(18)再び、商業ギルドへ。
あれからすぐにルシエラ婆さんは、故郷の【古き妖精達の森】へ手紙を出してくれた。
早ければ2〜3ヶ月位でルシエラ婆さんの仲間達がやって来るだろうと言っていた。
村の土壌改良は全て終わった。
ふんだんに使われた白魔石と、魔法使いのメアリーが東側の山を吹き飛ばしてくれたおかげで、もうこの村のどこにもジメジメした場所はなくなった。
今、村は大きな区画整理の真っ最中だ。
元々あった村のエリアは新たに居住区として整備され計画どおりに新しい家が建ち並んでいる。
そして現在、立派な領主館と迎賓館を建築中だ。
この辺りにあった小さな畑は全て東側の新しい肥沃な土地へ移動させた。
その他にも東側の土地には牧場を新設し、ロンメル辺境伯から贈られた馬4頭と牛6頭を放牧している。
これについては広い放牧地を確保できたので、そろそろ数を増やしたいという話になっていた。
東の土地での外堀と防壁作りも順調に進んでいて、ここでも土魔法使いの人達が大活躍を見せていた。
ここまで計画通りに進んでいるのも、フローラと執事のブルックスさんが立てた綿密な計画のおかげだ。やはり2人ともとても優秀で、2人がいなかったらと思うとゾッとする。
そう考えると、ブルーノ子爵にはブルックスさんを追放してくれた事に感謝しなければならないのか?
それだけじゃない。魔法使いのメアリーは山を消してくれたし、土魔法使い達は毎日必死に頑張ってくれてるし、メイド長のカミラさんとはあ〜んな事やこ〜んな事もしたし……ふっ。
よし、今度贈り物でもしておこう。
ただ、やはり人手が足りないのが大きな問題となっており、一度商業ギルドへ相談してみてはどうかという話が持ち上がった。
ロンメル辺境伯から送られてきた支援物資も残り少なくなっており、次回の物資が届くまで、食糧を中心に足りなくなるのは目に見えている。そのため、領都グランリゲルへ行くには、ちょうど良いタイミングだった。
それから数日間、領都グランリゲルへ向かう準備を進めるために、アルフレッドは忙しく立ち回ることになる。
今回の同行者は、石工のゼノさん、土魔法使いのキースティン、そして自衛団の団長エレノアさんと団員5名。それにアルフレッドを含めた一行9名で、村にあるなけなしの馬車3台を使って、食糧を多めに仕入れてくる予定だ。
そう言えば、メアリーがこの前豪快に山を吹き飛ばしてくれたおかげで、移動行程を大幅に短縮できるようになったのはかなり大きい。
今までは、隣のフルール村まで、山間を縫うように馬車で片道3日掛かる行程だった。それが、元々山だった場所に通した道を真っすぐに進めるようになったことで、フルール村まで僅か半日も掛からずに行けるようになってしまったのだ。
おかげで、かつては領都グランリゲルまで7日掛かっていた移動が、早ければ3日で到着できるようになり、ものすごく楽になった。
往復まで考えると、今まではちょっとした大旅行だったものが、これからはその行程が半分程で済むようになったのだから、とてもありがたかった。
アルフレッド一行は領都グランリゲルに着いて宿を決めた後、さっそくメンバーを分けて冒険者ギルドと商業ギルドへ向かった。
冒険者ギルドへは、帰りの護衛依頼と、土魔法使いと移住者を募集する為に出向いた。
これは土魔法使いのキースティンが中心となって、この街でくすぶっている低ランクの土魔法使い達をスカウトする狙いがあったからだ。
元々冷遇されやすい土魔法使いは、冒険者になって、何とか生計を立てている者たちが多いのだと聞いていた。
なので、ここでキースティンが、自分の経験談を交えながら土魔法使いたちを口説いて回る作戦に出た。
同行する自警団の人たちも、自分の目で見たリンドロット領で活躍する土魔法使いたちの話をしてくれるらしいので、上手くすれば何人かは人材が確保出来そうだと思っている。
せっかくなら、若くて綺麗な娘達が来てくれると良いんだけどね!
