っていくところだった。
「……な、何で?何で皆平気なのっ?……前回の時は、あんなに皆に怒られたのに……」
「あ〜、もう皆慣れちまったからじゃねぇか?メアリーの魔法ならあのくらいの衝撃が来るってのは前回で経験済みだからな。……ああ、一応今回移住して来た奴らは初めての経験だろうからフォローは入れとけよ」
ガルドさんは、手をヒラヒラとさせて家へ戻って行った。
……前回、あんなにめいいっぱい怒られたのは何だったんだ……
アルフレッドはひとり、どうしても納得出来ないと言った表情で、今だに防御壁の上でふんすと胸を張っているメアリーの姿を見上げていた。
その日、ガルドさんと仲間達、キースティンと土魔法使い達、それにフローラを始めとする自衛団で、西側の山跡地を調査に向かった。
自衛団については本来なら団長のエレノアが先頭に立つところだが、未だに静養中の為、先の戦闘で指揮を執ったフローラが代理を務める事になっていた。
アルフレッドは、エレノアのお見舞いを兼ねてルシエラ婆さんのところへ向かった。
「おや、アル坊じゃないか。今朝は早くからずいぶんと騒がしかったのぅ。おかげで早く目が覚めちまったよ。ふぉっふぉっふぉっ。おお、エレノアなら今は薬を飲んでぐっすりと眠っておるぞ。」
ルシエラ婆さんも、今朝のメアリーの騒動には前回の様な動揺は見せなかった様だ。
……やっぱり解せぬ。
エレノアの様子をそっと伺うと、気持ち良さそうにスヤスヤと眠っていて、それだけを見るとそんなに体調が悪そうには思えなかった。
ただ、背中をあれだけバッサリとやられていたのだから、そう簡単には治らないのかもしれない。
まあ、そこら辺はルシエラ婆さんに任せるしかない。
ルシエラ婆さんに、負傷者達に使ってもらったポーションや薬湯等の分の対価を払い、出来上がった照明の魔道具を引き取り、家を後にした。
改めて村の中を見渡すと、元あった村の場所に出来た居住区にはしっかりとした家々が建ち並び、等間隔で設置されている照明の魔道具を使った街灯が、夜になっても村中を明るく照らしだして、以前とは比べ物にならないほどの町並みへと変わっていた。
中央の広場には、いつの間にか屋台や露店が並ぶようになり、その前を子供達が元気な姿で走り抜けていく。
村に住む住人の数も、以前は100人にも満たない数だったのに、それが今や3倍以上にも増えていた。
だが、これから来るルシエラ婆さんの仲間や、今後増えるであろう移住者達の事を考えると、ますます賑やかになっていくのが目に見えていて、嬉しくなった。
東側の土地に出来た畑では、早いものは既に収穫が近い作物まであり順調に育っているらしい。
牧場には、牛や馬がのんびりと草を食んでいて、これから飼育する頭数が増えても、余裕で養えるだけの広大な牧草地が広がっていた。
ようやく、村に未来が見えて来た気がする。
でも、まだまだこれからだ。
あれから二週間が過ぎた。
エレノアは、まだ完全ではないがようやく普段の生活ができる様になった。
動けるようになってすぐに、剣を手に取り素振りを始めたのには驚かされたが、ルシエラ婆さんの一喝で、今は控え目に動くだけに留めている。
一喝されても完全に大人しくはならないところがエレノアらしい。
それから、ついに立派な領主館と、迎賓館が出来た。
領主館のあまりの大きさと立派さに、口を開けて固まってしまった。
吹き抜けの大きな玄関ホールに入ってすぐ目に付くのは、高い天井から下がる照明の魔道具で作られた豪華なシャンデリア。
部屋数は大小合わせて三十部屋以上。ホールも食堂も、全部で何人入れるのかという程の広さがある。
目を見張るほど大きな大浴場にはすべて白魔石を使い、綺麗な見た目と併せて余計な湿気を籠らせない行き届いた造りが施されていた。
床は全て鏡のように磨き上げられた石貼りで、そこにどこからか仕入れてきたのか、立派な赤くて分厚いふかふかの絨毯が敷かれている。
寝室はスイートルームかというほど広く、何人一緒に寝られるんだというほど大きなベッドがドーンと据え置かれている……。他にもここに挙げたらキリがないほど細部に至るまで贅沢な造りになっていた。
流石にこれはやり過ぎだと抗議の声を上げたが、他の面々は口を揃えて、これからのリンドロット領の象徴になるのだからこのぐらいはしないとと言って、誰も取り合ってはくれなかった。
西側の調査は順調で、広さは東側の土地と同じくらいの面積がある事が分かった。これでリンドロット領地は、当初の約三倍の面積へと広がった。
さらに西側の土地からは良質の赤土がたくさん取れる事が判明した。それを使ってレンガから窯を作り、そこからさらに高品質なレンガを作り出せば、もしかしたら錆鉄山のボロい鉄が使い物になるかも知れないと、ゼノさんが今から張り切っている。
