(22)商業ギルド特別会員。
……チュンチュン……チュンチュン……
「……知らない天井だ……」
朝、目が覚めると白い天井が目に入った。
そう、昨夜は遅くなってしまったので、近くの宿に泊まったのだ。アルフレッドは着替えて朝食を取ると、商業ギルドへと向かった。
「おはよう」
「お、おはようございます…」
受付で声をかけると、なぜかナタリーさんが頰を赤くしている。
……か、かわええ……
ナタリーさんに、とりあえず今日奴隷商へ行ってみるつもりだと話すと、商業ギルド名で紹介状を書いてくれた。
それから、ちょうど今夜奴隷のオークションがあると教えてくれた。
そちらは現地での手続きもあるので、ナタリーさんが同行してくれる事になった。
「昨夜はどちらへ行かれてたのですか?」
宿に戻ると、エレノアがすぐに駆けつけてきた。
「……ん? ああ、ちょっとね……」
「……あのっ、昨夜もお世話(腰ツボマッサージ)をと思い部屋に伺ったのですが、いなかったもので……」
モジモジとしているエレノアが、とても可愛らしく思えた。
「エレノア、今夜改めてまた頼むよ」
「〜〜ッッ!? は、はいっ!!」
エレノアはパァッと顔をほころばせた。
宿にいる皆の顔が揃ったので、奴隷購入について話すと特に反対意見もなく同意された。
ただ、犯罪奴隷はなるべく止めた方が良いとゼノさんからの提言があった。
この世界の奴隷は、犯罪奴隷、借金奴隷、戦争奴隷の三種類があり、その中でも犯罪奴隷は、質も態度も良くない者が多いのだとか。
まあ、犯罪を犯すくらいだからそうなのかも知れない……けど、ラノベの知識だと、結構えん罪で犯罪奴隷になっている人たちがいたんだよな……
こうして、こういう事に詳しいらしいゼノさんと護衛のエレノアを連れて、さっそく奴隷商へと向かった。
「いらっしゃいませ。本日はどの様な奴隷をお求めですか?もしや、大工か土魔法使い、土木関係の人材をお探しですかな? アルフレッド男爵様」
「――ッッ!?」
店に入った途端店主と思わしき男が、まだあいさつもしていないのに、いきなりこんな事を言ってきた。
思わずアルフレッドが身構え、エレノアが剣の柄に手を掛ける……
だが、それを見たゼノさんが面倒くさそうに手で制すと、フンッとばかりに息をついてから教えてくれた。
「奴隷商の奴らは、いつ、何処で何があってもすぐに動ける様に、情報をいち早く掴むすべを持ってる。戦争があれば戦争奴隷が、家同士の揉め事があれば借金奴隷が、強盗が出れば犯罪奴隷が手に入るからな。
同業者より一歩でも早く現地へ駆け付け、良い商品を掴むためにはそういうのも必要になってくる。んで、その情報網を使えば、アル坊の事を知るのなんか朝飯前って訳だ」
ゼノさんの説明に、種明かしをされてしまったというふうに肩をすくめた店主と思わしき男は、やれやれという態度を見せてから改めて名を名乗った。
「いらっしゃいませ。改めまして、ようこそお越し下さいました。私は当奴隷商店主ゴードンと申します。以後お見知りおきを」
最初が最初だっただけに、どうも胡散臭さが消えない。奴隷商の店主とは、どこもこんな感じなのかな……
さっそく奴隷達を見せてもらう為に店内を案内されたが、思ったよりも店内はどこも綺麗になっていた。
ゼノさんに聞いたところ、不衛生な環境だと奴隷が病気に掛かってしまったりして損失が大きい為に、どこでもある程度は環境を整えているのが普通なんだそうだ。
――そのままひと通り見て回ったが、残念ながら、村の発展に力を発揮出来そうな人は見当たらなかった。
それでもせっかく来たのでと思い直し、ラノベでは良くある展開だった特別な奴隷でもいないかと、ナタリーさんに書いてもらった商業ギルドからの紹介状を店主に渡してみた。
「――ッッ!? こ、これは失礼いたしましたっ!?」
紹介状を受け取った店主は、サァッと顔色を青くし大粒の汗を掻き始めた。
「商業ギルドの特別会員様であったとはつゆ知らず、大変申し訳ありませんでしたッッ」
突然ペコペコしだした店主に戸惑いながら、それよりも特別会員という聞き慣れない言葉に驚いた。
だが、ここで慌てるのも良くないと思い、とりあえずこの場はノーリアクションを貫く事にした。
「……そ、そういう事でしたら、特別会員様専用の奴隷をご紹介させていただきますので、ぜひこちらへどうぞ」
……ほら、やっぱりあった……
アルフレッド達が案内されたのは、奥の廊下を渡り、頑丈な扉を二つ抜けた先の部屋だった。
そこは今までよりも綺麗に整った場所で、奴隷達のいる部屋もかなり広めに仕切られていた。
「こちらが特別会員様専用の奴隷たちでございます」
