第六話【名前】
『お弁当。毎日作っていってあげるから』
ヒナの宣戦布告から一週間。宣言通りヒナは毎日俺に弁当を作ってきてくれた。
「はい、お弁当。食べたら弁当箱はそのまま返してね」
「お、おう。サンキュ」
初めて弁当を手渡された時は非情に心躍った。
毎日一緒に昼飯を食っている友人二人に何を言われるかなんて考える暇が無い位ワクワクしていた。
実際目の前でヒナの愛妻弁当を広げる俺に対し、アユもミノも最初はニヤニヤしながらからかってきた。
だがそれも、弁当の蓋を開けるまでの短い間だった。
「多くね?」
「多くない?」
「……多いな」
手渡された弁当は、花見の時に家族全員分の食事を用意する為の重箱の様なデカさをしていた。
一体どうしてこんな大きさになったのか、何も考えていない訳ではないと言うのはその内容が自ら主張していた。
「肉よし、野菜よし、彩りよし、バランスよし。お弁当としては百点だね」
「でもよ、カイトってこんなに量食えたっけ?」
「…………」
正直、俺は同年代の男と比べると小食な方だった。普段の昼飯もコンビニや購買のパンやおにぎりが一個か二個あれば満足する胃袋だ。
なのにこの量の弁当を用意してくれたと言う事は、ヒナの中の俺はこれぐらい食べるイメージなのかもしれない。
確かに、中学高校とそれぞれ別の友人もでき、一緒に食事する機会もまるでなかった。だからヒナの記憶の中には、いっぱい食べる小学生の頃の俺のイメージが最新の俺だったのだろう。
「手伝ってやろうか?」
「いや……俺にって作ってくれたものだし……」
「でも残して返したら委員長悲しむよ?」
「ぐっ……」
二人の申し出を受けて、自分の中のもう一人の俺と葛藤する。
食べるのを手伝ってもらう。余った分は残して正直に謝る。どちらもヒナの事を思うと心苦しかった。
「…………大丈夫だ」
頭の中で、色んなヒナの顔が浮かんだ。
俺が選んだのは、どちらでもない第三の選択肢。
「全部、食い切ってやる!」
ヒナの思いも食材も無駄にしない。ただ俺が漢気を見せればいいだけの話だ。
俺は覚悟を決め、箸を手に取った。
「うっひょ~! 男前!」
「大丈夫? 後で後悔しないでよ?」
「へへ、まあ見てろって……」
震える右手を左手で押さえる。
落ち着けよ、どんな厳しい試練だって、やってみなきゃわからないだろうが。
「……いくぜ!!」
戦闘開始だ。
◇
「めし……うま……」
昼休みの約半分を代償に、ヒナの愛妻弁当に勝利を収めた。
本当に美味かった。これを毎日食べていいだなんて俺は本当に幸せ者だと思った。ヒナの料理の腕がここまで上達していただなんて嬉しい誤算だった。
問題は、喜びを表現できるほど身体に余裕が無い事か。
「お前男だよ」
「すごいね、本当に一人で食べちゃった」
アユとミノに称賛されるも、それどころでは無くて反応が出来ない。
「……か、カイト?」
「うぅ……? あっ、ヒナ!?」
椅子にもたれかかっていると、頭上から心配そうに覗き込むヒナの姿が見えた。
「ど、どうだった? 辛そうだけど、もしかして美味しくなかった……?」
「えっ!? あっ!!」
ヒナの表情がみるみる曇っていく。
俺は慌てて呼吸を整えて弁解をした。
「ち、違う違う!! すっげぇ美味かったよ!! 普段はこんな量食えねえんだけど、完食できたのはヒナの弁当が美味かったおかげなんだって!! ただちょっと胃袋が限界で疲れてただけなんだ!! 心配させて悪かった!!」
「ほ……本当? 良かったぁ……」
ヒナの顔に笑顔が戻り一安心する。
こいつ、本気で俺の事を考えて作ってくれたんだなという実感がわいて、少し照れ臭くなった。
「じゃあ明日も頑張ってくるから期待してて! あ、ついでに弁当箱も持っていくね」
気分を良くしたヒナは弁当箱を受け取り、ルンルンで自分の席に戻ろうとしていた。
