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ある日、辺境の貧乏男爵家の当主になった。前世の記憶で楽園を築きたい。  作者: ありんこの王様


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26/55

(26)死闘。アルフレッド絶体絶命。



……ガラガラガラ……ガラガラガラ……


アルフレッド一行の馬車の音だけが山あいの道に響き渡っていた。


ピンと張り詰めた空気は、アルフレッド達の五感を異常に敏感にさせている。


……ガサガサッ……


「――ッッ敵っっ!?……なんでぇ、野うさぎかよ。驚かせんなって……」




アルフレッド達は、あれからしばらくしてすぐにフルール村を発った。

それでも準備に時間が取られた分、村を出るのがお昼前くらいになってしまった。

この分だと、順調に行っても到着するのは日暮れ後になりそうだ。



「……なぁ、アルフレッド様よ。もし襲撃があるとすればどの辺りだと踏んでるんだい?」


張り詰めた緊張感の中、質問してきたミランダの声が谷間にこだまして、やけに大きく聞こえた。


「そうだな。もし逆の立場なら狙うのはリンドロット領へ入る直前、大きな岩の間を抜けて、視界が急に広がる辺りだろうな。周りは林で伏兵も伏せておく事が出来るし、前から攻めて足止めをしているうちに、後ろから追いついた奴らが周囲を取り囲む事が出来る。そしてそのまま包囲戦で袋のねずみだ……考えただけで肝が冷える」


「後ろから来るのが分かっているなら、嫌がらせに土魔法使いに壁でも作らせて後ろの奴らを混乱させてみたらどうだい?」


「それも考えたが、今、こんなところで魔法を使ってしまったら、いざと言う時に魔力切れを起こす。もう少し我慢するしかない」



……ガラガラガラ…ガラガラガラ……


そうこうしているうちにも距離を稼ぎ、だんだんと日が傾き、いよいよアルフレッドが想定していた大きな岩のところまでやって来た。


……ここを抜けられればリンドロット領は目の前。襲って来るなら、間違いなくここ。


「――ッ、くそ。このまま何事もなくリンドロット領に入れたりしないかな……」


「……気持ちは分かるが、甘い考えは止めた方が良いな」


じわりと全身を汗が伝う。




「――ッッ!? 敵襲〜ッッ!! 前方に盗賊と見られる集団を発見! その数およそ60ッッ!!」


その報に、アルフレッド一行に緊張が走った。



「……ついに来たか。思ったよりも数が多いな」


アルフレッドは、斥候役からの報告を聞いて顔をしかめた。



周りの目が全てアルフレッドに集まった。指示を待っているのだ。


「キースティン! 後ろに土壁と堀を作ってくれ。他の土魔法使い達で協力出来る者は手伝ってやってくれ!!」


「ガレウス! 前方に盾を構えろ。攻撃を後ろに通すな!!」


「メルヴィン! 馬車に防御魔法を発動!!」


「ゼノさん、エレノアっ、こちらは前進の足を止めたくない。頼んだ!!」


「ミランダ! 周りの警戒を頼む!!」


「ロイっ! 移住希望者達をなるべく1ヶ所に固めろ。落伍者を1人も出すな!!」


矢継ぎ早に指示を飛ばした。



「ゲヘッヘッヘ〜ッ……おやおや皆さん。そんな怖い顔してどうしたのかなぁ? そんなに険しい顔してないで、ちょっとばかり俺らと一緒に遊ぼうぜ〜、ヒャハハハッ!!」


「ウヒャヒャヒャ! 遊んだが最後、もう二度とお家に帰れなくなっちまうけどなぁ、ヒャハハハッ!!」


「ゲヘヘへッ、おやおやぁ? そこの馬車の隅でガタガタ震えてんのは、あのちっぽけなゴミクズ商会の、無能店主の奥さまとお嬢ちゃんじゃねえかい!?」


「ワハハハッ!! あ〜、確かにありゃあ、無能店主だったよなぁ! 俺らに命を狙われてるとも知らず、こともあろうかその俺達に護衛の依頼をしてくるとはなぁ〜。まぁ、おかげでこっちの仕事が楽に終わって助かったけどよぉ〜。ありゃあ確かに無能にちげぇねぇ~ワハハハッ!!」



