(19)団長エレノアさんの謝罪。
宿に戻ると、案の定 石工のゼノさんは土魔法使いのキースティンと自衛団の人達を引き連れて、飲みに出かけていた。
仕方ないので団長のエレノアさんと二人で食事に行こうと思ったが、何故かエレノアさんはさっさと部屋に閉じこもってしまった。
ギルドからの帰り道も、どこか元気が無かったが何かあったのだろうか?
ひとりになってしまったので、夕食をどうするかと悩んでいた所に、宿の主人から言伝が届いているとメモを手渡された。
差出人はナタリーさんで、
ナタリーさん推薦の商人と連絡が取れたそうで、明日の午後にギルドで会える事になった。
それからもし宜しければ、その後に食事をご一緒しませんかと誘われた。
宿の主人にチップを払い、ナタリーさんに了承の旨の言伝を頼んだ。
ついでに夕食について聞いてみると、別料金で食べられるとの事なのでお願いし、ひとり寂しく夕食を取った。
部屋に戻ってから、明日の交渉について色々と考えてみる。
まず必要なのは食糧だ。今、自分達で賄える村の食糧は、主に狩りで捕れる肉と山の恵みくらいしかなく、それ以外は全部商人から買うしかない状態になっている。
東の平地に開墾した畑が軌道に乗るまでは、支援物資が届くまでの間、食糧が不足するたびにこうしてしのいで行くしかない。
だから明日は、ここが一番大事な交渉になる。何としても村の人たちに食糧を届けたいが、だからと言って最初から大量に食糧が欲しいと言えば足下を見られるかも知れない。
かと言って少なく始めてじわじわ上げていけば、逆に信用されていないと相手に警戒されてしまう。
はぁ、だから交渉とか面倒で嫌なんだよ。
ナタリーさん推薦の商人か。どんな人なんだろうか。まあ、資金は出来たから、少し多めから交渉してみるか……
……しかし、資金ねぇ。
前世の記憶とラノベの知識から、儲かるのは確実だと思っていたけど、まさかたった数ヶ月で金貨四千枚になるなんて想定外だった。
これだけあれば、村に傭兵団を雇うのもありか? いやでも、奴等は金さえ積めばすぐに裏切る。それを考えるとリスクを村には入れたくない。
……さて、どう動くのが正解か……
……コン、コン……
そんな事をグルグルと考えていると、控え目にドアがノックされた。
「はい、どなたですか?」
「お、お休みのところ申し訳ない。団長のエレノアです」
ガチャリとドアを開けると、そこには先ほどよりもさらに元気がないエレノアさんが立っていた。
「……は、話したい事があるんだが……も、もしよければ、少し時間をいただけないだろうか?」
「うん。大丈夫だよ、どうぞ」
……何か少し前に似たような展開があったような。あの時は、その後にメイド長のカミラさんとの地獄のような特訓が待っていたんだっけ……
「き、今日は、迷惑をかけて申し訳ありませんでしたッッ!!」
部屋に入ってくるなり、エレノアさんはバッと頭を下げた。
「ちょっ!? ちょっと! 突然どうしたの?」
「……私が浅慮なばかりに、あのギルド嬢の煽りにまんまと乗せられてしまい、アルフレッド様に迷惑を掛けしてしまいました。私が黙ってさえいれば、アルフレッド様は村の貴重な情報を公開せずに済んでいたのに。私が浅はかだったばかりに……っ、自衛団の団長を名乗りながら、村を危険に晒すようなマネをしてしまい、本当に申し訳ありません。処遇についてはいかようにもお受け致します……」
エレノアさんの拳は強く握られており、身体が小さく震えている。それだけ自分の事が許せないのかも知れない。
「……あ〜、それでさっきから元気がなかったんだね。そんなに気にしなくて大丈夫だよ。まあ、確かに突然エレノアさんが叫びだしたのには驚かされたけどさ……でもそれだけだよ」
「……それだけって……」
「あの場で、新しい情報って言えば照明の魔道具を近い内に商業ギルドに登録するよって話だけだったからね。でもそれだって、事前に決まってた話だったでしょ。それ以外の話は、商業ギルドじゃなくても知っているところは既にあると思ってるよ。だから今回は大した話はしてない。ほらね? 気にする様な話じゃないでしょ?」
「いや、しかし……」
