(23)奴隷オークション。
奴隷オークションへは、ナタリーさんと、エレノアの三人で向かった。
ゼノさんにも同行を頼んだが、飲みに行くからとアッサリ断られた……オイッ
オークション会場に着くと真っ先に身分照会があったが、ナタリーさんがアルフレッド名義の商業ギルド特別会員証を見せると、すぐに丁重な態度になり、何も言わずにそのまま特別仕様の賓客室へ案内された。
賓客室に入ると、中はスイートルームの様になっており、足元はふかふかの赤い絨毯が敷き詰められ、テーブルには今もたくさんの種類のフルーツや食べ物が、次から次へと並べられていた。
バーカウンターには、こちらもかなりの種類のお酒が置かれており、好きな物を好きなだけ飲んでも良い様だ。
……ゼノさん、絶対こっちにくれば良かったのに。帰ったら自慢してやろう。へへへッ
そして、一般の席からは数段高い所に設置されているこの部屋は、他の席からは見えない造りとなっており、ステージを見下ろせる場所に立派なソファーとテーブルがあり、奥には何故か大きなベッドまで置かれていた。
……商業ギルドの特別会員ってすげぇな……
あまりの豪華さに、言葉が出てこなかった。
「って言うか、その会員証って何?いつの間にっ!?」
「うふふっ、先ほど発行して参りましたのよ、アルフレッド様」
そう言ってナタリーがしなだれ掛かってきた。
「ちょっ! ちょっと!? アルフレッド様に何してるんですかっ!? 離れて下さいっ!?」
すかさずエレノアが制止に入った。
「……あら? どうして止めるのですか? 私はアルフレッド様の大事なパートナーですよ。……公私共に……ね。うふふふっ」
「んなっ!? こ、公私ってッッ……〜〜ッッ、わ、私だってアルフレッド様のお世話をしてるんですからねっ! 今日だって、この後アルフレッド様のお世話をする約束をいただいているんですからっ!! むふふふっ……」
ふんすと胸を張るエレノア……
そうだねー、また肩と腰を徹底的に解してもらおう。
「――ッッ!?、な、な、なッッ!? 今日も私がアルフレッド様と過ごすはずだったのにッッ!?、〜〜ッッ、キィーッ!! 邪魔をしないでくれますかっ、この泥棒猫ッッ!?」
「なっ、今日も?(も)って何ッッ!? 泥棒猫はそっちでしょうがっッッ!?」
キィーッ!!
ガルルルルッッ!!!!
2人の火花がバチバチと激しくぶつかった。
「ナタリー」
ドキッ!?
「〜〜ッッ!? は、はいっ!?」
初めて名前を呼び捨てにされ、ドキリと胸の鼓動が高鳴ってしまったナタリーは、何とか返事をしたものの、その声は何時もよりトーンが高くなっていた。
「ほら、ナタリーはこっちへ来て」
アルフレッドは、ナタリーの手を掴んでグイッと引き寄せた。
「あんっ、アルフレッド様……」
「ナタリー。ナタリーが大切パートナーなのはその通りだ。……けど、エレノアも大事な仲間なんだ。仲良くしてくれないかな」
「は、はいっ! 分かりましたッッ!!」
ナタリーは、先ほどの名前呼び捨てがかなりストライクだったようで、顔を紅潮させ、目にはハートが浮かびあがり、もうすでに目の前にいるアルフレッドしか見えなくなっていた。
「エレノア」
「は、はいっ!!」
エレノアは、ビシッと直立不動になった。
「エレノアも、分かるよね? 仲良く出来るよね?」
「⋯⋯くっ、は、はいっ!! アルフレッド様のご命令とあらばッッ」
「そうか、良い子だ。じゃあエレノアはここへ来て」
アルフレッドは、ナタリーとは反対側のソファーをポンポンとたたいた。
「は、はいっ! 喜んでッ!!」
エレノアは、すぐにアルフレッドの隣に座った。
アルフレッドは、二人の腰に手を回しギュッと抱き寄せた。
「あらっ……」
「ふふふっ……」
そして、二人の髪の毛をそっと撫で続ける。
そんなとこをしているうちに、だんだんと二人ともアルフレッドに夢中になり、先ほどまでの殺気立った空気はいつの間にか何処かへ消えていた。
