(14)領地が2倍になったなら。
……チュンチュン…チュンチュン……
山間の小さな村に、朝の明るい陽射しが差し込んだ。
村人達は、眩しそうに目を細めて空を見上げ、吹き抜けるそよ風に心地良さを感じながら、その日の作業の準備に取り掛かる…………はずだった……
「「「「うおおおっっっ!?あ、朝日だあぁぁぁっッッ!?!?」」」」
「「「うるさいねっ、こんな朝早くから何騒いでるんだ……い……」」」
「「「「きゃああああっっっ、あ、朝日が、朝日がぁぁぁっっ!?!?」」」」
村のあっちこっちから、村人達の悲鳴が響き渡った。
そう、昨日メアリーが東側の1番高い山を消し飛ばしたお陰で、今までどんなに早くても朝の9時半を過ぎなければ拝む事の出来なかった太陽が、まだ6時前のこの時間にはっきりと見る事が出来ているのだ。
特にこの村で生まれ育った人達にしてみれば、頭で分かっていても理解が追いつかない状況だった。
今まで誰も見た事のない、朝日が村に差し込むという風景に誰もが違和感を感じながら、それでも嬉しさに狂喜乱舞した。
そして山がひとつなくなった分、風が村を抜けて行くようになった。
ジメジメと湿気を含んだ空気が、いつの間にか爽やかな空気に変わっていて、それを肌で感じた村人達はこれからは洗濯も捗ると笑顔になっていた。
その姿を見て、アルフレッドは安堵のため息をついた。
あんなとんでもない魔法を放ったメアリーを、村人達が怖がってしまうのではないかと心配していたが、この様子なら大丈夫そうだ。
そう言えば、昨日はあれから大変な目にあった。
山を文字通り消滅させた後、村に戻ると事情を知らない人達で大騒ぎになっていた。
大地震か、魔物の襲来か、何かが空から降って来たのか、はたまた未知の何かが襲ってきたのか、皆が喧々諤々としていた。
果てはこの世の終わりがやって来たと天に祈る者達も出て来る始末で、村中が大パニックに陥っていたのだ。
慌ててアルフレッドが先頭に立って事情を説明し事態の沈静化を図った。
だが、皆がようやく落ち着きを取り戻して各々の家に戻っていった後、こういう事は事前に説明して欲しかったと、心臓が止まるかと思ったと、寿命が縮まるどころの話じゃないと、大工のガルドさんや石工のゼノさん、錬金術師のルシエラ婆さん達にそれはそれはこってりと絞られた。
……だって、しょうがないじゃないか。こんな結果になるなんて知らなかったんだから……
とてもそんな事は言える状況ではなく、ただただ日付が替わるくらいまでの時間、延々と説教を受けたのだった。
「「「「――――おおおおっ!!!!」」」」
その日、村の主だったメンバーを引き連れて消し飛んだ山の跡地に行ってみると、そこには広大な平地が広がっていた。
地面は肥沃な土で溢れ返っていて、いくつかの場所からは水が湧き出していた。
そう、元々この辺りは水だけには困らなかった。
山から流れて来る雪解け水の水量は豊富にあるし、ちょっと掘ればすぐに水が湧き出すくらいの土地であった。
実際、外堀を掘る工事をしていた時も、何ヶ所か水が湧き出し作業が停滞する事があった程で、工事が終わった現在では、外堀には満々と水が湛えられている状況になっている。
「…………こりゃあ……すげぇ……」
皆が一様に絶句した。
目の前に広がる平地の広さは、ほぼリンドロット領の面積と同じかそれ以上で、しかもその殆どが肥沃な土で、単純に考えてもここで畑を耕せば、村の食糧事情は一気に改善されるはずだ。牧場を作って家畜を放牧するのも良いかも知れない。
周りの獣や魔獣達も昨日の騒ぎで一匹も居なくなっており、魔獣が山に戻ってくる前の静かな今のうちに防壁を築いてしまえば、今後、安心して仕事が出来るだろう。
