(13)動き出した支援隊。
ブルーノ子爵から追放された人達は、アルフレッドによって温かく迎え入れられた。
ブルックスさんには以前の経験を活かし、リンドロット領の内政をフローラと共に任せる事にした。
「突然来た私のような者に、領の内政を任せてしまってよろしいのですか?」
ブルックスさんは、当然の疑問を投げかけた。
「ずっと子爵家でやってた仕事なら慣れてるでしょ?うちの領は人手不足だからね。貴重な経験者をみすみす放ってはおけないよ」
アルフレッドは肩をすくめて見せた。
「ですが、もし私がリーゲル子爵家のスパイだったとしたら?」
「スパイは奥さんを連れては来ないでしょ?」
「……妻は、ニセ者かもしれませんぞ」
「最初に会った時、ブルックスさんの後ろで、あれだけブルックスさんを心配して不安そうにしてたのが演技なら、歴史に名を残せるほどの名演技だね。まあ、もしそうならその時は見る目がなかったと思って諦めるよ」
アルフレッドは手をヒラヒラさせながら答えた。
「……分かりました。そこまで信用していただいているなら、その御心にお応えしないわけにはまいりますまい。私、ブルックス・ガードナーは、たとえこの身が裂けようとも、命ある限り貴方様に仕える事を誓います」
こうしてここに、忠誠心の塊の様な内政官が生まれた。
因みに、ブルックスさんはガードナー伯爵家の3男だったが、家を出て何十年も経っているし、その間連絡も取っていないので実家の事はどうでも良いらしい。
メイド長だったカミラさんは、ブルーノ子爵の股間を蹴り上げた強者のルーチェさんと一緒に、そのままメイドとして働いてもらう事になった。
リンドロット家の屋敷と、隣に建ったフローラの家の両方を見てもらう事になった。うちにはリナが住込みのメイドとして、フローラの所には専属メイドのサラさんがいるけど、人手は多いに越した事はないからね。
今後の事も考えて、カミラさんにはメイド長だった経験を存分に発揮してもらいたいと思う。
一方でルーチェさんはちょっとおっちょこちょいで、良くバケツの水をひっくり返したり、躓いてアルフレッドに抱き着いてみたり、転んでスカートの中を丸見えにしたりしているが、まあ元気なので良しとしよう。
騎士団の副団長だったエレノアさんには、村の人達とロンメル辺境伯から派遣された人達の中から動きの良い者達を選抜し、リンドロット領初の自警団を立ち上げて、そこの団長になってもらった。
エレノアさんの意気込みは凄く、フローラ専属騎士のミレーユさんがドン引きするくらいの厳しい訓練を毎日しているらしい。
だが、訓練中にぶるんぶるんと激しく揺れるエレノアさんの胸に魅了されたのか、はたまた激しく叱咤され尻を蹴飛ばされるのに快感を覚えたからなのかは分からないが、団員達は熱狂的なまでにエレノアさんに食らいつき、まだひとりの脱落者も出ていないらしいので任せる事にした。
そして、驚いたのがキースティンを始めとした二十人の土魔法使い達だ。
堀と防壁工事に参加して貰ったのだが、防壁を作る作業中、木枠の中の土に土魔法をかけて固めてもらったところ、信じられないくらいに硬い壁があっという間に出来上がってしまったのだ。
……叩くとキィーンと金属音のする壁って、どれだけ硬いんだ……
これも土に混ぜた白魔石の魔力が、土魔法と反応して出来た副産物的なモノらしいが、その効果はとんでもなかった。
木枠の中に入れた土が乾くまで待つ必要もなくあっという間に固まっていく為、作業がどんどん捗っていった。