……ふぅ~、あっぶな……まさか、いきなり修羅場になるなんて思ってもみなかったよ……これで何とか誤魔化せたかな? 何とかこのまま、上手くいってくれると良いんだけど……
――それでは皆様、大変長らくお待たせいたしました。奴隷オークションの開催でございます。心ゆくまでお楽しみ下さいませ――
あれからしばらく二人と濃密な時間を過ごしたところで、司会者のマイクからオークションの開始が告げられた。
「さあ、お遊びの時間はここまでだ」
そう言って姿勢を正すと、すぐさまエレノアはスッと立ち上がり護衛の位置へ移動し、ナタリーは仕事の顔に戻った。
この二人は、やっぱり優秀だ。
――それでは、さっそく始めたいと思います。まずはエントリーNo.1番……――
出てきたのは、全身ムキムキに鍛え上げられた大男だった。だが、その手足には枷が嵌められ、舞台に登場した時から隷属の首輪が赤く光っていた。
「……うーん、体格的には、村の開拓をするには良い戦力になりそうだけど……」
「……いえ。あの男はダメですね。危険なので止めた方が良いでしょう」
「……え?」
「あの首輪を見て下さい。先ほどからずっと赤く光っていますよね。あれは、反抗的な態度を取ると光るものです。きっとその為にあれだけ厳重に枷が嵌められているのでしょう」
「……なるほど。あの首輪が赤く光ると反抗的な態度だと分かるんだ?」
「はい。それと同時に、あの首輪から耐えられないほどの、強烈な痛みを伴う魔法が発せられて、反抗的な態度がなくなるまで奴隷を苦しめます。きっと今もあの男は相当苦しい筈ですが、それでもあれだけ反抗的な態度を見せているのを見ると、何か相当深い恨みでもありそうですね」
「……はぁ……色々あるんだね……」
――続きまして、エントリーNo.2番〜……――
――そこから、しばらくオークションが進んでいった時だった。
――続きましては、エントリーNo.38番、元商人の母娘です。この母娘は父親と一緒に商会を営んでおりましたが、父親の死後経営が傾き、借金を返せなくなった為に奴隷となったものであります。ですので計算や帳簿も得意です。そしてそれだけではなくこの見た目です! 母親の方は26歳という年齢に見えないこの美貌!!
毎晩、寝床へ侍らすのはもちろんの事、娘の方も若干10歳という若さではありますが、母親の前で調教していくのもまた一興。母娘丼もしたい放題!! さあ、皆様とくとご覧あれ!!〜〜
おおおっ!? っと、会場がどよめいた。
それだけ目を引く美貌の母娘だった。
「……あの母娘が奴隷になった経緯には、黒い噂がありまして……」
「黒い噂?」
「はい。あの母娘の家の商会は、小さいながらも堅実な商売をしておりまして、人気も高い商会でした」
「……それがどうして?」
「あの母親の見た目です。元々、あの商会を良く思っていなかったこの町の大手商会、ワルター商会の会長に目をつけられまして、裏であの手この手を使って母娘の商売の邪魔をして借金を背負わせました。そして、それを肩代わりする代わりに、あの母親に妾になる様に仕向けたのです」
「…………」
「当然、あの母親はそれを断り、誠実な夫と2人で、娘を育てながら必死に働いていました。……が、ある日、仕入れに向かった夫の馬車が事故に遭い、夫は亡くなってしまいました……」
「……まさか、それって?」
「あくまでも噂ですが、ワルター商会の会長が裏で荒くれ共に金を渡して、手を下すよう命令している所を見たという話がまことしやかに囁かれています……」
「……なんて……酷い事を……」
「悲しみにくれた母親でしたが、それでも娘を育てる為に、必死に働きました。……ですが、ある晩のこと、その商会から火の手が上がり、またたく間にその火が燃え広がり全焼してしまったのです。その火の回りの速さから、出火の原因は油を使っての放火の可能性が高いと言われています」
「〜〜ッッ!? まさか、それもっ!?」
