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吸血霊鬼のレイカさん  作者: ラティーシャ
夏休み前半・デート編
22/47

第二十一話【未来=過去+I】

「これでもダメか……なら検索ワード変えて……地域も……」


 ベッドの上で寝転がりながら、俺はスマホとにらめっこしていた。

 遊んでいる訳でも、やましいサイトを探し歩いている訳でも無い。


「出ねえか……クソッ、こういう時なんて調べりゃいいかわからねえんだよな」


 わからない事に悩み続けても良くない。そう思ってリビングに向かおうとしたのだが、扉の前から気配がする。


「ヒナタさんばっかりずるい! あたしも!!」

「ちょっ、あんまり騒ぐとバレちゃうでしょ!?」

「……はぁ」


 ため息ひとつ、勢いよく扉を引いた。


「きゃっ!?」

「ひゃんっ!!」


 扉の動きに合わせて部屋に雪崩れ込んでくる女子二名。

 同居人のレイと、今日も昼飯を用意しに来てくれたヒナ。


「なーにやってんのかなドスケベ女共」

「誰がドスケベ女よ!! ちょっとカイトの様子が気になっただけでしょ!?」

「どすけべ?」

「ヒナみたいな女の事だぞ」

「嘘教えないで!!」


 一人部屋に戻った男子の扉に聞き耳を立てる女のどこがドスケベじゃないって言うんだ。


「家に女友達呼んだ状態でやらかすわけねえだろ」

「だから違うんだってば!! 本当にちょっと気になっただけなの!!」

「まあ、せっかく来てくれたのに部屋に籠ってたのは申し訳ないと思ってるよ」


 色気のない言い方をしてしまえば、ヒナは俺目当てで家に来てくれている訳で。それを知りながら部屋に戻ってしまうのは配慮ある行動ではなかっただろう。

 ただ俺もなるべく早く片付けたい問題があるんだ。


「申し訳ついでに、一個頼んでもいいか?」

「いいけど、なあに?」

「図書館行ってくるからレイとお留守番しててくれ」

「「えっ!?」」


 俺の頼みに綺麗にハモって返事する二人。


「あたしの事置いて出掛けちゃうの!?」

「悪いな。どうしても一人で調べたくて。帰ったらたくさん甘やかしてやるからな」

「でへへ~」


 置いて行かれるのを嫌がりそうなレイを家に繋いでおくことには成功する。まずは一人。


「隙あらばイチャイチャするのやめなさい!! って言うか、カイト居なくなっちゃうなら私も帰……」

「そうか残念だな。夜もヒナの手料理食いたかったんだが……」

「ぴくっ」

「ヒナも何か俺にしてほしい事とかねえか? レイに負けないぐらい甘やかしてやるからさ」

「でへへ~」


 図書館だったら着いてくると言いそうだったヒナもこれで拘束成功だ。

 あんまり二人の好意を利用して、自分の安売りで制御するのは良い事だとは思わないんだが、背に腹は代えられない。

 って言うか二人して同じリアクションするなんて随分息が合ってきたじゃないか。もう結構仲いいだろお前ら。

 以前のヒナだったら吸血霊鬼と同じ部屋に二人きりだなんて死んでも御免だっただろうに。


「悪いな二人共。それじゃ行ってくるから留守番頼むな」

「は~い!」

「まったく、しょうがないんだから……」


 美少女二人に見送られながら俺は自宅を出て、目的地である図書館を目指した。

 嫁が居たらこんな気分なのかな。




 ◇




「さーて、あると良いんだが……」


 図書館に来た俺は、受付の人に説明して俺の探しているジャンルの物があるかを確認してもらった。

 結果としてはビンゴ、図書館に来て正解だった。

 俺は目的の場所へ案内してもらい、本棚と向き合っていた。


「あれは確か……だから、そっから多分……」


 俺が探していたのは、六から八か月ぐらい前の新聞。

 それも一般的に有名な全国紙では無く、俺が住む地域周辺で取り扱われている地方紙。

 とある事件が取り扱われていないかを探っていたのだ。


「…………よし、この辺か。後は根気勝負だな」


 約二ヶ月間の物に絞っても、新聞とは毎日発行される物。つまり六十部ほどある。

 しかも新聞の文字は小さく、隅々まで調べようとすると一部読むだけでもかなりの時間を要する。

 それでも俺は諦める訳にはいかなかった。

 それも全部、レイの為に。




 俺がレイと出会ったのは約半年前。

 出会った時のレイは飢餓状態、すなわち長期間血が吸えていない状態だった。

 以前レイが話した通り、世話になっていた家を飛び出してから誰も襲っていないと考えると、レイがじいさんの血を吸ったのは大体この辺りの時期になるはずなんだ。

 俺が探しているのはその時の、レイを引き取ったじいさんが死んだ件が何らかの事件として取り上げられていないかって思ったからだ。

 レイとのデートの後、レイは普段の明るさを取り戻した。

 その一方で俺は知ってしまった。レイがあの明るさの裏にどれ程の後悔を隠していたのか。

 罪には罰を、なんて言える程正義感に燃えてはいないし、俺にレイを咎める権利はない。でも贖罪はレイ自身の為にもなると思っている。

 自分の過去の罪をきちんと清算できれば、レイの重荷も無くなるはずだ。

 過去の自分にけりを着けて、気兼ねなく未来を目指す事が出来る様に。


『実は……調べてる事があるんだけどさ。今年の冬にこの辺りで吸血霊鬼絡みの事件ってあったか?』


 この前ヒナに訊ねたのもこの件だった。

 当時は吸血霊鬼に対してなんの興味も無かった俺より、退魔師としてその辺りの情報にアンテナを向けていたヒナの方が詳しいと思ったから。


『うーん……確か無かったはずよ。少なくとも私の耳に入ってくるような情報は無いと思う』


 結果としては当てが外れてしまった。ヒナはある程度の地域の人から相談も受けているから、何かあったらすぐ耳に届くはずだ。

 事件になっていたらレイが魔族として処理されていたかもしれないし、匿うのも難しくなっていただろうから好都合と言えば好都合なんだが、詳しく知りたい今となってはそれが歯痒かった。




 図書館で調べる事数時間。

 ついに俺は辿り着く事が出来た。


「……無い。なんにも」


 ここ半年近く、この辺りは吸血霊鬼に襲われた被害者など出ていないと言う平和な結果に。


「まーじか、終わった……もうどうやって調べりゃいいのか見当もつかねぇ」


 ここまで調べて出ないとなると、いくつかの可能性が浮上してくる。


 一、レイに記憶を消された使用人たちが吸血霊鬼の被害だと提出しなかった。

 いや、これは薄いか。吸血痕って言うのは一目見ればすぐにわかる。たとえレイの事を忘れたとしてもそれが吸血霊鬼によるものって言うのはわかるはずだ。

 だがレイが顔を離す前に止血まで終えていたとすればありえない話ではないか?