「あ!? 明日からは出来ればもっと普通の大きさ……」
「明日もいっぱい食べてね!」
「あっ…………」
ヒナの嬉しそうな顔を見たら、それ以上余計な事なんて言う事が出来なくて。
「……ああ……楽しみにしてる……」
「うん♪」
ヒナの言葉に頷く事しか出来なかった。
「……ふっ、くく……」
「わっ、笑ったら可哀想だよアユム……」
ヒナへの言葉は嘘偽りない本心だ。
ただちょっと、伝えそびれた事があるだけで。
後ろで笑いをこらえているバカ二人に文句を言う気力も無く、ただその場に崩れ落ちた。
◇
そんなやり取りも一週間続けば限界を迎える。
「あれ? カイトどこ行ったんだろ……?」
昼休み。
ヒナに見つかるより先にそそくさと教室を抜け出し、様子を窺う。
(すまんヒナ……今日こそはちゃんと言うから。せめて食ってる所だけは一人にしてくれ)
弁当自体は朝の時点で渡されていた。
だがいつも食べ終わった直後に感想を聞くのを楽しみにしているヒナ相手では、量を減らしてくれと面と向かって言う事が出来ない。
あのワクワクドキドキって感じのヒナを前に余計な事を言えない俺の弱さだ。
だからせめてゆっくり一人で食べられる場所へ行こうとしていた。そして帰り際に弁当箱を渡して、次回からは量を減らしてもらえるよう頼んでみよう。
「一人で食うなら……やっぱ屋上か?」
自分以外に誰かが利用している所を見た事が無い屋上へ狙いを定め、俺は弁当片手に屋上へ向かった。
◇
「うーん、量減らしてくれって言っても悲しまないよな……?」
ヒナになんて言って伝えるかを考えていたらあっという間に屋上前の踊り場まで辿り着いていた。
相変わらず鍵もかかっていないずさんな管理のドアノブを握り、ガチャリと開いた。
「そう言えば、あの時はこの音に気付かないでヒナに見付かったんだよな」
苦い思い出を振り返りながら、先日と同じドアから死角になっている場所へ歩いた。
どうせ誰も居ないだろう。
「きゃっ!?」
「あ」
「へ?」
誰かが居た。
「あわ、あわわわわわわわ……」
実際に見た事は無かったが、噂には聞いていた。この場所はカップルが隠れてイチャイチャするにはうってつけだと。
こうして鉢合わせてしまうとは夢にも思わなかったが。
「えっと……?」
だが、目の前の男女を見て気まずさより先に興味深さが湧いてきてしまったのは、ある意味で見慣れた光景だったからかもしれない。
床に腰を下ろす男子の首筋に、女子が背後から鋭い牙を立てている所だったから。
まるで血を与えられている様に。
「きゃああああああああっ!!!!!!」
ガラスの様な銀髪の女子は俺の姿を見て大慌て。
即座に振り返って床を蹴り、勢いよく跳んだかと思ったらそのまま姿が見えなくなった。
「あっ! ……行っちまった」
手を伸ばして声を掛けようとしたが、そのまま手が空を彷徨った。
その場には俺と一人の男子が取り残され、無言の時間が訪れた。
「悪い。一人で弁当食える場所探してたんだけど……邪魔したか?」
「あんた、驚かないんだな?」
「まあ、色々あってな……」
彼の言葉を聞いて自分の反応のおかしさを理解した。
何も知らない人間が見たら何から何まで驚く要素しかなかったか、今の光景は。
実際にヒナに見られた時は大惨事だったからな。
「こっちこそ悪かった。普段は学校で血をくれなんて言われないんだが、最近中々時間を作ってやれてなくて仕方なく……」
「あー……そういう時もあるよな」
一日血をやらなかっただけで学校まで追いかけて来た問題児を思い出す。
そんな俺を見て、彼は何やら確信した様に頷いた。
「……チカゲ。この人は大丈夫そうだ」
彼はそう言うと、しばらく待った後に彼の背中にしがみついている女子が輪郭を取り戻す。
「……ほんと?」
「ああ。多分吸血霊鬼に慣れてる人だ」