そしたら色々サービスしちゃうんだけどなぁ!⋯⋯色々と⋯⋯⋯ゴホン。
併せて冒険者ギルドにお金を払い、リンドロット領への移住者の募集をかけてもらった。
あまり大々的にやってしまうと、他領からの引き抜きだとブルーノ子爵辺りから苦情が来そうだが、冒険者ならそもそも住民ではないのでグレーゾーンだろう。
せっかくなら、若くて綺麗な娘⋯⋯以下略)
低ランクでくすぶっている冒険者でも、リンドロット領なら仕事はいくらでもある。問題を起こすような輩でなければ、来てくれるなら誰でも大歓迎だ。
せっかくなら、若くて⋯⋯略)
アルフレッドは、石工のゼノさんと団長のエレノアさんと共に商業ギルドへ向かった。
ギルドへ入ると、ゼノさんは前回と同様に、来る途中で狩った獲物を買い取りカウンターに持ち込んでいく。
きっとまた、この後すぐに飲みに行くのだろう。本当にお酒が好きだよね⋯⋯
アルフレッドが団長のエレノアさんと一緒に窓口カウンターに行くと、すぐに前回対応してくれたナタリーさんが出てきてくれて、また個室へと案内された。
「アルフレッド様、お久しぶりでございます。お待ちしておりましたよ。中々こちらにお越しになられないので心配していました」
ナタリーさんは仕事向きのキリッとした顔から、フッと表情を緩めて笑いかけてくれた。
このあたりは、前回一緒に食事をしたという気安さが出ているのかも知れない。
「ナタリーさんもお久しぶりてす。いやぁ色々と忙しくてね。リンドロット領が落ち着くまでは、なかなか⋯⋯」
アルフレッドはポリポリと頰を掻きながら答えた。
「リンドロット領といえば、何でも最近領地が一気に広がったとか?」
「〜〜なッッ!?き、貴様ッ、な、何故それをっ!?」
真っ先に反応したのは、同行していたエレノアさんだった。
「商売は情報が命ですから。ふふっ……」
ナタリーさんの顔がキリッとに戻り、エレノアさんの方を向いた。
「あ〜……まあ、別に隠していた訳じゃないしね。別に秘密でも何でもないから良いけど。そもそもあれだけの爆発音がしたら、いくら周りが山だらけでもさすがに分かるだろうからね」
「ふふっ、アルフレッド様は、商業ギルドがこの情報を知っていたと聞いても驚かないんですね?」
ナタリーさんが試す様な目でこちらを見て来た。
「まあね。いくらリンドロット領が山奥にあるとは言っても、さすがに多少は人の出入りくらいあるからね。そこから幾らでも話は伝わるだろうから、そのくらい知っていてもおかしくないよね」
この前と同じ様に落ち着き払っているアルフレッドを見て、ナタリーはちょっとした悪戯心が湧いてきた。アルフレッドの慌てる姿が見てみたいと考え、それならばと、試すような事をしてみようと思いついた。
「では、他にもリンドロット領の秘密を掴んでいると言ったら?」
挑戦的な目でアルフレッドを見た。
「なっ、き、貴様ッ!!そ、それはどういう意味だっ!?なぜ、村の秘密を知っている!?あれはまだ、どこにもバレていないはずだぞッ!?」
エレノアさんが明らかに狼狽えだした。
端から見れば動揺しているのが丸わかりだ。
「エレノアさん落ち着いて。大丈夫だから。
ナタリーさんが言ってるのは照明の魔道具の事かな? それとも珍しい武器で戦闘訓練をしてる事? しかも女性まで参加しての大規模な訓練をしているんだから、そりゃあ目立つよね」
「あら? 私はまだ何も言ってないですわよ? よろしいのですか、そんな事を私に喋ってしまって……」
ナタリーさんは、愉快そうに微笑んだ。
「良いですよ。こちらも公表していないだけで、特に隠している訳じゃないですからね。
広場に行けば女性までもが勇ましく戦闘訓練をしていて、夜になれば今まで見たこともないくらい明るい光が村中を照らしている。そりゃあ物珍しさも手伝って情報はすぐに伝わるでしょう。何ならこちらからも情報を提供しましょうか? 照明の魔道具は、近い内に商業ギルドへ登録する予定ですよ?」
「〜〜ッッ!? そ、それは本当ですかっ!?」
ガタッと立ち上がったナタリーさんを見て肩をすくめたアルフレッド。
その姿を見て、ナタリーさんはフッと笑顔になった。
「……ふ~っ。やっぱりアルフレッド様には敵いませんわ。この前もそうでしたけど、とても落ち着いていらっしゃるのですね。動揺のひとつでも見られたらと思いましたが、逆にこちらが動揺させられてしまいました。完敗でございます」
そう言って頭を下げた。
「気にしなくて良いですよ」
手をヒラヒラさせながら何でもない風を装うアルフレッドを見て、団長のエレノアは自分の浅慮さを痛烈に恥じた。
……私は、ここへ何をしに来たのだ!護衛としてアルフレッド様を守るはずが、逆にさっきからアルフレッド様の足を引っ張ってばかりいるではないか。
若干15歳のアルフレッド様がこれほど落ち着いているのに、それどころか百戦錬磨のギルド嬢まで手玉に取っておられるのに……。
それに比べて私は、何と情けない姿を晒してしまったのだ……
エレノアは商談の間中、後悔の念に苛まれ続けていた。
「ところで、今回はどの様なご用件で来られたのでしょうか?」
「やっと本題に入りましたね!はははっ」
アルフレッドは軽快に笑い、話を続けた。
「今回は、リバーシとチェスの収入の確認と、食糧と物資の購入がメインで来ました。それと出来れば馬と牛も購入したいですね。後は、うちの領への移住希望者の斡旋をお願いしたいと思いまして」
「移住希望者ですか? 確かにリンドロット領は人材が不足していると聞き及んではいますが……どの様な方たちをご希望されていらっしゃいますか?」
「せっかくなら若……ではなくて。ゴホン!