 二、レイが別の地域から流れ込んできた。

 これはあり得るかもしれない。数週間から数か月、吸血霊鬼の身体能力と飛行能力があれば大抵の場所へ行けてしまう。

 ただそうなるともう調べようがなくてお手上げなんだが。


「事件にならなかったにしろ、別の地域にしろ、図書館でこれ以上調べんのは無理そうか……」


 仕方ない、出直すしかない。

 俺は集めた資料を全て元の棚に戻し、図書館を後にした。




 ◇




「……うげ、雨降りそうだな」


 外へ出て辺りが薄暗い事に気付いた俺は空を見上げ表情を引きつらせる。

 来た時は青空が見えていたというのに、今では不気味な黒い雲に覆われてしまっていた。


「傘持って来てねえしなぁ……あ、っていうかヒナ大丈夫か? 雨降ったら帰れんのかな……」


 軽い雨なら傘を貸せば問題なく帰れるだろうが、大雨になってしまったら傘を差しても外を歩くのには向かないし、雨の中一人で帰す行為自体気が進まなかった。


「とにかく、待たせてる事に変わりねえしさっさと帰……ん!?」


 急いで家に向かって駆け出そうとした時、視界の端にあってはならないものがある事に気付いた。

 人が倒れていた。


「ちょ、おいおいおい冗談じゃねえぞ!」


 大慌てで倒れる人に近付いた俺はその人物に大声で呼びかけた。


「おいじいさん、大丈夫か!? 意識あるか!? しっかりしろ!!」

「う、うぅ……」

「よかった、意識はあるか……」


 倒れていたのは高齢の男性だった。

 近年の真夏は老人が一人で出歩くにはあまりに危険すぎる猛暑だが、それでも事故が減らないのはこういう家でじっとできない人が多いからなのだろうか。


「とにかく、今涼しい所運んでやるから、もう少しの辛抱だぞ!」

「すまない……感謝するよ……」


 急いで老人を背負い、図書館へ逆戻りした。




「いやあ、助かったよ。少年のおかげで命拾いした」


 図書館に戻っても体調が戻らなかったら救急車かとも思っていたが、冷房の効いた部屋で休んだら見る見るうちに顔色が回復していった。見かけによらずタフな老人らしい。


「いいから水分もちゃんと取ってくれ。ほらスポドリ」

「何から何までありがとう。優しい子だね」

「目の前で人が倒れてたら誰だってああするよ」

「いやいや、さっき倒れている間に少なくとも四人は素通りしていったよ」

「おぉ…………」


 冷てえなぁ、現代人。


「それはそうとじいさん、なんでこんなクソ暑い中出歩いてたんだよ。あんま強い言葉使いたかねえけど、老人は涼しい家でじっとしてろって」

「ごもっともな話だ。だが私も無視できない用事があってね」


 老人の眼差しはとても強かった。先程まで干からびそうになっていたとは思えない力強さだった。


「……はぁ、そうかよ」


 俺も自分の用事で図書館に来ている手前、目的ある人間の邪魔をする気にはなれなかった。

 とはいえ自分の命を最優先にしてもらいたい事に変わりはないが。


「で、じいさんの用事ってなんなんだよ」

「……と言うと?」

「いや、俺が手伝ってやったらじいさんもさっさと家に帰れっかなって思ってさ」

「ほう」


 あまり面倒事に首を突っ込みたくはない。

 それでも、気付けば俺はそう申し出ていた。

 この老人の眼差しに何か自分と近いものを感じたからだろうか。

 自分の事を二の次にしてでも果たしたい目的がある、そんな意思を。


「ありがたい申し出だ。だがそう簡単な話でもないんだ」


 老人は俺に感謝しながらも、首を横に振った。


「もう見つかっていないんだ、何日も」

「探し物か?」

「人を探していてね。もう会えないかもしれないと思っているんだが、せめて生きてる間にもう一目見たくてね」

