↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ある日、辺境の貧乏男爵家の当主になった。前世の記憶で楽園を築きたい。  作者: ありんこの王様


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
17/55

(17)ルシエラ婆さんの秘密。



あの会議から1ヶ月が経った。

自警団の訓練所では、自警団に混じって多くの村の大人達がこぞってクロスボウと複合弓(コンポジットボウ)の練習に励んでいた。


中でもクロスボウは女性達の人気が高く、

『あたし達も守られてばかりじゃいられないからね!!』と、凄いやる気を見せてくれている。


「うぉりゃーッッ!!」


「たあぁぁーーッッ!!」


「しゃらくせえっ!これで終わりだっ!!」


などと、威勢の良い声が聞こえてくる。



「あ〜、これをうちの旦那の尻に撃ち込んでやりたいよ!!」


「分かるわ〜。何にもしないで酒ばっかり飲んで転がってる姿見ると、その鼻っ柱にこのボルトを貫通させてやりたくなっちまうからねぇ!」


「「「言えてる!!あははははっ」」」



…………やめてね。



「それにしても、このクロスボウってのは良いね。日頃の鬱憤を晴らすのに丁度良いよ!」


「本当さね!スカッとして気持ちがスーッとするのが堪らないねぇ~」


「「「分かるわ〜〜ッッ!!」」」



……女性達のクロスボウ人気が高いのには、ちょっと違う理由があったみたいだ……



「はっ!そこっ!!」


バシュッ


「お嬢様、お見事でございます」


何故かフローラも率先してクロスボウの練習に参加していて、元々の能力の高さもあって今ではその腕前は名人の域に到達している。


初めてクロスボウを持った時のフローラは、目を爛々と輝かせて近寄り難いオーラを発していた。

この辺りは、ロンメル辺境伯の血を引いてるからなのかも知れない。


「――ッはっ!!」


バシュッ!!


専属メイドのサラさんに大きく投げてもらった的を、走りながらクロスボウの狙いを定めて撃つ。そんな高度な練習を繰り返すフローラ。


ポニーテールにしたキラキラと輝くプラチナブロンドの髪をなびかせ、普段とは違うキリッと引き締まった表情で、動くたびにぽよんぽよんと大きく胸を揺すりながら真剣に練習している凛々しい姿を目の当たりにして、アルフレッドはいつまでもフローラから目が離せなくなっていた。




その後、アルフレッドは大工のガルドさんを訪ねた。

工房では、ガルドさんを先頭に職人の人達が追加でクロスボウと複合弓の生産をしていて、忙しそうに動き回っていた。


「おう!アルじゃねえか。今日はどうしたんだ?頼まれていた追加分はまだ少し掛かるぞ」


「あ、はい。それは分かっているので大丈夫です。今日はお願いがあってきました」



「…………おめぇ、また何かとんでもねぇ事考えてねぇか?」


「…………いやだなぁ~、そんな事無いですよ?…………ちょっとしか」


「おい!その間はなんだ、その間はっ!!しかもちょっとしかって言ったな?ちょっと?ちょっとって何だよっ!?」


……そんなに大きな声で叫ばなくても良いのに。ほら、職人さん達がこっちを見てるじゃん……



「……あ……ゴホン!てめぇら、こっち見てねぇで手を動かせ、手をっ!!予定のとこまで行かなかったら飯抜きだからなっ!!」


……それってパワハラだよ?



「あ〜、それで?お願いってのは何だ?」


「……実はさ、こういうの出来ないかと思って、ちょっと研究して欲しいんだけど……」


アルフレッドは設計図を渡した。


「……なんだこりゃ?」



「……それは銃って言うんだよ。」



アルフレッドはクロスボウと複合弓で足を止めるつもりはなかった。

どちらもきっとすぐに他の場所で真似されて、いずれこちらの優位性が無くなってしまうのが目に見えているからだ。


そうなってしまえば、後は数の力で押し込まれてあっという間にこの村は飲み込まれてしまう。


今は最優先で村の防御を強化したいので、とりあえずクロスボウと複合弓を提案したが、これが一旦落ち着けば銃を研究する時間は持てるはずだ。



「……分かった、やってみる。だが、あんまり期待するなよ?何せこっちは人が足りなくて、毎日ヒーヒー言ってんだからな」


そう言ってガルドさんは、工房の奥に引っ込んでいった。




屋敷に戻ると、珍しく錬金術師のルシエラ婆さんが来ていた。


あの会議以来ルシエラ婆さんは連日、照明の魔道具を朝から晩まで作り続けてくれていた。


おかげで、うちの屋敷は夜でも煌々と明かりが灯るようになり、とても助かっているのだ。



「あれ?珍しいね。どうしたの?」


「……アル坊を待っていたんじゃよ。」


ルシエラ婆さんは、お茶菓子の干した双甘桃を口に入れると、すぐにお茶を口に含んだ。


双甘桃とは文字通り2つの実がくっついた様な形の果物で、とても甘く桃のような香りと味がする為にこう呼ばれている。


このお茶の飲み方は、今この村で大流行している飲み方だ。

干した双甘桃をお茶と一緒に口の中に入れると、フワッと風味豊かな甘い香りが口の中いっぱいに広がって、お茶の味が何倍にも美味しく感じられる為、女性を中心に大人気になっている飲み方なのだ。