「はぁ、よかったぁ……」
チカゲと呼ばれた女子は彼の言葉に安心し、その背中から姿を現した。
「自己紹介が遅れたな。俺は八木託人、こいつは小景だ」
「チカゲでーす! さっきは逃げちゃってごめんね?」
「まあ無理もないだろ。あ、俺はカイト。神上灰人だ」
俺とタクト、チカゲはそれぞれ自己紹介をし、穏やかな空気が戻った所で俺の腹の虫がぐぅと音を立てた。
「……とりあえず、弁当食ってもいい?」
◇
二人の許可も得て、俺は三人向かい合って屋上での昼食タイムを取った。
「カイトは吸血行為も見慣れてるみたいだったが、身近に居るのか?」
「ああ、同じ部屋で暮らしてる。死にかけてたのを拾ってさ」
「へぇ~、カイトくんって優しいんだね!」
「当時は下心もあったけどな……今じゃ気苦労のが多いわ」
気軽に話す訳にいかない内容も、似たような事情を理解してくれる相手なら楽に話す事が出来た。
吸血霊鬼との生活を打ち明けられない事をストレスに感じた事は無いが、センシティブな話題を共有できると言うのはそれだけで心が軽くなる感じがした。
「それで……えっと、チカゲさんは」
「チカゲでいいよ~?」
「いや、人様の彼女を呼び捨てにする訳には……それか苗字でも」
「きゃっ♡ たっくん聞いた? チカ、彼女に見えてるって♡」
「気にするな、誰も気にしてない」
チカゲに呼び方を訂正され、戸惑いながらも呼び捨てで統一する事にした。
「俺は気になるけどなー……まあいいか。チカゲはタクトとはやっぱり付き合ってるのか?」
「うん! チカはたっくんと永遠を誓った仲なんだから……♡」
「へ!?」
チカゲの発言に違和感を感じ、タクトの方を見る。
「安心しろ、俺は人間だ」
「びっくりした。永遠を、とか言うからてっきり両方吸血霊鬼なのかと……」
「もう! たっくんも照れちゃってさ。自立したら結婚しようって言ってくれたのはたっくんの方なのに!」
「お前がややこしい表現をするからだ」
隣でぷんすこしているチカゲを冷静にたしなめるタクト。こういうやり取りに慣れているような印象だ。
「それに、たっくんが吸血霊鬼だったら血を貰う訳ないよ。同族の血ってすっごくマズいんだよ?」
「え、そうなの?」
「そうそう。だから大昔の吸血霊鬼は家族の他に人間を飼ったり、愛人にしたりやりたい放題だったらしいし」
「うわ……」
チカゲから説明され思い浮かんだ光景は、現代の倫理観では考えられない行いだった。
それこそ歴史の教科書に載っている様な話だ。
「だから今では人間とくっつく吸血霊鬼も増えて、純血って珍しくなってるみたいだよ」
「ふーん……確かに今じゃ一夫多妻だの愛人だのは難しいだろうし、そうなるのが自然か」
「と言っても何百年も生きる種族だし、何百歳って人はまだまだ純血かもね」
なるほど。となると紗霧ちゃんみたいなのは多分純血と。
レイはどうなんだろう、結局あいつの本当の年齢って知らないままだが。
「だからチカも、たっくんがプロポーズしてくれたら苗字を教えてあげるって決めてるんだ~♡」
そう言ってチカゲはタクトの腕に抱き着き、頭をすりすりと擦り付けた。
「その事なんだが、カイト」
「え、俺?」
密着状態のチカゲには目もくれず、タクトは俺に話しかけてきた。
なんというか、本当に動じない奴だな。ミノより表情が読めない。
「お前さっきチカゲに苗字を聞こうとしていたが……もしかして知らないのか?」
「あー! それチカも気になってた!」
「……うん?」
質問の意図が掴めず、弁当を頬張りながら首をかしげる。
「そうか、やっぱり知らないんだな」
「知らないって、何が?」
「……そうだな、吸血霊鬼と一緒に暮らしてるお前は知っておいた方がいいだろう」
顎に手を当て少し考えた後に、タクトは俺の方を向いて淡々と口を開いた。
