(27)リンドロット村へようこそ。
「よく来たっ! 良くぞ無事で来られたっ! リンドロット村へようこそっっ!! 心から歓迎するぞっっ!!」
「みんな無事に帰還出来て、本当に良かったっっ! 一時は本当にダメかと思ったからなぁ〜、いやぁ〜本当に良かったっっ!!」
「さあ、飲め飲め〜っ!! 今日からは、みんな同じ村の仲間だっ! 無事にリンドロット村にたどり着いた仲間にっ、乾杯〜〜っっ!!」
「「「「「乾杯〜〜っっっ!!!!」」」」」
あの後、アルフレッドはフローラ達と合流し、皆を連れて無事に村へと帰ってきた。
負傷者はすぐに、ルシエラ婆さんを始め、看護してくれる人達のところへ運ばれた。
エレノアも真っ先にルシエラ婆さんのところへ運ばれた。診断の結果は、しばらくは絶対安静との事だった。
ただ、すぐにポーションを飲ませた事もあって、時間は掛かるが完全に回復するだろうとの話だった。それまでは、ルシエラ婆さんが面倒を見てくれるそうだ。
心底ホッとした……。
移住希望者……改め、移住者の人たちも、怪我人や体力の消耗が激しい者達は治療や静養に回されて、ポーションや薬湯、傷薬などが処方され、応急処置を施された。
そしてその後は、村を挙げてのお祭り騒ぎとなった。
やれ移住者の歓迎会だ、やれ盗賊を退治したお祝いだ、さらにはアルフレッド達が無事に帰還したお祝いだ、自衛団とクロスボウ隊の初陣勝利を祝って……
名目は幾らでもあった。
とにかく、ホッとした事と嬉しい事がごっちゃになって、みんな騒がずにいられない夜となっていた。
「――そこで俺は、怪我を顧みず、こうズバッとやった訳よッッ」
「おう! それならワシもあそこで盾ごとズバッとやってやったわい! ワハハハッ、まあ飲め飲めっ〜〜」
身体中包帯だらけのロイとゼノさんは、大工のガルドさんやキースティン等と共に、ガンガンに盛り上がっていた。
因みに、ロイとゼノさんは傷に障るためアルコール禁止令が出されたが、流れた分の血を酒で補うと言って聞かずに、今に至っている。
〜〜きゃあっ〜〜……あはははっ〜〜
向こうの方では、妹のミーシアとシェリルが、さっそく仲良くなって一緒に遊んでいる。
2人がはしゃいでいる姿は、まさに天使か妖精達が遊んでいるかの様で、眼福の世界だった。
「…ハァハァ……やっぱりミーシアちゃんは、いつ見ても可愛えぇ〜っ」
「あの一緒にいる娘は誰だ?新しい天使ちゃんかっ!?ミーシアちゃんも良いけど、あの娘にもハァハァさせられちゃうお……」
一部のあやしいおっさん達がその光景を見て顔をだらしなくさせていたが、2人の母親のマーガレットとフィオナがしっかりと周りに目を配り、メイドのリナとルーチェが厳重にガードしているので、まあ問題にはならないだろう。
「……身体は、本当にもう大丈夫?」
包帯姿のアルフレッドの横に座ったフローラが、そう声を掛けてきた。
「ああ。フローラ達が来てくれたおかげで、この程度の傷で済んだからね。来てくれて助かったよ。本当にありがとう」
アルフレッドは、素直にフローラへ頭を下げた。
結局、やはりあの早馬はリンドロット領へは届いていなかった。
それなら、なぜ応援部隊が到着したのかと言うと、
あの後、どうしてもアルフレッド達の事が心配でしょうがなかったナタリーが、商業ギルドを通じてリンドロット村へアルフレッドの帰還予定日と、襲撃の可能性についての情報を流した。
それを受けたフローラが、念の為自衛団に出動準備をさせながらアルフレッド達の帰還を待っていたが、予定日を過ぎても戻って来なかった為、万が一を考え村の最大戦力を率いて迎えに出たのだという。
おかげで、本当にスレスレのところで命拾いをした。
フローラにも、ナタリーにも足を向けて寝られない。本当にどれだけ感謝してもしきれない思いだ。
「そちらがご領主様の奥様かい? ちょっとお邪魔するよっ」
冒険者パーティーのリーダー、ミランダがやって来た。
「ミランダ達も、今回は本当に助かったよ。ありがとうな」
そう言って右手を出して、ガッチリと握手を交わした。
「なぁ〜に。アタシらは大した事はしていないよ。アンタが頑張ったからこそ、この結果に繋がったんだろうさ」
ミランダが、ニヤリと笑った。
……因みに、フローラは奥様と言われて、さっきからずっと顔を赤らめ両手で頰を押さえて、身体をクネクネと踊らせている。
――そして、結構ぽんこつです――
前に護衛のミレーユさんが言っていた言葉の意味が、最近になって分かって来た気がする。
「ところでアルフレッドの旦那。ちょっと相談なんだけどさ。アタシらを専属で雇う気はないかい?」
「…………え?」
「ふっ。ひと昔前なら、どんなに請われても絶対にこんな事は言わなかったんだけどね。アタシももう良い歳だ。あとどれだけ冒険者を続けられるか分からない。まあ、正直アタシ自身はもう十分満足してるんだけどね……」
「……なら、どうして?」
「あの娘達だよ。あの3人はまだ10代だ。この先いつかアタシが引退した後、あの娘達の身の振り方がどうにも心配でね。だから、ちゃんとした後ろ盾が欲しいと思っていた所に、男気のある、貴族らしくないお貴族様のアンタが丁度良く現れたって訳さ」