因みに、この飲み方を教えたのはフローラで、この土地では手に入らない双甘桃をロンメル辺境伯が支援物資の中に入れてくれた事で、今の状況になっていたりする。


この双甘桃の美味しさに気付いたわが村の女性陣は、今後も安定的にたくさんの双甘桃を食べたいと言い出して、無理を言ってフローラを通じてロンメル辺境伯から苗を譲ってもらい、新たに広がった東の平地に最優先で植えさせていたりしている。




「……なぁ、アル坊よ。おぬし今後はどうするつもりじゃ?」


「……今後というと?」


「はっきりと言えば、わしは今の照明の魔道具を作る事で手一杯じゃ。最近はポーションを作る作業も全然出来ておらん」



……そうか、ポーションがないと村の人達が困る……照明の魔道具の事で頭がいっぱいでその事に気が付かなかった……


「……じゃが、もしアル坊が現状で満足するのなら、ポーションの方は、今後は弟子でも取って任せれば何とか回していけるじゃろうと思うとる。数は少ないが照明の魔道具も作っていけるじゃろう。……じゃがのぅ、もしもそうでないのなら、まだ先を見据えて新たな事を考えているのなら、わしひとりではもうこれ以上は手が回らん。限界じゃ……」



……確かにそうだ。大事な事を全部ルシエラ婆さんひとりに頼り過ぎている。今でも充分過ぎるほど働いてもらっているのに、これ以上は無理をさせられない……


でも、じゃあそれなら今後はどうしたら良い?何か別の方法を考えないとダメか……


考え込んでしまったアルフレッドを見て、ルシエラ婆さんが続けた。



「じゃが、それを解決する方法がひとつだけある。」


「――えっ?本当にっ!?」


思わぬ話に、アルフレッドは考えるのを中断してバッと顔をあげ、ルシエラ婆さんの方を見た。



「……この村に、わしの同郷の者達を呼んでも良いかのぅ?奴等ならきっと、これからもアル坊の無茶な願いに応えてくれるはずじゃ。奴等は皆、物好きじゃからのぅ」


「ええっ!?同郷って、ルシエラ婆さんってこの村の生まれじゃないのっ!?」



「ふぉっふぉっふぉっ、わしは北にあるロンメル辺境伯領の、さらに北のメルキアラ山脈を越えた向こうにある【古き精霊達の森】の生まれじゃよ」


ルシエラ婆さんはそう言うと、今まで1度も人前で脱いだ事のない帽子を取ってみせた。



「――えええっっっ!?エ、エルフぅっ!?」


そこには、普段帽子に隠されていて決して人前で見せた事のない、尖った長い耳が顔をのぞかせていた。



「ああ、そうじゃ。わしは若い頃に外の世界を見てみたくなって森を出てのぅ。そのままあちこちを旅していたんじゃが⋯⋯ま、色々とあっての。結局、この村に落ち着いたんじゃ。本当なら、この小さな村でひっそりと最期まで静かに暮らしていくつもりでおったんじゃが……」


「……ルシエラ婆さん……」



「……じゃが、今になって若い才能が色々と面白い事を始めるではないか。付き合ってみると毎日が楽しくてしょうがない。我等エルフはのぅ、長く生きてる分世の中の事は何でも知ってると思っておるのじゃ。じゃから新しい未知の技術を見せられるとワクワクして堪らなくなるんじゃよ。この話を森の奴等に教えてやれば、きっと居ても立ってもいられなくなって、すぐにでもここに駆けつけてくるはずじゃ」



「……それは、お願いしても良い事なの?ルシエラ婆さんがずっと耳を隠してたのは、エルフだと気付かれない様にする為だったんだよね?他の人達にその秘密がバレてしまうのに⋯⋯それなのに⋯⋯本当に良いの?今ならまだ、その耳を見なかった事に出来るよ?」


「……ふふっ、アル坊は優しいのぅ。大丈夫じゃよ。どのみち、いつかわしの事を知っているエルフが現れたらバレるとはずっと思っていた事じゃからのぅ。今はひっそりと暮らすより、新しい未知の物を作り出す方が楽しくてしょうがないからのぅ。気にしないで良いぞ。ふおっふおっふおっ……」



「……じゃ、じゃあお願いしても良いかな?ルシエラ婆さんの同郷の人達をぜひ呼んで欲しい!力を貸して欲しいんだ!!実は、まだまだやりたい事がたくさんあってさ……」


そう言うと、ルシエラ婆さんの目がこれ以上ないくらいに見開かれた。


「呆れた!? まさか本当に、まだその頭の中に新しい知恵が入っていたとは!しかも、まだまだじゃとっ!?……ふふっ、これは早々にあ奴らを呼びつけないと、わしひとりで楽しんだりしたら、あ奴らに何を言われるか分かったもんじゃないね。これは騒々しくなりそうじゃわい。ふぉっふぉっふぉっ……」



ルシエラ婆さんは、耳をピクピクと動かしながら、いつまでも楽しそうに笑っていた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。