「吸血霊鬼の名前には強力な呪いが宿っていてな。フルネームってのは、生涯を誓った相手にしか伝えないんだ」
「…………」
俺の口に弁当を運んでいた箸から、白米がポロポロと零れ落ちた。
それを受け止めるはずだった俺の口は開いたまま乾いていく。
「…………は?」
そして、白米の代わりにタクトの言葉をようやく咀嚼する事が出来た俺は、ただ一言、一文字だけそう言った。
「いやいや、待ってくれ。どういうことだそれ!?」
「吸血霊鬼って種族はな、生みの親が子に与えた名前が魂と深く結びつく。そしてそれは苗字と名前、二段階の呪いとなって吸血霊鬼の誠意を示す武器になるんだ。人づてに聞いても意味はなく、本人の口から伝える必要があるが」
「たとえば~、たっくんはチカの本当の名前を知ってるの。チカゲとは別のね。で、名前を知られている相手からは姿を隠せなくなるの!」
タクトとチカゲ、二人から与えられた情報量が多すぎて、俺は黙って聞く事しか出来なかった。
姿を隠せなくなると言う事は、さっきタクトがチカゲを呼んだ時、タクトには背中に張り付いたチカゲが見えていたと言う事か。すぐ近くに居る事をわかり切ったような声量だとは思っていたが。
「それでね? 苗字と名前を両方伝えた相手は、自分に関する記憶を消せなくなるの」
「……記憶を、消す?」
どんどん新しい情報が出て来て理解が追い付かない。
記憶を消す消さないとはなんだ。そんな事まで出来るのか。
しまった、親父の手帳を鞄の中に置いてきてしまった。確認する事もできない。
「吸血霊鬼に血を吸われた記憶を嫌がる人は少なくない。だから血をくれた人間に負担をかけないよう身に付けたらしいぞ」
「らしいって……人の記憶なんてそう簡単にいじれるもんか!?」
「出来るよ〜。例えば……チカの目をよ~く見て?」
「うん? こうか……?」
チカゲに促されるまま、その赤い瞳をまっすぐ見つめた。
すると、なんだかチカゲの瞳がうっすら光ったような気がした。
「……ね、私の名前言ってみて?」
「はぁ? そんなん……………………っ!?」
俺は目の前の彼女の質問に答える事が出来なかった。
タクトの彼女で、吸血霊鬼で、今記憶に関する説明をしてくれていた彼女の名前が、ほんの数秒前まで覚えていた名前が、俺の記憶からすっぽりと抜けていたのだ。
「チカゲ、だよ! 覚え直してね!」
「あ、あぁ……」
「これで納得してくれた?」
「納得せざるを得ないな……実演されちゃあ」
吸血霊鬼が記憶を消せるだなんて突拍子もない話だ。
だが実際に俺の記憶を、あそこまでピンポイントで消されてしまっては、二人の発言は真実なんだと納得するしかなかった。
「つまり吸血霊鬼にとって本名を明かすと言うのは「あなたの不意を突いて襲ったりしません。都合の悪い事を無かった事にもしません。ありのままの私を全て見せます」という誠意の表れなんだ」
「ねー♪」
タクトはそう言ってチカゲの事を見て小さく微笑んだ。応える様にチカゲも満面の笑みを返す。
(…………待てよ。それが本当なら……)
対する俺は、ただまっすぐに床を見つめていた。
それは、俺の中にある一人の名前が盛大に警報を鳴らしていたから。
「だからカイトも、同居人のフルネームは知らないだろう?」
「……………………」
「カイト?」
タクトの質問に俺は頷けなかった。
俺は、知っていたから。レイに初めて会った夜に聞かされていたから。
鬼咲麗華という名前を。
「お前まさか、知ってるのか!? その吸血霊鬼の名前を!」
タクトが驚愕した様子で俺に訊ねる。
「…………ああ」
「その吸血霊鬼が姿を消したことは?」
「そ、そりゃあるさ! 初めて会った……時も……」
そこまで言って言葉を遮る。
初めて会った時に消えていた? 当たり前だ。あの時はまだレイの名前なんて知らなかったんだから。