その他にも、赤土を練って粘土にして陶器を焼いてみたいと思った。良質な赤土ならきっと良いモノが出来るだろう。村で使うだけではなく、高級品として贈答用にしたり、商業ギルドへ流すのもアリだと考えている。
それと、ナタリーに情報を流して助けてもらったお礼の手紙と、ランタン型の照明の魔道具を送った。すると彼女はかなりの衝撃を受けたらしく、半狂乱になって『早く商業ギルドに登録して』とせっつかれた。
この前、商人のニーナが頼んでいた物資を持って村へやって来た。村を見たニーナは、
「ニャニャニャ!? 何ニャここはッッ、ここがあの山奥で何もないと言われた村かニャッッ!?ウチの目がどうかしてしまった訳じゃないニャよね!?……ニャッ……ニャニャッッ……」
とかなり取り乱していた。
ニーナは村にとても興味を持ったらしく、さっそく完成したばかりの迎賓館に数日間滞在して、周囲を見て回った末に、アルフレッドにケットシー商会の支店をぜひとも出店させて欲しいと言ってきた。
今までちゃんとした商店すらなかったので、この申し出は村にとっても大変ありがたい事だった。
もちろんすぐに了承し、最高の場所を提供する事を約束した。
これでまたひとつ村が豊かになれる。
移住者についてだが、商業ギルドで継続して募集を掛けて貰っているおかげもあってか、パラパラと1週間に数組ずつくらいの割合で人が集まって来ている。
中には冒険者や魔法使い等もいて、村にとってもありがたい存在になりそうだ。
冒険者がこれからも増えるのならば、冒険者ギルドの支部をこの村に出せないか交渉してみるのも良いかもしれない。
それから、リーゲル領から人が流れて来ている事には変わりないので、ブルーノ子爵に対して、早めに手を打っておいた方が良さそうだ。
それともうひとつ。
あの、襲撃してきた奴らについてだが、大きく事が動いた。
フルール村に預けていた荷物を取りに行きながら、襲撃現場を改めて調べたところ、多数の遺留品の中からワルター商会の商紋が入った武器や防具が複数見つかった。あの私兵達が持っていたモノらしい。
これでワルター商会が、貴族であるアルフレッド男爵を襲撃した事実が証明される事となった。
アルフレッドは、ナタリーに送ったお礼の手紙の中でこの事についても言及し、証拠品もいくつか併せて送っていた。
ナタリーの方でも、フィオナの件もあり、以前からワルター商会の悪事について調べていたため、今回の件と併せて商業ギルドへ報告した。
これに対し、ギルドでもこの報告に疑いの余地なしと判断し、ワルターの特別会員の資格取り消し及び、ワルター商会のギルド加盟資格取り消し処分を即時決定した。
そして報告を受けた本部からは、ワルター商会との全取引を即時停止する様、大陸全土にある全ての商業ギルドへ通達が出された。
さらに、事はこれだけでは終わらなかった。
今回の事に激怒したフローラは、すぐに事の顛末を父であるロンメル辺境伯に報告した。
ロンメル辺境伯は、いち商会が貴族を襲ったという事態の深刻さを重く受け止め、これを国王陛下に報告。ついに国が動く事となった。
ワルター会長は当初、今回の件について知らぬ存ぜぬを貫き通し、商業ギルドの下した処遇について大いに不満を露わにして激しく抗議した。
それでも対応が変わらないと見るや否や、今度は政治的に圧力を掛けようと兄であるブルーノ子爵を頼った。
今までもこういう事は何度もあり、その度にブルーノ子爵が裏から手を回して、トラブルを揉み消してきた。
今回も商業ギルドへ圧力をかけてもらおうとしたのだが、ブルーノ子爵がそれを行動に移そうとした直前、王都から駆けつけた騎士団にワルターと周辺の関係者達が一網打尽にされ、ひとり残らず捕らえられた。
そして後日、今までの悪事が全て明るみに出たワルターと指示役だった幹部達は処刑され、その他の関係者は奴隷として鉱山送りにされた。
さらに、国からワルター商会の取り潰しと全ての財産の没収が通達され、ついにワルター商会は跡形もなくこの世から消え去った。
こうして、一連の騒動は幕を閉じた。
だが、これに納得していない者がひとりいた。
ワルターの兄の、ブルーノ子爵だ。
大事な弟が突然処刑されてしまったのだ。納得出来るはずがなかった。
それに、今回はブルーノ子爵が動く直前にワルターが捕らえられた事でブルーノ子爵への直接のお咎めは無かったが、国王陛下からの覚えが悪くなってしまったのは間違い無かった。
さらにワルター商会からは、今まで多額の資金がリーゲル子爵家へ提供されていたのだが、それが無くなってしまった事にも頭を悩ませることとなった。
どうしてこんな事になってしまったのかと、ブルーノ子爵は頭を抱えた。
そして、この一件の顛末は全てアルフレッドが元凶だと思い込んで逆恨みに走り、腹わたが煮えくり返るような怒りにうち震えた。
「ぐぬぬぬっ!! 見てろよアルフレッドめ! いつか必ず後悔させてやるからなッッ!!」
ブルーノ子爵の叫び声は、満月の夜空に遠く響き渡っていった。