中を見ると、どこかの令嬢だったであろう綺麗な女性と少女、屈強な戦士、魔法使いなどがいた。皆、目に生気はあまり感じなかったが、健康状態は良さそうな顔をしていた。
説明を受けると、案の定綺麗な女性と少女は、隣国とのいざこざがあった際に、こちらが攻め落とした伯爵家の令嬢姉妹だった。
屈強な戦士も魔法使いも同様に、戦争関係で奴隷になったそうだ。
ただ、この二人はちょっと奴隷になった経緯が変わっていて、
屈強に見える戦士は、魔物にめっぽう強い戦闘斧の使い手として無敵の触れ込みで召集されたが、いざ前線に出てみると人間は斬れないと真っ先に逃げ出してしまったのだとか。そして敵前逃亡罪で捕まり奴隷にされたのだとか。
魔法使いの方は、元々は研究職畑の人間で、前線に送られた際に防御魔法は使えるが攻撃魔法は使えないと言ったところ、ライバル派閥だった指揮官に詐欺呼ばわりされて奴隷に落とされたのだとか。
戦士の方は、村の周りに出る魔物狩りを頼めるし、力がありそうなので普段は村の発展に協力してもらえそうだ。
魔法使いの方も、もし村が何かに襲われた時には、防御魔法がありがたい存在になる。問題はどの程度の範囲で防御魔法が発動するかだが、出来れば欲しい人材だ。
どちらも犯罪奴隷扱いだが普通のケースと事情が違うので、ゼノさんも黙っている所を見るとこの二人については購入しても問題はなさそうだ。
さっそくこの二人に話を聞いた。
屈強な戦士の方は、名前をガレウスと言うらしい。身長は二メートルくらいあり、その鍛え上げられた身体は、あの赤毛斬牙熊をあっさり倒したロンメル辺境伯と同じか、それ以上のガタイの良さに見えた。
性格は、気は優しくて力持ちを地でいく男で、魔物狩りや、村の土木関係や木こり等々やってもらいたいことを伝えると、自分にとっては最高の場所だと喜び、ぜひともやらせて欲しいと言ってくれたので購入することにした。
魔法使いの方は、名前をメルヴィンと言うらしく、大きなメガネが特徴的なヒョロっとした男だった。
肝心の防御魔法については、魔石を媒体にして使うらしく、大きな魔石を使うほど防御魔法も広範囲に渡って発動出来るらしい。
因みに、防御魔法の効力や持続時間、強度も魔石によって左右されるらしい。
魔石を媒体に……か。……赤毛斬牙熊の魔石、ロンメル辺境伯にあげなきゃ良かったかな……
メルヴィンにも村のことを伝えると、出来ることは協力すると言ってくれたので、こちらも購入することにした。
この二人はそれぞれ金貨250枚の値段で、一般的な奴隷からすると相当高いらしい。ゼノさんが目を見張っていたほどだ。
それぞれ契約を取り交わして店を後にした。
因みに、あの令嬢姉妹は二人で金貨二千枚だそうだ。
とても綺麗な姉妹だったけど、村のことを考えるとちょっと手が出せない。
どうか良い主人に巡り合いますように。
二人を連れて宿に戻った。
元々この町にいたことのある、土魔法使いのキースティンを呼んで二人の世話を頼んだ。服や靴など生活必需品を揃えなければならないので、この町に詳しいキースティンが適任者だろう。
アルフレッドはその足で商業ギルドへ行き、手の空いたところでナタリーさんを呼んでもらった。
いつもの個室に通され、しばらくしてから現れたナタリーさんは、昨日までとは別人の様な妖艶さを漂わせていて、見る者の心を惹きつける様な美しさを醸し出していた。
あまりのことに驚いて、何があったのかと理由を尋ねた。
「私が一日で変わった理由があるとすれば、貴方しかいないでしょ」
そう言ってウインクしてきた。
女性とはこうも変わるものなのか。
何だ、このとんでもなく良い女は。ドキドキが止まらないじゃないか……
とりあえず、先ほど行ってきた奴隷商での話をして、奴隷を二人購入した事を伝えたところ、
「アルフレッド様のお役に立てて良かったです」と魅惑的な笑顔を見せた。
……こんな顔をされたら、男は皆即落ちだろうな……完全に小悪魔の誕生だ。
因みに、特別会員について聞いたところ、商業ギルドに一万枚以上の金貨を預けていて、ギルド長からの推薦のある者しかなれない会員の事らしい。
アルフレッドは、金貨一万枚も預けた事はないし、ギルド長の推薦なんてもらった覚えがないと反論したが、金貨はすぐに貯まるからOKだと返された。何がOKなんだか良く分からない……。
それから推薦の方は、ナタリーさんの代理推薦だそうだ。とにかくアルフレッドが特別会員なのは間違いないらしい。
なんだかナタリーさんの完全な暴走の様な気がするのだが良いのだろうか……
そして夜を迎え、奴隷オークションが始まった。