「それに、エレノアさんは護衛するのが仕事であって交渉は専門外なんだから、うまく対応出来なくて当然だよ。エレノアさんは、ちゃんと自分の仕事をこなしているよね。
今日だって、護衛としてずっと周りに気を配っていてくれてたから、安心していられたんだよ。むしろ、エレノアさんがそばにいてくれて感謝してるんだから。だから、気にしなくて良いんだよ」
「アルフレッド様……」
「あ、そうそう! 明日の午後からまたギルドへ行って商人と会う事になったから。護衛をよろしくね! 頼りにしてるよ」
そう言って笑って見せた。
「〜〜ッッ!? あ、アルフレッド様は優し過ぎます。そんな事を言われたら、断れないではないですか……」
「……え? いやいや、断らないでよ」
「――ッ、ですがッ……今度は商人が相手、交渉のプロです……また同じ失敗をしてしまう可能性を考えたら、誰か他の者と代わった方が良いのではないかと……」
「ダメ」
「……は?」
「だからダメ。ギルドへはエレノアさんと行くの。だからちゃんと準備しておいてね」
「……どうしてそんなに優しいのですか?」
「え?」
「……どうしてそんなに優しくして下さるのですか?そんなふうにされてしまったら……私はどうしたら……」
どうして良いか分からないと言った様にしばらく俯いていたエレノアさんは、何かを決意したようにバッと顔を上げた。
「……アルフレッド様。アルフレッドのご厚意は、ありがたく頂戴致します。……ですが、私が失態を犯したのは紛れもない事実。このままでは私自身が納得出来ません。ですので、私に何か罰をお与え下さい」
「……え? 罰って……」
「はい。ぜひとも罰をお与え下さい。このまま許されてしまっては、私自身がどうしても許せないのです!」
こういう真っすぐなところは、エレノアさんらしい。
「……うーん。でも、こちらとしては失態だと思ってないし……罰って言っても、どんなものにすれば良いの?」
「……ッ、た、例えば自衛団団長の座を解任とか……」
「それは皆が困るからダメ」
「で、では、減棒処分とか」
「……今でも十分少ないでしょ? 生活必需品も買えなくなっちゃうよ? あ、でも、まとまったお金が入ったから自衛団の皆の報酬金額上げようね!」
「――ッッ!? あ、ありがとうございます。きっと皆喜ぶと思いますっ!!……ってそうではなくてッッ……」
「他の人達の報酬も上乗せしてあげよう。うんうん……」
「――ッッ、で、では帰りは私だけリンドロット村まで走って帰るとか。樽を担いで帰るとか?」
「まさかの脳筋ッ!?……ってダメだよ。途中で魔物や盗賊が襲って来たらどうするの? 皆を守ってくれないと」
「――、では、丸坊主に……」
「妹のミーシアが見たら泣くからヤメてっ!?」
「ではッ、帰るまで食事抜きで……」
「死ぬからっ!?」
「ではッッ! 全身を縛って、ロウソクを垂らしながらムチ打ちをッ……ハァハァ……」
「そんな趣味ないからねッ!? あと、ハァハァしないッ!!」
「……で、では、……わ、私がアルフレッド様のお世話をするというのは?」
「…………はい?」
「……で、ですから、私がアルフレッド様のお世話をすると言うのはどうでしょうか?」
「……えーと、エレノアさん? お世話って……?」
気が付けば、エレノアさんは耳まで真っ赤になっている。
「……あ、あの……エレノアさん?」
「……あのっ、以前、見たことがありますので、それと同じことを……」
「……見たことがあるの?」
「はい。メイド長のカミラさんが、アルフレッド様に……あっ!?」
「……ふーん? エレノアさん? カミラがどうしたって?」
「あっ……えっと……そのっ……」
エレノアは、全身から冷たい汗が吹き出してくるのが分かった……
「――ッ、と、とりあえず、私にお世話をさせてくださいッ!!」
「あ゛〜〜ッ、そこそこ! きくぅ〜〜っ」
「アルフレッド様。肩も腰も、ずいぶん凝ってますね! もう少し、強くいきますよっ!!」
「あ゛あ゛あ゛〜〜〜ッッ、い゛た゛い゛〜〜〜ッッッッ」
ドタン、バタンとアルフレッドが暴れ回る音は、宿主から苦情が出るまで続いていたという。