「あくまでも噂ですが、その時怪しい人物が走り去り、そのままワルター商会に駆け込んだのを見たという証言が上がっております」
「じゃあ、それを衛兵に訴えればッ!?」
「……ムダなのです。ワルター商会の会長の名前は、ワルター・リーゲル。あのブルーノ・リーゲル子爵の弟なのです。訴えた所で、逆に捕まってそのまま消息不明になるのがオチです」
「なッッ、何だって!?」
「先ほどの話ですが、商会が全焼した翌日に金融関係の人間が現れて、すぐに借金を全額返す様に迫りました。そして、何故かその場に一緒に来ていたワルター会長が、妾になるなら借金を全て肩代わりすると迫ったのです……
覚悟を決めた母娘が選んだのは、奴隷になってオークションに掛けられる事でした。せめてワルター会長ではなく、違う人に買われたいと願ったのだと思います」
「…………ねぇ、ナタリー」
「はい。金貨1000枚までなら即金でいけます。……私にはギルドでの立場があります。本来ならこういう事に肩入れは出来ないのですが…………実は、あの母親は……私の友人なのです。……私の力では、どうする事も出来ませんでした。……アルフレッド様……どうか……どうか……助けてあげて下さい。お願いしますッッ」
ナタリーが、声を震わせて深々と頭を下げた。
良く見るとナタリーの手はドレスの裾をギュッと握りしめていて、そこにポタッ、ポタッと大粒の涙が止めどなく落ちていた。
「アルフレッド様……ッッ」
エレノアの方を見やると、こぶしを強く握りしめ全身を震わせている。
そんなエレノアの顔を見て、コクリと頷いてみせた。
……〜〜金貨100枚っ!……〜〜120だっ!……125っ、……〜~っ、ええぃっ!こっちは130だっ……
オークションの金額はどんどん上がっている。
……金貨200枚。……
その時、会場の最前列にいた男が声を上げた。
良く見ると、でっぷりとした体型に、チャラチャラとした趣味の悪い装飾品を散りばめ、左右に女性達を侍らかしてふんぞり返っている男がいる。ひと目であれがワルター会長だと分かった。
……ブルーノ子爵にそっくりだ……
ワルター会長も商業ギルドの特別会員らしいが、この母娘に、目の前で自分達がワルター会長に落札される所を見せつける為に、わざわざ最前列に陣取ったのだろうと気がついた。
……どこまでも悪趣味だな……
〜〜さあ、金貨200枚が出ました! 他に、手を上げられる方はいらっしゃいませんか?〜〜
会場からは他に声が上がらない。
あの母親の顔が絶望に変わって行き、涙が溢れ出した。
……ワハハハッ、ようやく諦めたか! ワシに逆らうからこういう目に遭うんだ! 最初から素直になっていれば良いものを。これからはワシが毎晩タップリと可愛がってやるからな。楽しみにしておくが良いぞ!! ワッハッハッハ⋯⋯
「金貨300枚」
――えっ?――
……どよどよ…どよどよ……
突然のコールに、司会者が戸惑い会場がどよめいた。
「――なっ!?、何者だ貴様ッッ」
こちらを振り返っているが、そこからではこちらが見えない造りのはず。
〜〜っ、金貨310枚ッ!!
「金貨400枚」
――オオオオオッ!!
ワルターの声に被せるような、アルフレッドのコールに会場が盛り上がる。
〜〜くっ!き、金貨410ま……
「金貨700だ」
ウオオオオオオオオオオッッッ!!!?
会場のボルテージが爆発した。
〜〜き、金貨700枚が出ましたッ!?
さあ、これに応えるコールをされる方はいらっしゃいますかッッ??〜〜
司会者の声も弾んでいる。
…………ぐっ……ぐうっ…………
どうやらワルターは諦めた様だ。
――ッッ、それではッ、金貨700枚で落札ですッッ!!
ウオオオオォォォォォッッッ!!!?
会場の盛り上がりがピークになった。
その喧騒の中、あの母娘があきらかにホッとした顔をして、二人静かに抱き合って泣いている姿が、いつまでも脳裏に焼き付いて離れなかった。
こうして、オークションは幕を閉じた。