「――ッッ!?」


盗賊たちの外道な嘲笑に、フィオナは喉を詰まらせてその場に凍りついた。真っ白になった唇を血が滲むほどに噛みしめ、大粒の涙がぽろぽろと頰を伝い落ちていく。


「お母さんッッ!!」

シェリルが涙を流しながら震える肩にすがりついた。


シェリルは、悔し涙を浮かべながらもキッと盗賊達を睨みつけ、立ち上がるやいなや大声で叫んだ。


「お父さんはッ、お父さんは無能なんかじゃないッッ! 誰よりも優しくて、力持ちで、すごかったんだから……ッッ!! あなた達みたいな無法者とは大違いよッッッ! 何も知らないくせにッ、お父さんを、バカにしないでっーーーッッ!!」


普段は大人しく、まるでお人形のように愛らしい娘が、あんなにも感情を剥き出しにするとは……。

父親を殺した仇が目の前に現れ、あそこまで侮辱されて、よほど悔しくて我慢ならなかったのだろう。



……――ヒュンッ――……


皆がそのやり取りに気を取られている一瞬の隙をついて、どこからかシェリルに向かって一本の矢が飛んできた。


「――ッッ危ないッ!?」


「シェリルーーッッ!?」



……――ッッ、――ガキィンンッ!!


ギュッと目を瞑ったシェリルの前にガレウスが飛び出して盾を構え、矢を弾き返した。


「……ここは守る。任せろ」


「ガレウス!? やったっ!!」

アルフレッド達から歓喜の声が上がった。



「……ッチ、挨拶はもう良い。おい! お前らッ、ヤッちまえッッ!!」


ウオオオオオオッッッ!!!!


盗賊達が一斉に襲いかかって来た。



……――オオオッッ!!、ガキィン、ギィィィン、ザシュッ――……


……おらっ! ズバッ!!、がはっ……


――カキィィン、キィィン……がっ!……ハァッ!!、ガキィン、……ぐわっ、――ガァンッ……ズシュッ、……ぎゃあッッ――



ゼノさんと、エレノア達自衛団がかなりの活躍を見せているが、それでも多勢に無勢。間を抜けて来る者達がぞろぞろと出て来た。


――バシュッ……バシュッ……バシュッ――


――ッ、アイスバレットッッ!!


……そこっ! やぁぁーーっっ!!


……どっりゃあ〜〜っっ……


ミランダ達も必死に応戦している。



「キースティン! 移住希望者達の側面にも土壁をっっ……っくッッ!!」


――ッッ、カキィンッ、キン、ギィン……ズバァッ……――


アルフレッドも指示を出しながら、盗賊達と切り結んでいく。


その勢いに任せて、何とか少しずつ、少しずつ、アルフレッド達は前進を止めずにリンドロット領へ近づいて行った。



……よし、このまま持ち堪えて行ければ、もう少しで……


そう思った時だった。



ドカーーンッッ!!!?


最初にキースティン達が作った最後尾の土壁が崩れて、その向こうから100人近い盗賊がなだれ込んできた。



掛かれぇぇぇッッッッ!!


ウオオオォォォッッッ!!!!



「――ッッ!? くそっ、何だあの数はっ!?……多過ぎるぞっ……」


それを見た人達が、一瞬棒立ちになった。


「――ッッ、諦めるなッッ、リンドロット領はもうすぐそこだっ! 耐えろっ!!」


アルフレッドの激に、何とか気持ちを奮いたたせた。



……がっ、ぎゃあっ、ぐわぁッ、……


……ガンッ、キィィィン、ガアァァン、ガキィィン、ギャリィィン……


あちこちで戦闘の音が聞こえる。


だが、善戦していたはずが、気がつけばアルフレッド達は完全に包囲され、少しずつ削られ始めていた。


「……あ、アルフレッド様っ、防御魔法の魔石が切れましたっっ!!」


「――ッ、アルフレッド様ッッ、盾が壊れちまったっっ!!」


「……こっちは矢が尽きたよっ!!」


「や、槍が折れたッッ……」



……――ザシュッ――……


がはぁっ!!!?