「……ミランダのお眼鏡に適ったって訳だ。ははっ、それは礼を言うべきか。けど、いくら仲間とはいえ、どうしてそこまで……?」
「……まだ、あの娘達が駆け出しの頃にね、たまたま依頼の最中にあの3人を見かけたんだけど、そりゃあもう危なっかしくて見ていられなくてね。
その時に、ちょっと世話をしてやったら懐かれてさ。それからずっと面倒を見続ける事になっちまった。それで気がつけば今じゃ母親代わりみたいなもんになっててね。そういう訳だから、最後までちゃんと面倒を見てやりたいのさ」
「……今じゃ、ミランダの方が面倒見られている事が多いんじゃないの?」
「……ハハッ、良く見てるね。否定はしないよ。」
「あはははっ、……良い関係だな。……分かった。村としても戦力は欲しい所だし、若くて可愛い娘達なら大歓迎だ。その話、受けさせて貰うよ」
「……うちの娘達に手を出したら承知しないよ」
「それじゃああの娘達は、いつまでたっても嫁に行けないぞ」
「……フンッ」
「ワハハハッ、それにしても最後のあれは凄かったな!! こう、何ていうかキーーンみたいな?何かすげぇのが出て、ずばばばっ!! みたいな?」
「あはははっ! それじゃあ全然分からねぇよ! 全然言ってる事が伝わらねぇッ! ⋯⋯けど、メアリーがすげぇって事だけは分かった! なぁ、メアリー!!」
「うん。私はスゴイ」ぴす、ぴす。
「へぇ~メアリーって、スゴイんだねっ!!」
「そう。だから、これからは私にリバーシの勝ちをゆずる」ふんすっ
「え〜っ、それは無理だよッ、だってメアリー弱すぎるもん!」
…………ぐすっ。
「なあメアリー! どうせだったらついでにそのすげぇ魔法で、西側の白魔山と錆鉄山の間にある、あの邪魔なでっけぇ山をドカンと吹き飛ばしちゃあくんねぇか?そしたら日中、陽が沈むまでの時間が伸びるし、俺らも仕事がはかどるってもんなんだが! なぁ皆! わはははっ」
「うん。分かった。明日さっそくやる」ふんす。
「……へっ!? あ、いや、今のはちょっとした軽い冗談だぞ、冗談! 気にしなくて良いんだぞ!!」
「大丈夫。私はスゴイから」ブイブイ。
「おおお〜〜っっ!? また、メアリーのスゴイ魔法が見られるのかっ!? そりゃあ楽しみだ! わはははっ」
「「「メアリーの魔法に、乾杯〜っっっ!!!」」」
こうして、宴会は夜遅くまで続いた。
……コンコン……
「失礼します」
部屋に戻ったアルフレッドの元を訪ねてきたのは、メイド長のカミラだった。
「カミラ、こんな遅い時間にどうしたの?」
「……アルフレッド様、ずっと心配申し上げておりました。……無事に戻って来られて、本当に安心致しました」
カミラの目には、涙が浮かんでいた。
「……カミラ。心配掛けてごめんね。……それと、ただいま。」
カミラは、堪えきれずにボロボロと涙が溢れ出した。
「本当に心配致しました。フローラ様が、アルフレッド様たちに危険が迫っていると皆に伝えた時は心臓が止まるかと思いましたし、皆様がボロボロの姿で帰って来られた時は、アルフレッド様のご無事な姿をこの目で確認するまで、生きた心地がいたしませんでした……」
アルフレッドは、安心させるようにそっとカミラの頭に手を伸ばして、ゆっくりと撫でた。
「心配させちゃってごめん。けど、こうして無事に帰って来たよ。……ちょっとケガをしちゃったけどね」
「……ちょっとじゃありません。しっかりと治るまで、無理はさせませんからね。それまで、私がしっかりと見張らせていただきます」
「……はははっ、カミラは厳しいな。でも、それならその間はずっと側にいてもらえるね」
おどけたアルフレッドに、泣き笑いの顔でカミラがさらにギュッと抱き着いてきた。
……わいわい…ガヤガヤ……
翌日、村の西外れの原っぱに村人達が大勢集まって来ていた。
もちろんその中心にいるのはメアリーだ。
昨夜話していた西の山を魔法で吹き飛ばすという話が村中に広がり、こんな状況になっていた。
「……なぁ? ほ、本当にやるのかい?無理しなくても良いんだぞ?」
「……大丈夫。私はできる子」ふんす。
「そ、そうかい。……なら、無理には止めねぇけどもよ……」
「ねぇお母さん、今から何が始まるの?」
「何でも、あのお山がこれからドカンと消しとぶんだってさ」
「へぇ~。凄いね〜」
「前回は、気が付いたら山がなくなってたからな。今回はしっかりとこの目で見てみたいぜ!!」
「メアリー、じょうずに出来たら、後であたしのおやつ分けてあげるね!!」
騒ぎはだんだんと大きくなっていった。
アルフレッド達はメアリーの側にいた。
「メアリー。大丈夫か?」
「……うん。じゃあ始める」
メアリーは、西の山に向かってスゥっと高く杖を構えた。
天翔ける精霊達よ、地を覇す古の勇者の魂達よ、我、大神の奇跡を遣う代行者として此処に願わん。今こそ汝らの力を解放し、吹き荒れる焔の翼となり、雷鎚の雨となり、蒼穹の光矢と成りて顕現しその姿を示せ。
超極大魔法!!
《全てを消滅させる神の罰》
………………ぽんっ。
「「「「「「………………。」」」」」」
………………ぽんっ。
………………ぽんっ。
………………ぽんっ。
「「「「「「………………。」」」」」」
結局その日、日が沈むまで頑張ったものの、メアリーが魔法を発動させることはついに叶わなかった。