「まさか、この前のも……?」
レイがヒナに見付かった日。教室の窓から俺を覗いてた時。
アユも反応してたから最初は本当に見えていたんだと思う。だがその後「姿を消せ」と言ったのにレイの姿は見えたままだった。
それはもしや、レイは俺に言われた後ちゃんと姿を消していて、俺にだけそれが見えていたと言う事だろうか。
「心当たりはあるみたいだな」
「……少なくとも下の名前は本名かもしれない」
「記憶の方は確認のしようが無いからな……」
タクトもチカゲも腕をこまねいて、俺と一緒に悩んでくれている。
知り合ったばかりの相手に優しい奴らだ。
「とにかく、帰ったら聞いてみるといい。教えてくれたのは本名なのかどうか」
「で、でもさ。うちのはちょっと情緒が幼いっつーか、名前がどうこうって知らなかっただけって事も……」
「それは無いよ」
「チカゲ?」
俺の疑念を、らしくない口調でチカゲが振り払った。
「吸血霊鬼にとって名前の呪いは、本能で理解してるの。赤ちゃんが成長と共に寝返りをうって、ハイハイして、立ち上がるのと同じ。鳥が飛べるのと、魚が泳げるのと同じ。絶対に知ってる事なの」
チカゲはそうキッパリと断言した。
つまりレイは、全てを理解した上で俺に名を明かしたのか。
出会ったばかりの、たった一回血を与えただけの俺に。
「……そう、か」
吸血霊鬼の情報が増えるほど、説明をされるほど、余計にわからなくなった。
レイ、お前は一体……何を思って俺に名前を教えたんだ?
◇
「何か聞きたい事とかあったらいつでも相談してくれ。その時はまたここで会おう」
「あ、学校では牙妻小景で通ってるから、探す時は覚えておいてね!」
「サンキュ、タクトにチカゲも。恩に着るよ」
不思議な縁で知り合った俺達は連絡先を交換し、昼休みが終わる事には友人と呼べる仲になっていた。
「カイトくんちの同族ちゃんにもよろしくね!」
「ああ。帰ったら話してみようと思うよ」
新しく出来た、人間と吸血霊鬼の友人の話を。
吸血霊鬼の名前の話を。
レイの本当の名前についての話を。
「それじゃ、俺のクラスこっちだから」
「ああ、またな」
「ばいばーい!」
タクトとチカゲと別れ、俺は自分の教室へと向かった。
◇
「かいと……」
「うわぁ!?」
教室へ戻ると、俺の席でヒナがめそめそしていた。
「お弁当……美味しくなかった?」
「何でそうなるんだよ!! すっげえ美味しかったって!!」
そう言って空っぽの弁当箱をヒナに手渡した。
予定より早くなったが、今伝えてしまおう。
「たださ、やっぱ俺にはちょっと多いや。次からはヒナの弁当と同じくらいの大きさだと助かる」
「そうなの? カイトがそう言うならそうするね」
ヒナは俺から弁当箱を受け取ると、さらっと了承してくれた。
なんだ、簡単な事だったじゃないか。俺の考えすぎだったのかもしれない。
「……ん?」
「ん?」
ヒナが何かに気付き、俺の肩を凝視する。
そのまま手を伸ばし、俺の肩から何かを摘まみ取った。
「……銀髪」
「え? あーそれは……ヒイッ!!?」
「……女?」
ヒナの目がギロリと光る。
「そ、それはチカゲっつー友達の……」
「女?」
「お、女だけど! ヒナが思ってるような相手じゃなくて!!」
ありのままの真実を伝えているのに、どんどん状況が悪くなる。
くそう、チカゲの髪が何で俺についてるんだ。そんなの誰に見付かっても修羅場の原因じゃねえか。
「私のお弁当……知らない女と食べてたの?」
「そうだけど! そうなんだけど!! 違うんだって!!!!!」
その後、ヒナが納得するまで説明するのは本当に骨が折れた。
チカゲは出来たばかりの友達で、ちゃんと彼氏もいる女友達と言う事を伝えてようやくヒナの疑念は晴れてくれた。
吸血霊鬼っていうのは全員トラブルを持ってくる種族だって言うのかよ。ちくしょう。