「ッッ!?……ロイッッ!?」


「……ハァ、ハァッ……大丈夫、まだまだやれますよ……こんなのは、かすり傷ですって……」


……良く見れば、ゼノさんもエレノアも、皆も、肩で息をしてボロボロの傷だらけだ……


アルフレッドも体力的に限界が近づき、ガクンとヒザが落ちた。


……くそっ…………ここまできて…………



「ぬううおォォォォッッ!!!!」



「――ッ、ガレウスッ!?」


その時、ガレウスが側に倒れていた敵の武器を奪い、ブンブンと振り回し始めた。


「うおおぉぉぉッッッ!!!! やっと、やっと見つけたオイラの居場所をっ、勝手に奪うなぁ〜〜ッッ!!!!」


……ガレウス……人間相手に戦うのをあんなに嫌がっていたのに……



「――ツッ!! ま、まだまだ〜〜っっっ!!」


キースティンが、崩されても崩されても、土壁を作り続けていた。


……キースティン……



……ハッ! ハァッ!! やぁーッッ!……


……エレノア……



「ぬぅぅん! こんなモノでワシを止められると思うなよッ!!」


……ゼノさん……



……皆、誰ひとり諦めていなかった。

必死になって、腕を、足を動かし、剣を振っていた。



……ッ、うおおおおぉぉぉぉぉッッッーー!!!!


皆の踏ん張りを見て、アルフレッドにも力が湧き上がってきた。


もはやいつ押し潰されてもおかしくないところまで来ていた戦況を押し返した。


皆、血眼になって必死に戦い態勢を立て直していく。


個々が、それぞれの場所で激しく応戦し、善戦していた。



……だが……



……しまっ……


――がッッ…きゃあァァァッッ!!……



「――ッ!? エ、エレノアアァァァーーーーー……ッッ……」


エレノアは不覚にも、疲れから足がもつれたところを攻め込まれた。背中からバッサリと斬られ、他の敗れた者達の残骸の中に、紛れるように崩れ落ちた……。



「エレノアッ、エレノアッッ!? 大丈夫かっっ!? 今、ポーションを持っていくからッッ!!」


「……あ、アルフレッド様……ハァッ、ハァッ……すいません……ハァ、ハァ……しくじりました……ッッ……私の事はっ、ッッ、もう、ハァ…ハァ……構わないで下さい……、ぐッッ……私はもう……ア、アルフレッド様……どうかご無事で……」


「……何、言ってるんだ。何、勝手なことを言ってるんだよ。構わないわけ、ないだろ……ッ! 絶対に助ける。絶対に助けてやるッッ!! エレノアッッ!! 死ぬな、こんな所で命を捨てるなぁっっ!!……約束だッ……まだまだ、まだまだ生きて……。この先、どれだけ年をとっても、ずっとそばに、ずっと一緒にいるんだッッッ……! だから、だからッッ、こんな場所で生命を終わらせるなッッ、生きろおぉぉぉぉッッ!!!!」



「――ッッ!?……あ、アルフレッド様っ……」




「ハッハッハ〜、見つけたぞ!アルフレッド・リンドロット〜ッッ。こんな所にいたのかっ! ここであったが運の尽きッッ!! 貴様の首ッ、もらったあぁッッ!!……死ねぇ〜〜ッッ!!」