「うおぉ、縁起でも無い事言うんじゃねえよ」


 言葉だけを聞けば切実な願いのように聞こえるかもしれないが、顔が半笑いだった。老人のブラックジョークだろう。


「見かけたら連絡してやってもいいぞ。写真とかねえの?」

「写真は無いんだ。一枚もね」

「うーん、じゃあ名前は? なんて奴だ?」

「名前か……そうだな、名前は知っているが……」

「な、なんだよ」


 老人は俺の顔をまじまじと見て、ため息をついた。


「はぁ……多分言っても無駄だろうからね」

「ムカつくじいさんだな……言ってみなきゃわからねえだろ」

「それもそうなんだが……うーむ」


 老人は俺の言葉を聞いて少し考える様にひげを撫でていた。

 そして再度俺を観察すると、フッと微笑んだ。


「……確かに、ありえない話と諦めるには早いかもしれないね」

「お! なんだよ話わかるじゃねえか」

「では彼女の特徴を伝えておくとしよう」


 そう言って老人は探している人物の特徴を俺に説明し始めた。

 しかし探しているのは女か。若い頃の片思いの相手か、はたまたパパ活して逃げられた女子高生か。

 どちらにしろ可愛い所のある老人じゃないか、面白そうだし手伝ってやろう。


「彼女は少年と同じくらいの歳の外見をしている」

「高校生ぐらいね」


 変な言い方だな。同じくらいの歳でいいだろうに。


「髪はとても長くてね、若干癖のある髪だ」

「くせっ毛のロングね」


 梅雨の時期とか面倒そうだな。大体そういう奴って適当にまとめるのが一番楽とか言い出すんだよな。


「すごく美人でなぁ。胸や尻はそこまで無いが、バランスの良い身体をしておったよ」

「スケベジジイが」


 こいつ、もしかしてマジでパパ活女子高生追いかけてんのか?

 まずい、ヤバいやつ拾ったかもしれん、助けて。


「ああ、もっと肝心な情報を言い忘れていたよ」

「ケツの柔らかさとか言うなよ……?」


 俺の訝し気な視線を「ほっほ」と笑い飛ばすと、情報を続けた。




「彼女は目の覚める様な桜色の髪をしていてな、特徴的な真っ赤な瞳を持っておった」




「…………あ?」


 今までの老人が提示した情報を頭の中でイメージとして固めていた。

 ついさっきまでそれはぼんやりとした輪郭を持たないイメージだった。


「今、なんつった?」


 それなのに、最後に与えられた情報だけで。

 たったそれだけで、その人物の輪郭がはっきりとしてしまった。


「なんだ、少年も耳が遠いのかな。あまり大きな音で音楽を聴いてはいけないよ」

「俺の事はいいから、もう一回順を追って説明してくれ」

「いいとも、少年の頼みならそうしよう」


 老人は快く探し人の情報を再度並べてくれた。


「…………」


 俺と同年代の外見。

 スラっとしたモデル体型。

 髪は長く癖があって、ピンク色。

 特徴的な赤い瞳。

 何度聞いても、同じ内容だった。


「……なあ、じいさん。あんたそいつの名前知ってんだよな」

「もちろん」

「教えてくれよ。やっぱ名前がわからねえと探すのも大変だ」

「しかしなぁ……」

「いいから教えろって」


 俺の予想通りなら、この老人も知っているはず。本来その名前を教えた所で意味が無い事を。

 そんな事は百も承知で聞いているんだ。


「言うだけならタダだろ」

「そうだなぁ……命の恩人の頼みか。減るものでもないし、いいだろう」


 老人は最後まで渋っていたが、俺の熱意が伝わったのか、観念して重い口を開いた。






「私が探しているのは、鬼咲(キサキ)麗華(レイカ)という女の子なんだ」

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