そうと決まれば、さっそく次の日から他の作業を中断してでも、優先的に東の平地に防壁を築く工事に取り掛かった。
一気に領地が2倍に広がった為、皆の仕事も大幅に増えて大変そうだが、何故か皆笑顔になっていた。
執事のブルックスさんとフローラは、エレノアさんを筆頭に自衛団を引き連れて、平地の詳しい調査と土地の計測、防衛拠点の場所決めや、通す道路の位置、倉庫や畑の大きさなど、忙しく計画を立て始めた。
石工のゼノさんは、白魔石の在庫が足りなくなると言って、早朝から仲間を引き連れて白魔山に出かけて行った。
メイド長のカミラさんは、父で元当主のジェイドに呼ばれて何やら話し込んでいた。
母のマーガレットは、村の女性達との会合に出かけた。
最近、急激に人口が増えた事によって何かトラブルが起きてないかや、日頃の問題や疑問、要望を話し合う場だそうだ。女性ならではの目線で話し合う場は貴重なので、どんどん意見を聞かせて欲しいところだ。
妹のミーシアは、今日も村の小さな子供達を屋敷に呼んでリバーシを教えている。最近良くやっているようだ。
ミーシアが子供達の面倒を見てくれるので本当に助かっていると、村の人達からはとても感謝されていた。
近い内に託児所のようなモノを作っても良いかも知れない。
因みに何故かそのリバーシ教室には、魔法使いのメアリーも必ず参加していて、子供相手に本気でリバーシに挑み、勝つとふんすとドヤ顔をする姿がもはや名物の様になっていた。
因みに子供達相手に負けると今にも泣きそうなほど落ち込むらしく、その時はリバーシ激弱の、メイドのリナと対戦させて元気にさせてもらっているらしい。
メアリーさん……本当に19歳なの?……
そんなふうに皆が忙しくしている中、アルフレッドはある設計図を手に、大工のガルドさんの元を訪ねた。
「ガルドさん、実は作ってもらいたいモノがあるんだけど……」
「……これはまた、ずいぶんと面白い仕組みだな。ふむ、これをこうすると、ああなるほど……」
ガルドさんは設計図を前にブツブツと考え始めた。
こうなると何を言ってもムダなので、しばらくほっといた。
「……ふむ。大体は理解した。そうさな、アルよ試作品完成まで少し時間をくれ」
そう言ってガルドさんは製作に取り掛かった。
次にアルフレッドは、錬金術師のルシエラ婆さんの所に顔を出した。
「実はちょっと考えている事があって、相談に来たんだけど――」
そう言って考えてきた内容を話した。
それはラノベなどで良くある、魔石を使った光の魔道具。そう照明器具だ。
ランタンタイプから懐中電灯タイプ、部屋の中を照らすシーリングタイプなど絵を書きながら説明した。
「……ふむ。理論上は可能じゃ……じゃが、魔石から魔力を繋ぐ導線が問題になりそうじゃな。何か良いものがあれば……」
「あ!それなら白魔石を粉状にして水で溶いて練ったものを、筆で導線になる様に書いていって、最後に土魔法で固めたら良いんじゃないかと思うんだけど……」
「……ほう。やってみる価値はありそうじゃな。しかしアルよ、良くこんなモノを思いついたものじゃな」
「……まあ、何となく?こんなのあったら良いなぁ〜なんて?……あはははっ」
前世の記憶とラノベの知識ですなんて口が避けても言えない……
でも、もう決めたんだ。
遠慮している場合じゃない。
どんどん行ってやる。
その分、危険が増えるのも承知の上だ。
ルシエラ婆さんから試作品が出来たら連絡すると言われて、屋敷に戻った。
その日の夜、もうすぐ就寝だという時間に、アルフレッドの部屋をメイド長のカミラさんが訪ねてきた。