何よりこれだけ頑丈なら、あの赤毛斬牙熊ですらもこの防壁を壊す事は出来ないだろう。
しかもすぐに土を固められる為に、今までは高さ5メートルまでしか積み上げられなかった土が、3倍の15メートルの高さにまで積み上げる事が出来てしまった。
外堀と併せて、これだけ高くなった防壁なら乗り越えて村に侵入しようとしても、空でも飛ばない限りは無理だろう。
因みに、その高くした際に使った土は外堀を掘った分の他に、村中の道を全て2メートル掘り下げ、そこに白魔石の細かい砂利を元の高さまで入れ最後に薄く切って加工した白魔石を敷き詰め、石畳を作る工事をしている時に出た物だ。
今後は、さらにそこから外堀まで溝を掘って、そこに白魔石の砂利を埋め込む事で、地中の水分を抜き、雨水を堀に流せる様にして村中の地面をジメジメしない最高の土地に変えていく予定だ。
こんなに早く作業が進んでいるのは、間違いなく土魔法使いの人達のおかげだ。
レベルが低いと言われた人達だったが、毎日魔力切れになるまで頑張ってくれていて感謝しかない。
そして驚く事に、毎日仕事で魔法を使っている間に本人達も知らないうちに魔力量が増え、魔力操作も上手くなり、土魔法使いとしてのレベルもガンガンに上がっていたのだった。
そしてそれがまた工事のスピードを加速させていた。
こんな感じで、急ピッチで村が整備されていった。
そんなある日の朝、アルフレッドがその日の予定を確認していたところ、魔法使いのメアリーに、服の袖をクイクイと引っ張られた。
「……ん?」
「……暇。私だけ何もしてない。私も何かやりたい。」
「……ん〜、気持ちはありがたいけど、今のところ魔法をお願いするところはないかなぁ……」
「……それなら、山をどかす。」
「…………へ?」
「この村は、山が邪魔でお日様があまり当たらない。それなら山をどかせば良い。私がやる」
「……いや……え?」
こうして、アルフレッドとフローラ、お供の3人、執事のブルックスさんとメイド長のカミラさんに自警団のエレノアさん。そして忘れてならない皆のアイドル、わが妹ミーシアを連れて、目標の東側の山が見渡せる場所に移動した。
「にぃ様、これから何が始まるの?」
コテンと首を傾げた姿がたまらなく可愛い。
くぅ~っ、やっぱりミーシアは天使ちゃんだよ〜っ
隣でフローラも瞳を輝かせてミーシアを見ている。
うんうん、ミーシアは可愛いよね。
……でも、あげないよ?
「……じゃあ、始める。」
メアリーは、杖をスッと掲げるとそれを山の方に向けた。
……ん?
これは、もしかして?
あれか?やっぱり、あれなのか?
来るのか?あの厨二病的なモノが!?
来るのか?来るのか?来ちゃうのか?
ど〜なんだぁ〜〜っ!!!
……天翔ける精霊達よ……
キター!?厨二病魔法キター!?
天翔ける精霊達よ、地を覇す古の勇者の魂達よ、我、大神の奇跡を遣う代行者として此処に願わん。今こそ汝らの力を解放し、吹き荒れる焔の翼となり、雷鎚の雨となり、蒼穹の光矢と成りて顕現しその姿を示せ。
超極大魔法《全てを消滅させる神の罰》
………………ぽんっ。
……………………は?
天翔ける精霊達よ、地を覇す古の勇者の魂達よ、我、大神の奇跡を遣う代行者として此処に願わん。今こそ汝らの力を解放し、吹き荒れる焔の翼となり、雷鎚の雨となり、蒼穹の光矢と成りて顕現しその姿を示せ。超極大魔法《全てを消滅させる神の罰》
………………ぱふっ。
……………………へ?