うちの領で働きたい、うちの領に来ても良いと言う人で問題を起こすような人でなければ、どの様な方でも大歓迎です」
「あら、ずいぶんと緩い設定なのですね?」
「はい。本当に人材不足ですから。はははっ」
困った様に笑うアルフレッド。
「それなら、私などいかがですか?事務仕事なら何でも出来ますよ?」
ナタリーさんはニコリと微笑んだ。
「いやいや、来てもらえるなら大歓迎ですけど、ナタリーさんはこの商業ギルドでは中核を担っている人じゃないですか。そんな方が、あんな山奥の片田舎に来られるなんてあり得ないですから。あんまり驚かせないで下さい」
冗談は止めて下さいよ〜と笑うアルフレッドを見て、ナタリーさんは一瞬だけ考える様な顔を見せた。
「……あ、それとリバーシとチェスの収入でしたね。今、計算いたしますので少々お待ち下さい」
そう言うと、ナタリーさんは席を離れていった。
……まあ、あれから数ヶ月経っているから、少しは収入があるはずだ。
金貨30〜50枚くらいにはなっているだろうか?……いや、それは少し欲張り過ぎか。まだ、そんなに認知されてないだろうから、最悪金貨には届かないなんて事もあり得るか……
まあ、収入が少なければ、全額食糧調達に回して終わりかな。せめて妹のミーシアにお土産を買えるくらいの余裕が出ると良いなぁ……。
そんな事を考えながら待っていると、ナタリーさんはすぐに戻って来た。
「お待たせいたしました。現在お預かりしている金額はこちらになります。」
「………………ふぁッッ!?」
アルフレッドは、そこに書かれている金額を信じられない思いで2度見した。
「……ナタリーさん……これ、本当ですか……」
「はい、間違いありません。現在お預かりしている金額は、そこに書かれている通り金貨4000枚になります」
「〜〜〜んなぁっッッ!!!?」
エレノアさんの口がポッカリと開いて、目が飛び出している。
こんな金額聞いたら、それこそそんな顔になるよね。気持ちは良く分かるよ。一生どころか、人生やり直しても遊んで暮らせる金額だもんね……。
……けど、女性が見せてはイケない顔になってるよ、エレノアさん? ほら、鼻水とヨダレ拭こうね。綺麗な顔が台無しだよ?
「……ちょっと想定外の金額の多さに驚いています。とりあえずこのお金を取り引きに使いたいんですけど、このまま続けて大丈夫ですか?」
「ふふっ、アルフレッド様の驚く姿を初めて見ましたわ。リバーシもチェスも凄い売れ行きですし予約もひっきりなしに入って来ていますから、これからも入金はどんどん増えますよ。それと、取り引きですが、こちらのギルド内でなされるのであれば問題ないですよ」
「それは良かった。それならナタリーさんにお任せしますので、食糧と馬と牛の調達をお願いできませんか?」
その言葉に、今度はナタリーが目を丸くする番だった。
「……えっ? 私に一任ですか? 商人との交渉も? 全て?」
「はい。商人との駆け引きなんてしたことがないので、よく分からないんですよ。だから、全部お任せします。お願いできますか?」
「……できます。できますけど、普通はそういうことは……って、……はぁ、分かりました。そういうことでしたら、一人、私が信頼している商人がいますので、よろしければお会いになってみてはいかがでしょうか?」
こうして、ナタリーさんお勧めの商人と面会する段取りをお願いして、ギルドを後にした。