エレノアにポーションを飲ませていたその隙を敵に捉えられた。気がつけば、敵が目の前でアルフレッドに向かって大剣を振りあげていた。


「――ッッ!? しまったッッ!!」


「――ッッ!?、あ、アルフレッド様ッッッッーー!?」



……アルフレッドは、その大剣が自分に向かって振り下ろされていくのを、スローモーションの様に見ていた……



……フローラ、ミーシア、父上、母さん……皆…………ゴメン…………


アルフレッドは、覚悟を決めて目を固く閉じた。



……――ッ、……ぐわぁッッ!!……


……だが、いつまでたっても痛みと衝撃は来ず、代わりに突然聞こえてきた悲鳴に目を開けた。


そこには、さっきまで大剣を振り上げていた敵の胸に一本の矢が深々と突き刺さっていた。



「――ッッ!? この矢の威力は……まさかっ!?……複合弓ッッ!?」



――ぎゃっ!……ぎゃあッッ!……ガハッ……ぐわぁっ!……


周りの盗賊達にも次々と矢が当たり、倒されていく。



「アル様ーーっっ!! アル様ーーっっ!!」


遠くの方からフローラの声が聞こえて来た。



「ふ、フローラッッ!?……何でここにッッ!?」


「――!? アル様っっ!? アル様を見つけたっっ!! 自衛団はアル様を守れっ。アル様の安全を確保した後、敵を殲滅ッッ」


「「「ハッ!!!」」」


「ブルックス! 援護隊を連れて負傷者の治療を! ポーションをケチらないでっ!!」


「はっ。仰せのままに」


「……ブルックスまでっ!?」



「クロスボウ隊続けっ!!」


「「「はいっ!!!」」」



……えっ!?……何?……クロスボウ隊?……女性陣まで……


「1番隊構え、撃てっ!!」


――バシュッ、バシュッ、バシュッ――


……ぎゃっ、ぎゃあッッ、ぐわっ、……


「2番隊構えッッ、撃てぇっっ!!」


――バシュッ、バシュッ、バシュッ――


……がっ、がぁっ、ぐふっ、ごっ……


「――ッ、このまま、押し切るわよッ!! 撃てーーっっ!!」


すごい、完全にクロスボウで戦いの場を支配している。



形勢は完全に逆転した。

敵の数は見る見る減っていき、もはやアルフレッド達の勝利は間違いなく確定した。



……誰もがそう思ったその時……



ワアアアアァァァッッッッ!!!!



アルフレッド達の後ろから、新たな敵が現れた。


……その数およそ300……



「……えっ?」


「……うそ……」


「何よ……あれ……」


クロスボウも複合弓も、もうそんなに矢が残っていない。

しかも敵は、今まで戦っていた盗賊相手とは別格の、完全武装をした集団だった……



ザッザッザッ……ザッザッザッ……


統率の取れた軍隊のように、一歩ずつ近寄ってくる。


――ッ、あれはっ!?

もしかして、あれがワルターの私兵達かっ!?……くっ……ここへ来て……まさかここでっ……



ザッザッザッ……ザッザッザッ……




……今度こそ、終わりか……





…………させない。


その声は、戦いの喧騒の中にあっても不思議と耳に届いた。



……させない。絶対にさせない。



声のする方を見ると、視線の先に見えたものは、光がある一点に集まりかけていて、しかもそれは、眩いばかりの輝きを放ちながらだんだんと大きく膨らみつつあった。


「……メアリー?」


そう言ったのは、誰だっただろうか。

自分とも、誰がとも分からない声がメアリーの名前をポツリと呼んだ。




天に仕える翼を持つ者等よ、大地を護るいにしえの龍等よ、我、御神の奇跡を紡ぐ一族の担い手として此処に願わん。天を騒がせ、海を荒らし、大地を枯らし、混乱をまねく全ての闇を切り裂く、刃となりてここに顕現し、悪しき魔をその力を持って裁きを下し消し去らん。超神級魔法……


《 守(ジャッジメ)護(ント・オブ・ザ・)天(ガーデ)使(ィアン・エンジェル)の  裁  き 》




……――キィィィーーンッッ――……


金属が発するような高い音が周囲に響き渡った。



そして…………





……――シュィィィィーーーーンーーー⋯ッッ――……



ズッ…ッッ……バアアアァァァァァーーーーーンンンンンンッッッッッッーーーーーーーッッーーーー…ッッッーー……ッーー……



一条の光が、そこにいた全ての敵を薙ぎ払い……そこにあった総ての物を呑み込むように爆ぜ……消し去った。




こうして、


今度こそ、アルフレッド達は敵を完全に打ち倒し、勝利を収めた。




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