――超極大魔法《全てを消滅させる神の罰》
………………ぽふっ
……………………。
アルフレッド達は、二の句が告げられずにフリーズしてしまった。
「あれが、あの娘が抱えている問題なのです」
ブルックスさんが教えてくれた。
「確かにメアリーの魔法は国をも震撼させるレベルのモノです。ですが魔力操作が上手くいかず、こうなってしまう事の方が圧倒的に多いのです。メアリーも必死に頑張っているのですが、こればかりはどうにもならないようです」
「……上手くいかない事が多いって事は、上手くいく事もあるって事だよね?」
「はい。その通りでございます」
「なら、ブルックスさんは上手く行った時のメアリーの魔法を見た事ある?」
「…………残念ながら。」
「……………………。」
アルフレッド達は、何も言えなくなってしまった。
可愛いミーシアでさえ、空気を読んで大人しくなってしまっている。
超極大魔法《全てを消滅させる神の罰》
………………ぱすっ。
超極大魔法《全てを消滅させる神の罰》
………………ぺふっ。
超極大魔法《全てを消滅させる神の罰》
………………ぽん。
《全てを消滅させる神の罰》
………………ぺちっ。
《全てを消滅させる神の罰》
………………ぷしゅ。
気がつけば、泣きながら呪文を唱え続けているメアリーを見て、アルフレッドは居た堪れなくなってしまった。
「……メアリー、今日は調子が良くないみたいだから、また日を改めようよ」
アルフレッドが後ろから声を掛けた。
「……ぐすっ……私は、出来損ないじゃない……ひぐっ、役立たずの能無しなんかじゃないっ……ぐすっ、ぐすっ……私は、私はっ……」
アルフレッドは、思わず後ろからメアリーを抱き締めた。
「……メアリー、分かってるよ。メアリーは凄い魔法使いだ。たまたま今日は調子が悪かっただけ。また今度挑戦しようよ」
「…⋯ひぐっ、怒らない?殴らない?」
――何っ!?今まで、そんな事をされていたのか?こんな幼気な女の子に、魔法が上手く使えないくらいで、怒るだと?殴るだとっ!?アルフレッドは激しい怒りに襲われた。
「……メアリー、良く聞いて。ここにはメアリーが魔法を使えないからって怒る人は誰もいないよ。もちろん殴ったりするヤツなんかひとりもいない。魔法なんてなくたって、メアリーはメアリーだよ。何も気にしなくて良い。そのままのメアリーで、ずっとここにいて良いんだよ」
「…………本当に?」
「もちろん。いっぱいおしゃべりして、いっぱい笑っていてくれれば良いんだよ」
「…………うん。」
メアリーの身体から、スッと力が抜けた。
「……ぐすっ……もう1回だけやってみる……」
メアリーは、アルフレッドに身体を預けたまま、杖を山に向けた。
天翔ける精霊達よ、地を覇す古の勇者の魂達よ、我、大神の奇跡を遣う代行者として此処に願わん。今こそ汝らの力を解放し、吹き荒れる焔の翼となり、雷鎚の雨となり、蒼穹の光矢と成りて顕現しその姿を示せ。
……呪文を唱えている最中、どこからか現れた光がメアリーを包み、風でスカートがフワリと舞い上がった……
超極大魔法《全てを消滅させる神の罰》
――キュィィィィン――
杖の先に光が集まり出し、だんだんと大きな光の玉になって行く。
「「「…………ッッ!?」」」
「あはっ!来たっ!?」
メアリーが嬉しそうに笑った。
いっっっけぇーーーーーーっっっっ!!!
メアリーのかけ声とともに、光の玉が飛んでいく。
キュィィィィーーーーーーン…………
………………
…………
……
ズッ……ドッッッッッッゴゴオオオオォォォォォォォーーーーーーーーーーーッッッッッッッッッッンンンンンン…………ン……ン…………
「「「「――――――ッッッ!?!?」」」」
光が弾けた一瞬の後、とてつもない暴風と土煙が辺りを襲った。
周囲の山々は震え、見渡す限りの場所から無数の鳥が慌てて飛び立ち、逃げ遅れた鳥達は暴風に巻き込まれていった。
また、そこら中から魔物や獣達の逃げ惑う悲鳴が響き渡り、いつまでも落ち着く事はなかった……
砂ぼこりが晴れた先に見えたのは、先ほどまであった高い山がきれいに消滅した後に広がる空間だけだった。
「「「「………………はぁっ?」」」」
そこにいた全員のアゴが外れ、目が飛び出したまま固まった。
ドヤ顔のメアリーが無い胸を精いっぱい前に突き出しVサインをしているが、誰ひとり、その勇姿を目に捉える者はいなかった。
「ぴーす、ぴーす。」




